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甘栗愛名の過去上

 

 「ただいま」


 家に誰もいない事は分かってるが、帰ってくる時の挨拶は欠かさない。リビングの扉を開けて、置いてあった皿を電子レンジで温める。


 「なんであんな事言っちゃったんだろ」


 レンジの中で温めている皿を覗きながら。さっきの出来事を思い出して、自分が先輩に告白した事を思い出す。


 中学の時にも一度先輩を呼び出して告白しようとしたが、その時は勇気が出ず告白所か会話すらままならいまま、先輩を困らせてしまって後悔していた。




 中学生の時親の都合により転校してきてまだ数日。


 中学の授業は退屈で、紛らわす為にサボって探検していた。別に授業には出なくてもいいと言われているので、見回りの先生に見つかっても注意される事はなかった。


 「人間か」


 私と同じ制服を着ているが、制服の上から黒いマントを身に纏っていた。それが先輩と初めての出会いだった。


 「そりゃ人間ですよ。てかあなたも同じ人間でしょうに」


 「俺は人間じゃない古より復活した神の魂」


 「……は何言ってるんですか?」


 正気を疑ってしまい、目を細めて言ってしまった。


 「我が神の魂が告げているお前には悩みがあると」


 一瞬胸がどきりとする、確かに悩みがあるがそれは誰にも打ち明けた事などない。


 「おーい優人、お前こんな所にいたのか」


 「明智、その名で呼ぶな今の我の名は」


 「はいはい、そんなのいいから。早く職員室行くよ、お前また担任から呼び出しくらってるだろ」


 「退屈な授業など受ける気すらなら…おい放せ……!!」


 「はいはい、そんなの言いから。黙って付いてこようね」


 そのまま男子生徒に、襟首を掴まれ。ずるずると連れ去る様を見ていたら、笑いが込み上げてきた。


 「何あの人面白い」


 それから調べて先輩だった事を知る。


 「あの担任め。我のマントと包帯を取り上げるなど、世界が滅びてもいいと言うのか……」


 「おはようございます先輩」


 「なんだ貴様? 我を先輩と呼ぶ者などいないはずだが」


 さっきまでの不服の言葉はどこへいったのやら、決めポーズを披露する。


 「やだな昨日体育館裏で会ったじゃないですか」


 「……体育館なるものは知らぬ、昨日(さくじつ)は神の下僕召喚の儀式を行っていたに過ぎぬ」


 「先輩はやっぱり面白いですね、退屈だった学校がこれから楽しみになってきました」


 「人間に興味など湧くまい失礼する」


 そう言って、先輩は私の事をスルーして抜けて中学校の校門を通り抜ける。それを付近にいた生徒達が聞いていたようだが、先輩は気にせず上履きに履き替えて教室へと向かっていく。


 「先輩お昼ご飯一緒に食べましょう」


 先輩の教室に押しかけるが、もう既に先輩の姿はなく。先輩の席には、他の誰かが座り友人とお昼を食べていた。


 「あのー……? 鏡優人先輩ってどこに行ったか分かりますか?」


 「鏡? いや知らないけど、いつも昼は午餐の時間だとか言ってどっか行ってるな」


 先輩の席に座っていたクラスメイトに聞くと。どうやらどこか他の場所で、お昼を食べているらしい。


 「仕方ないな」


 中学の建物をくまなく探して、ようやく見つける事ができた。


 「せーんぱい」


 「また貴様か」


 「一緒にお昼食べましょう」


 「午餐なら済ませた」


 「だったら隣で食べさせてもらいます」


 三段重箱の風呂敷の結び目を解き、重箱を開ける、中身は米おかずデザートの三段で構成されていた。


 「先輩って友達いないんですか」


 「人間の友人など一人いれば十分だ」


 「だったら私ともお友達になってくださいよ」


 「……失礼する」


 先輩は少し黙っていたが、すぐに芝生から立ち上がり校内へと入っていくのを見る。


 「やっぱりそんな簡単にいくわけないよね」


 いつもなら私と話す為に人は簡単に寄り添って来るけど、あの人は私の事など一切知らず。それ所か孤高を決め込んで、人生を楽しんでいるようにも思える。それが羨ましく思ってしまう。


 「先輩」


 「またか」


 昨日と一緒で先輩が来るのを校門で待ち伏せていた。


 「優人の知り合い?」


 先輩の隣には先日先輩の襟首を掴んで連れて行った男子生徒が。先輩はその男子生徒の後ろに隠れてしまう。


 「君。最近学年で話題になってる、転校生だよね…?」


 「先輩、先輩これあげます」


 私は話しかけられたのを無視して、後ろに隠れる先輩に魔術書と書かれた本を手渡す。


 「これは人界に数百冊しかない古代の魔術書」


 先輩は手渡した魔術書を見ると驚き声をあげる。


 「その魔術書あげるんで、私とお友達になってください」


 「……いらん」


 「へ……? なんでですか。欲しいでしょこれ」


 「人間を容易く信用すれば痛い目をみる」


 先輩はそう言って校門を通り抜けようとするが、校門で抜き打ちの持ち物チェックをしていた先生に止められ怒鳴られていた。


 「優人と友達になりたかったら、そんな物で釣るんじゃなくて本音で話さないと」


 何故か先輩の事を一番知ってる風な口を聞いて、校門を通り抜ける。先輩とは違って先生に止められる事もない。


 「本音ってどういう意味ですか」


 私は昨日から先輩とお友達になりたくて近づいているのに、本音で話す? 意味が分からない。


 「おはようございます!!」


 「ああ……おはよう甘栗さん」


 少し怒り気味で、朝の挨拶をするが先生は私の事をさん付けで呼ぶ。


 「おはよう甘栗さん、今日も可愛いね」


 「どうも」


 「甘栗さんおはよう。机と椅子綺麗にしておいたよ」


 「はいはい、どうもありがとうございます」


 頼んでもないのにピカピカに磨かれた机と椅子の席に座る。もうすぐ授業開始だが、教室を抜け出し、先日先輩と初めて会った体育館裏に行くが先輩はいない。


 「先客か」


 「先輩やっぱり授業サボったんですね、駄目じゃないですか」


 「貴様もであろう」


 「何してるんですか」


 先輩はいきなり木の棒を手に取って、地面に何か線を描き始めた。


 「見れば解るだろう、神の召喚を取り行うのだ」


 先輩は首にかけていたペンダントを外して、描いた星の中心に置く。


 「これで本当に神を召喚なんてできるんですか」


 ひょいっと星の中心のペンダントを取る。


 「そのペンダントを今すぐ返せ」


 「えーだったら私とお友達になってください」


 この時の私は先輩の事を何も知らなかったから、こんなふざけた事を言い出したのだ。


 「やはり人間など信用する価値もない」


 「どこ行くんですか先輩」


 先輩はペンダントを奪い取るとそのまま体育館裏から去っていく。


 「あーあやっぱりこうなったか」


 先輩が去った後どこに隠れていたのか男子生徒が姿を現した。


 「朝の」


 「君さ甘栗さんだっけ……? 自分が何したか分かってる?」


 「え……私はただ先輩とお友達になろうと思って」


 「いや君がやってるのはただの自己中心的って言うんだよ。他人の事などお構いなしに自分勝手に振る舞う。君に優人と友達になる資格とかないと思うよ」


 「なんですかそれ自分だけが先輩を知ってるみたいに」


 「そうだよ。僕だけが優人の事を知っている友人、いや親友だ。君よりも昔から優人の事を見てきたし、何があったのかも知っている。なのに君はただ優人の名前ぐらいしか知らないだろ」


 「確かに今は名前しか知りませんけど、あなたよりも先輩の事詳しくなってみせます。絶対先輩ともお友達になって、あなたが嫉妬するぐらい仲良くしてみせますよ」


 「それじゃあ楽しみにしてるよ、僕の名前は明智美鶴。これからよろしくね甘栗さん」


 私は握手を交わすのを拒否して体育館裏から去る。


 「はは……嫌われちゃったかな? でもまぁこれから退屈せずに済みそうだな」

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