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クッキー&コロッケ

 

 翌日学校に向かうと教室に行くのではなく、職員室に呼び出しを食らってしまい、先生から色々質問される。質問の内容は昨日のいじめの件についてだ、どうやら明智の奴、情報提供した俺の事を伝えていたようで、朝から担任も加わって誤魔化すのに苦労した。


「やぁ優人、大分疲れてるようだね」


「誰のせいだと思ってる」


「僕はただ優人の名前を口にしただけで嘘はついてないよ、それに情報をくれたのは優人でしょ。それとさっき上級生の女子生徒が教室までやってきて、優人に伝言。放課後屋上に来てだってさ」


 昼休みようやく解放されて、教室にやってくる事ができた。席に座って弁当を食べていた明智に恨み言を呟くと明智から伝言を伝えられる。


「上級生の女子生徒……?」


 放課後の屋上といえば苦い思い出があるが、上級生の女子生徒に呼び出される程、俺は上級生とは関係を築いていない。


「僕も見た事ない顔だったな、教室に入って来てクラスの男子は全員その人に振り返ってたよ」


 クラスの男子が振り返る程の美人だった訳か、だが余計に分からなくなった。どうしてそんな人が俺を呼び出したりするんだ。


「優人さん……!!」


 銀華が教室に入ってくると、俺の席まで一直線にやってくる。弁当箱が入った風呂敷を見て昼は教室ではなく他の場所で食べていたのだろう。


「今日の放課後、バイトはないって昨日言ってましたよね。よかったら放課後、買い物に付き合ってくれませんか?」


「悪い銀華、今ちょうど用事ができてな。放課後買い物に付き合うのは無理だ」


「そう…ですか、だったら好きな食べ物なんですか?」


「好きな食べ物か……?」


 いきなり聞かれても、頭に思いつく限りは。


「コロッケかな」


「コロッケですか……?」


「うん、大分昔に食べたコロッケが好きで。たまに食べたくなるんだよ」


「分かりました、それじゃあ優人さんが帰ってくる頃にはコロッケを沢山作っておきますから、早く帰って来てくださいね」


 放課後になり屋上に向かう、屋上の扉を開ける。だがまだ目的の人物は来ていないらしい、屋上のフェンスに近付いて部活がない生徒達が帰って行くのを目撃する。


「全然来ないな」


 携帯の電源をつけて時間を確かめる。あれから一時間が経過した。だが誰一人として屋上にやってくる気配がない。これはまさか明智に騙されたのか、いやあいつが嘘を吐く訳ないはずだが、それからまた一時間待ち。辺りは暗くなっていき、外で運動場を走っていた連中も帰り出していた。


「明智の奴、明日会ったら覚えとけよ」


 もう誰も学校に残っていないような時間まで、待ち続けたが屋上には誰も来なかった、さっき銀華から早く帰って来るように電話がかかってきたので、屋上の扉を開けて帰ろうとした時、あたふたする女子生徒を発見する。


「あなただったんですか、俺を呼び出したりしたのは」


「あはは」


 朝比奈彩は笑みを浮かべて頬を搔く


「それで呼び出した理由は昨日の件ですよね」


「その件も含めてなんだけど、本当にありがとう。それと今日知ったんだけど私をいじめてた女子生徒達が他の子をいじめようとしてた所を見つかって、停学処分になったみたいなんだけど。あなたは知ってる……?」


「それなら俺じゃなくて、親友の明智って奴が止めてくれたんで。お礼を言うならそいつに言ってやってくださいよ」


「ううん違うの、私はあなたにお礼がしたかったの」


「俺に……別に俺は大した事してないですよ。俺がしたことって言えば、あなたを保健室に運んで先生に事情を話したぐらいですから。それにそれだけ話せるなら安心しました、昨日は焦って電話を切られたようだったんで」


「えっとこれ」


 朝比奈彩からラッピングされた紙袋を手渡された中身を見るとクッキーが中に数枚入っていた。


「私の家貧乏だから、これぐらいしかできないけど。一応手作り、だから口に合うかどうか」


「そんな全然、俺女子の手作りなんて受け取ったの生まれて初めてですよ」


 素直に舞い上がってしまう。明智からは毎年手作りチョコをバレンタインに手渡されていたが、あいつは男だったからな。


「今食べてもらってもいいかな、感想とか聞きたいし」


 言われて一枚のクッキーを口に運ぶ、なんだか懐かしい味のような気がする。確か昔施設でよくクッキーを焼く女子がいたような。


「俺と朝比奈さんって昔会った事あります?」


 唐突に聞いてしまった、だが朝比奈彩は首を横に降って答えた。


「多分ないと思う、でもどうしてそんな事」


「いや、このクッキーの味が懐かしくて、昔クッキーをよく焼いてる女子と同じような味だなって、まぁ多分人違いだよね、こんな失礼な質問してごめんなさい、それとクッキーの味、俺好みで好きです」


「ならよかった」


 すると下の方から階段を上ってくる足音が聞こえてきた。


「きっと見回りの警備員だ、このまま見つかったら、二人揃ってお説教受けると思うので急いで外に出ないと」


 朝比奈彩の手を掴んで、そのまま足音がしない所から階段を下り、校門まで走る。


「あの……手」


 朝比奈彩に言われて手を離す。


「もう遅いし送っていきましょうか」


「大丈夫、家すぐそこだから」


 朝比奈彩が指を差したのは、古いアパート。いつも登校している途中、あのアパートを見るが人が住んでいる気配など全くなかったが、どうやら朝比奈彩はあそこに住んでいるらしい。


「今日はごめんね、ずっと屋上に出なきゃって思ってたんだけど中々勇気が出なくて」


「気にしなくていいですよ、それじゃあ俺はこれで」


「あの……!!」


 帰ろうとした時いきなり呼び止められる。


「今度時間がある時、お話したい事があるの……」


「今じゃ駄目なんですか」


「今じゃないかな、だってまだあなたの事全然知らないから」


 どうやら俺の事に関する話らしい、この流れは告白のような気がするがそれはないだろう。俺はそんなラノベ主人公の立ち位置にいるような人間ではない。


「だったらそうですね、一緒に昼でもどうですか」


「うん、それならあなたの事も知れるしいいね。だったら明日のお昼今日の屋上に集合でもいいかな」


「明日ですね分かりました、けど今日みたいに散々待たされるのは、もうこりごりですからね」


「うっ……努力する」


 どうやら朝比奈彩という人間を誤解していたらしい、この前甘栗に紹介した時とは違って、大分仲良くなれた気がする。


「優人さん」


 帰って来ると玄関で仁王立ちする銀華と会ってしまう。


「今何時ですか……?」

「夜の十時過ぎです」


 玄関に立て掛けて時計を見て答える。


「私昼休みなんて言いました」


 銀華はニッコリと微笑んで聞いてくる。正直今初めて、銀華が怖いと思ってしまう。


「えっとコロッケを沢山作るから、早く帰って来るようにって」


「はい、だから私言った通り、コロッケ沢山作ったんです。でも優人さん全然帰って来ないし、電話してからも一時間かかって帰ってくるし。今日の用事ってそんなに大事な事だったんですか?」


「そのまぁいいじゃないか。それより俺腹減ったよ昨日は全然食欲なかったのにな、銀華の手作りコロッケ楽しみだな」


 話を誤魔化してリビングに逃げようとするが、銀華は行く手を阻む。


「それ……なんですか?」


「え……それって」


 銀華に言われて、先程朝比奈彩から受け取った、手作りクッキーの紙袋を持ったままだった事に気付く。


「いや、これは」


「おいおい、何玄関で騒いでいるんだぁ」


 するとリビングから顔が真っ赤な父さんが玄関にやってきた。見れば分かるが完全に酔っ払っていて足もフラフラだ。


「ちょっとあなた、今いいとこだったのに」


 母さんもやってきた、いいとこまさか母さんは見ていたにも関わらず止めに入ってくれなかったのか。


「父様、今優人さんと真剣な話をしてるんです。邪魔……しないでください」


「はい」


 父さんは銀華の一言に完全に酔いが覚めて涙ぐみ。とぼとぼ歩いてリビングへと戻っていく。母さんはそのまま後ろからキラキラした目をして、こちらを伺っている。


「それで、それは誰から貰った物ですか。答えるまではここを通しませんよ」


「お礼だよ」

「お礼ですか……?」


「まぁちょっと人を助けたっていうか、そのお礼で貰ったんだ」


「その人の名前は」

「それは個人情報だから言えない」

「性別ぐらいは言えますよね」

「黙秘権は……?」

「その反応は女子ですね」


 嘘を吐いてでも男子と言うべきだったか、てかなんで銀華は手作りクッキーを貰っただけで、こんなに質問してくるんだ。


 すると銀華のポケットから、携帯の着信が聞こえてきた。


「こんな時に……誰ですか?」


 銀華はポケットから携帯を出して確認する。


「優人さん今回は見逃しますが、次はないですからね」


 そして銀華は携帯を持ったまま、二階へと上がって行く。


「優人」


 母さんがリビングに手招きする。リビングに入ると、机には大量のコロッケが積み上げられていた。


「銀華ね、優人に出来たて食べさせたいって言っていつ帰って来てもいいように一人でずっと作ってたのよ」


「そっか悪い事したな」


 まさか好きな食べ物を伝えただけで、出来たてを食べさせたいなんて。しかも沢山作ると言っていたが、これ程の量とは予想外だった。


「優人、責任持って全部食べなさいよ」


「は……!? これ全部?」


「当たり前でしょ、銀華私と父さんに一個も食べちゃ駄目って言ったんだから、このコロッケは優人が責任持って食べなさい」


「いや軽く七十個以上積み上げられてる気がするんだけど」


「正確に言えば八十二個よ」


「いやいや、無理無理……!! 手伝って」


「大丈夫優人ならやれる」


「俺そんな大食いキャラとかじゃないから」


 その日母さんに見捨てられた俺は、必死で銀華が作ったコロッケを三十個食べ、半分以上は明日食べ切るそう気合いを入れ冷蔵庫にしまう。

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