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アトラクシアの死闘  作者: 夜乃 凛
第五章 バリアン遺跡の決闘
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23話 人の数だけの正義

「愚かな連中」


 シノが吐き捨てるようにいった。


「シノ、俺は行動派の考えにも一理あると思う。この砂の都では生活はしづらい。将来のことを考えて住む土地を変えるというのは自然なことに思える。人間は豊かさを求めるものだ。もちろん行動派に賛成というわけじゃない。穏健派の考え方のほうが好きだ。しかし、相手にも正義があるということを忘れてはならない。お互いが相容れなくても、寛容さを持ち相手を認めることも必要なことだと思う」


「わかってるよエリック。それくらい、わかってる……だけど行動派には勝たなきゃいけない。人の視点によって正義が変わることがあるってわかってる。しかし正義に打ち勝つ正義が必要なんだ」


 シノは街の人々を想いながらいった。


「エリック君もなかなか良いことを言うね。さて、ヴァルゴはどこかな」


 クイナはエリックに笑みを向け、行動派の長ヴァルゴを探しに行動派の群れに近づいていった。エリック達はその場で待っている。クイナの姿が離れていく。

 バリアン遺跡の決闘が始まるまであと少し。


 遺跡群の中央にクイナとヴァルゴ、それにエリック達と行動派の戦士が並んでいた。皆を取り囲むように砂が舞っている。遺跡は亡骸。ただひたすらに殺風景なその中で砂の都ノーバイドの運命を変える戦いが始まろうとしていた。

 行動派の長ヴァルゴはとても大きい体をしていた。動物のように赤い毛に覆われた筋肉質な体。黄色の着物を来ている。ヴァルゴは自信に満ちた表情をしていた。行動派の戦士たちはいずれもが逞しい姿で腕っぷしが強そうであった。


 しかしその中に一人だけ細身の男がいた。シノに似た黒い髪に真っ黒の装束。周りが筋肉質なだけにその男は弱そうに見えた。

 だがクイナはその男を見て表情を険しくしていた。エリック達もその男だけを注視している。

 エリックとローエンとシノは自然に集合した。


「ローエン、シノ、あの男をどう思う?」


「油断できない。僕は勝てると思うけど、あの男はまるで気配がない。元々気配がないんじゃない。自分で気配を消してる。僕達があの男に当たって一回負けてしまったら穏健派の勝利が危うい。何番目に出てくるか」


「私も危険だと思います。見た所、武器は剣ですね。どれほどの実力者か」


 エリック達が相談している間にヴァルゴは自信ありげな表情と共に話を進めようとしていた。


「よし、クイナ。決闘に出る者の順番を決めようじゃないか。同時だ。同時にお互いに順番を発表する。文句はないな?地面に倒れたら負けだ」


「承知。人を思いやれないお前たちには負けない!確かにお前たちの理想は豊かさをもたらすかもしれないよ。だが人を見捨ててまで享受する豊かさなんて偽りなんだ。そんなことにも気が付かないお前は馬鹿だよ、ヴァルゴ!さあ、みんな並ぶんだ!」


 クイナはエリック達に叫んだ。その声には決して負けられない決意がこもっていた。

 エリック達五人が自然に動き出した。

 一番。エリック。

 二番。ローエン。

 三番。シノ。

 四番目と五番目は穏健派の戦士。実力はエリック達よりはるかに劣っている。

 エリックは鋭く相手の順番を見ていた。あの男がどの立ち位置に来るか。

 行動派の者達も並び始めている。そして、黒の男はエリックの目の前に立った。

 一番目だ。一番の強者を最初に持ってきた。他の行動派の人物も並び終えたようだ。


「よーし、順番は決まったな!じゃあ一番から順番に始めっか。決闘者以外は中央から離れて見学だ。頼むぞシルヴァ」


 ヴァルゴは余裕の表情だった。そして黒の男をシルヴァと呼んだ。


「任せろ」


 シルヴァは淡々といった。

 エリックと向かい合うシルヴァ。他の者は離れていく。

 円を描く様に行動派と穏健派の観客が中央を見つめている。


「お前に言っておくが」


 シルヴァはエリックを指差した。


「豊かさがもたらす幸せがどれ程のものかお前たちは知らない。俺の家族はこの土地に苦しみ、この土地を恨み死んでいった。だが決して俺にだけはひもじい思いをさせなかった。お前たちに俺の恨みはわからない。この土地から離れるのが正解なんだ。ついてこられない者は置いていけばいい。一時の犠牲で今も将来も豊かになるんだ。俺は未来の子供達にも辛い思いをさせたくはない」


「間違っている。それだけの不幸を思い知ったのなら人が不幸になることもわかるはずだ。人の犠牲の上に成り立つ豊かさがどれだけ脆いかわからないのか?今確信した。お前には絶対に負けられない。人を踏み台にするような人間に俺は負けない」


 エリックは剣を抜いた。輝く銀色の剣。


「この土地の厳しさを知らないだけだ!人は誰かの犠牲の上に成り立つものなんだよ!理想論でも平和主義でも人は救えない!老人たちの屍を踏みつけてでも俺たちは移動しなければならない!全ては将来のためだ!」


「今いる人間を踏みつければ将来もまた人を踏みつける!人の命の重みを知らないお前には負けない!」


 エリックはシルヴァを睨んでいる。既に交戦の構え。

 シルヴァは左の腰につけていた剣を引き抜いた。

 バリアン遺跡の中央にはエリックとシルヴァがいるだけ。他のものは離れている。

 ローエンとシノがエリックを見つめている。


「よし!始めろ!クイナ、約束を忘れるなよ!穏健派はここで終わりだ!」


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