22話 99%勝てる
決闘の日が訪れた。空は快晴。鳥達の鳴く声は美しく吹く砂埃は音もなく舞っている。
行動派はこの砂埃の土地を悪と見ている。作物は限られたものしか作れず水を取るのにも一苦労な砂の都ノーバイド。この土地を離れればもっと豊かになれる。そう行動派は信じている。
変わって穏健派はこの土地に骨を埋める気でいる。確かに生活には苦労がかかる。しかし長距離の移動に耐えられない者がいるのだ。その人達を置いていくわけにはいかない。それに老人はこの土地に特に思い入れがある。先祖から受け継いだ大切な土地。そこには誰にも干渉できない思い出という名の宝があった。
両者共に譲る気はない。しかし無駄な血を流すほど愚かでもない。話し合いで解決しない事象を決闘という形で解決しようとした。今日がその日だ。
決闘の場所は砂の都ノーバイドを出てわずかに北にあるバリアン遺跡という誰も寄り付かない場所だった。そこには古代の建物と見渡す限りの砂しか無い。建物はとうに砂に埋もれて形を保つのが精一杯だった。
先にバリアン遺跡に辿り着いたのは穏健派のクイナ一行だった。戦える人物だけで来るからみんなは来なくていいとクイナは言ったが、穏健派の者たちは戦えないながらも一緒についてきた。その心情は理解出来る。未来のかかった決闘なのだから。
エリックは真剣な表情でクイナの後を歩いていた。後ろにローエンとシノがいる。
「ここがバリアン遺跡ですか。殺風景ですね」
「そうだね。ただ、もうすぐ人が増えると思うよ。行動派のやつらが押し寄せてくる。エリック君、もう一度聞くけど勝てるか?」
「勝てます。理想論でもなく希望でもなく勝ちます。強くなければ何も守れない。勝てなければ意味がない。俺の剣はそのためにあります。穏健派の主張を助けたいという気持ちもあります。しかし一番はクスハのためです。俺は必ず勝たなければならない」
エリックは硬い表情のままいった。
頷くクイナ。そして彼女は思った。クスハという人物を失った時エリックの強さはどこへ消えるのだろうかと。
「結構。ローエンは?」
「……負ける可能性があると思います」
「は?」
驚いて声を出したのはシノだった。
「勝てるって言っただろ!僕達は負けるわけにはいかないんだぞ!今更怖気づくくらいなら誘いを断ればよかったじゃないか!なんで気が変わった?」
シノはローエンに不満そうな表情を向けている。エリックも疑問の表情だった。クイナだけが真剣にローエンを見つめている。
「落ち着きなシノ。ローエン、なんで勝てないと思う?」
「相手を見ていないからです。例えば……相手がドラゴンだったとしましょう。勝てますか?負ける可能性があるというのは可能性の話です」
ローエンは考えていることがあった。エリックとシノは自信に満ちている。話に聞いた、時を止める剣とシノの瞬間移動があれば二人は確かに『9割』負けないだろう。
だがローエンは知っていた。経験していた。人間の驕りが悲惨な結果をもたらす事があると経験上わかっていた。ローエンは心の中では勝てると思っている。だがエリックとシノに対する忠告を出すためにわざと発言したのだ。
「クイナ様、こんな臆病者を決闘に出してもよいものでしょうか?エリックの言う通りです。勝たなければ意味がない。今からでも別の者に出てもらうことを進言します」
「いや、ローエンが正しい」
クイナはシノの言葉を突っぱねた。
「え!?何故ですか?勝てなければ意味のない戦いです!そこに必要なのは覚悟と絶対の確信であるはずです。その二つが無ければ理想だけの戦いになってしまいます。我々に必要なのは絶対的な勝利のはずです。クイナ様も絶対の勝利を望んでいるはずです。今一度お考えを……」
「油断するなって言ってるんだよ、ローエンは。確かに勝てると思っても、人間は油断をしちゃいけない。『絶対に勝てるという自信』と『絶対に勝てるという予測』は子供と大人ほどの違いがある。自信は自分だけのもの。予測は相手を観測してからの判断だ。シノ、お前は確かに強い。しかし油断すれば足元をすくわれる。わかるね?」
「わかります。そうですね、確かに……クイナ様の言う通りです。絶対に勝つという覚悟は変わりませんが、冷静に判断をしようと思います。確信がすぐ崩れ行くものだということはこの身に染みております。油断をしていていました。認めます。申し訳ありません」
「流石に飲み込みが速いね。謝らなくてもいいんだよ。そこがシノのいいところだけどね。エリック君もわかるかな?」
「確かに、わかります。先を急いで焦っていました。油断はしません。ありがとうローエン」
エリックは素直に認めた。ローエンはエリックとシノを見て安心したようだった。
「よろしい。さあ、敵さんのお出ましだよ」
クイナは振り返り接近してくる集団を見た。穏健派の群れとは違う雰囲気をまとった集団が近づいてきている。




