2話 砂の都ノーバイドへ
宿屋を出たエリックは辺りを見回した。乾燥した地帯である。砂煙が舞っている。ごつごつとした岩がそこら中に並びサボテンが生えている。振り返れば宿屋だがもう宿屋に用事はない。このような所に宿があって助かったなとエリックは思った。
エリックの目標地は砂の都と呼ばれるノーバイドという街だった。こんな荒れた砂地にいるのはそのためだ。何故砂の都ノーバイドを目指すのか?皇帝の棺がそこにあるわけではない。しかし旅に出る前に砂の都ノーバイドに手がかりがあると教わったのだ。エリックに皇帝の棺の存在を教えてくれた賢者から聞いたのだ。
考えてみれば雲を掴むような話だ。砂の都に到着したとして本当に手がかりがあるのか。無駄足ではないのか。しかしエリックは動かずにはいられなかった。何もしなければクスハはやがて死んでしまう。
賭けるしかない。
ほんの僅かな可能性でも。
彼女の笑顔のために。
クスハはいつだって優しい人間だった。だから目の前の理不尽に立ち向かわなければならない。
何故人は不幸になるのか。
何故人を不幸にするのか。
エリックにはわからなかった。しかし運命が決まってしまった以上、それに抗うしかない。どんなに苦しくてもクスハを助けたい。
彼は呪われたようにクスハを助けようとしていた。その呪いにエリックは気づかず、ただ歩んでいた。
乾燥した地帯を歩いているエリック。水はしっかり持っている。黒い装束でただ歩く。岩を横目に歩いていると看板が目についた。もう少し近づかないとなんと書いてあるのかは読めない。
エリックはその看板めがけて直進した。看板は人間に忘れられたかのように静かに鎮座していた。
『これより東 砂の都ノーバイド』
そう書いてあった。エリックは胸を撫で下ろした。なんとか砂の都までたどり着くことが出来そうだ。
腰の左側に付けてある袋から時計らしきものを取り出したエリック。方角を調べる羅針盤だ。
目的地は東。
羅針盤を握りしめエリックは東へと歩み始めた。