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後輩の涙


 急遽レジャープールの施設に来ることになり、男性用水着をレンタルして。男性更衣室で着替え終わると屋内へと入る。まだ夏にもなっていないのに、子連れの親子やカップルが週末に遊びに来ているのを目撃する。


「でもやっぱりそれ程人は入ってないんだな」


 屋内プールであっても、人はせいぜい数十人程度だった。


「お待たせしました先輩」


 聞き覚えのある声が屋内プールに響く振り返ると甘栗が軽快な足取りで俺の方に寄ってくる。


「どうですか先輩」


「どうってよく似合ってると思うぞ」


「もうそんなお世辞は結構ですから、先輩から見てどうですか」


「子供っぽいな」


 甘栗が着ていた水着は先程水着売り場で見たフリフリの花柄水着と似ていて、ワンピースの花柄水着を甘栗は着ていた。


「お待たせ」


 甘栗が来てすぐ元カノ笠羽陽子とお姉さんが水着に着替えて合流する。


「へー君って意外に腹筋割れてるんだね」


 いきなり笠羽陽子のお姉さんに割れた腹筋を触られる。


「いやこれは小中学生の時にやっていた筋トレの影響で、今も筋トレを続けてるからこれぐらいは普通ですよ」


「お姉ちゃん……」


「あはは……ごめんって。それじゃあ私はそこら辺で男でもナンパするからあとは三人仲良くねー」


 手を振りながら笠羽陽子のお姉さんは近くにいた男二人に声をかけに行く。


「それじゃあ何しようか」


「一つだけいいですか、先輩とどういった関係ですか?」


「どういった関係って……」


 笠羽陽子は俺を見る。


「……ただの同級生だけど」


「本当にただの同級生ですか?」


「それ以外にどんな関係だと思ったの」


「例えば先輩に酷い事をした人とか」


「そんな訳ない……!! あ……いや見た目で判断しないでほしい。私は優人君に酷い事はしてない」


「それはどうでしょう、今だって先輩はあなたと話す気すらないみたいですし」


「……私一人で遊んでるから、二人で楽しんで」


 笠羽陽子は持っていた浮き輪を持ち、近場の流れるプールへと一人で入っていく。


「先輩、最初はどこに行きますか……?」


「え? あ……まぁお前も一人で楽しんでこいよ、俺はそこら辺で泳いどくから」


「……先輩」


「ねぇ君可愛いね。これから俺達と一緒に遊ばない」


「止めて……!!」


「いいから、ほらこっちで一緒に遊ぼうよ」


「すみません、彼女俺の連れなんで」


 流れるプールから上がって歩いていた笠羽陽子は、チャラい金髪男達に絡まれていた所をそのまま連れてチャラい金髪男達から離れる。


「ありがとう優人君……でもさっきの子とはいいの?」


「いや少し君と話したくて」


「それじゃあそこの出店で何か食べながらでも」


「じゃあ俺買ってくるから何がいい?」


「えっと……焼きそばとオレンジジュースでお願い」


「了解じゃあ先に席取っといて」


 出店で焼きそば二人分とオレンジジュースを二人分購入して席を取っている、笠羽陽子を探す見つかったが笠羽陽子の真正面には甘栗が座っていて二人で何かを話しているようだった。


「お待たせ、で……なんで甘栗も一緒にいるんだ?」


「先輩。少しこの人とお話してただけですよ、それじゃあ私はこの辺で失礼します」


 笠羽陽子は何故か俯き、甘栗はそのまま立ち上がりウォータースライダーの方へと歩いて行く。


「それで話っていうのは」


「あのさ俺と君って別れたはずだよね、なのになんでこの前俺をレジャープールに誘ってきたの」


「それは……もし優人君の事がまだ好きって言ったらどうする……?」


「ははっ俺の事がまだ好き…冗談も大概にしてくれ……!!」

「俺はあの時とてつもなく傷ついたんだ。高校で初めて出来た彼女だったのに、君に冷めたちゃったから別れようと切り出された。なのになんで急にそんな事を言うんだ」


「優人君……」


「先輩に触れるな……!!」


「あ……」


「やっぱりあなた先輩に酷い事したんじゃないですか」


「違う!! 私はただ雑誌に書いてあった事を試しただけで。そしたら優人君の方からやり直そうって言ってくれると思ったから」


「だったら別れてもいいって訳じゃないでしょう」


「それは……」


 笠羽陽子が甘栗から責められている。普段甘栗が怒ったりした事など中学でも見た事はなかった、しかし見れば分かるが甘栗は今完全に怒っていた。


「あなたにとって先輩は都合のいい人かもしれない。けど私にとって先輩はかけがえのない存在なんです」


「都合よくなんかない……!!」


 途端に笠羽陽子から叫び声があげられる。


「私にとっても優人君は……」


「ちょっとちょっと……何喧嘩してるの」


 笠羽陽子のお姉さんが不安そうに駆け寄ってきた、見れば周囲からも何人か視線がこちらに向けられていた。


「いやなんでもないですよ」


 笠羽陽子のお姉さんの登場により一旦落ち着いたが、甘栗と笠羽陽子の仲は険悪になり二人とも会話すらないまま夕方を迎えた。


「それじゃあ私達はこっちだから」


「はい今日はありがとうございました」


 一応お礼を言って、笠羽陽子とお姉さんはレジャープール施設から帰り道を歩いて行く。残された甘栗を家まで送ろうとしようとしたが。


「先輩、今日は私の買い物にも付き合ってくれてありがとうございました」


「送ってくぞ? 買った服の荷物もあるだろ」


 てか今も俺が両手塞がれるほど持ってるけど


「あー……それじゃあお願いします」


 甘栗と隣り合わせになって歩く、甘栗は何か気になっているようだが、中々言い出さないでいた。


「何か聞きたいんなら言ってもいいぞ」


「先輩はなんでそこは鋭いんですかね」


「何か言ったか?」


 丁度車が通ったタイミングで、甘栗が言った言葉が聞き取れなかった。


「なんでもないです、それじゃあ先輩この前会った先輩の彼女さん、あれは本当に先輩の彼女でしたか?」


「……」


「黙ってるって事は嘘なんですね」


「悪いあれは」


「きっとあれですよね、今話題のレンタル彼女でしたっけ……? 彼女の振りをしてくれるサービスの事ですよね」

「私本当は先輩に彼女が出来た時、一番応援したいと思ってました。紹介された時も先輩の事を理解していて先輩にお似合いの彼女だなって考えてました。なのにまさか嘘だったとは」


「本当に悪い。お前と会う前日に別れようって切り出されて」


「だったら言ってくれればいいじゃないですか……!!」


「甘栗……?」


 甘栗の目から涙がポロポロと落ち叫び声をあげる。


「彼女と別れた。そう言ってさえくれれば、私はこんな気持ちにならずにすんだんです」


 甘栗はぎゅっと胸を抑える。


「ずっと、ずっと、ずっと、先輩の事が好きでした。中学で先輩と会って先輩の事を知っていって。なのに先輩は高校で彼女なんか作って……私は後輩として先輩の傍にいようって決心したのに」


「甘栗……お前」


 甘栗からとんでもない言葉が発せられるまさか甘栗が俺の事を好きだったなんて。


「言うつもりなかったのに言っちゃいました」


 甘栗は涙を流したままだが笑顔を浮かべる。


「もうここまででいいです先輩、それじゃあ」


 甘栗は両手から服の入った袋を奪いとって、そのまま見えてきた甘栗の家の方まで走る。今追いかけても俺には何も出来ないと感じ、気付いた時には自分の部屋のベッドで横になっていた。

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