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友人に彼女を紹介する

 


 駅前の目立つ銅像前に待ち合わせの人物を待っているとその人物はすぐに現れた。


「はぁ、はぁお待たせしました。私、昨夜依頼を受けた朝比奈彩(あさひなあや)と申します」


 息を切らして待ち合わせ場所にやってきた人物は、長い黒髪をポニーテールにして、白のワンピースを着た清楚の女性だった。


「えっと……よく俺が依頼した人物だって分かりましたね」


 必要事項を記入しても顔写真は送らなくてもよかったので、送らずにいたのだが。


「えっと多分そうかなって思って、声をかけさせてもらいましたが。もしかして人違いでしたか……?」


 そういえば、待ち合わせ場所にしていた銅像前には、そんなに人もいないしそりゃ気付くか。


「依頼の確認なんですけど、友人に彼女を紹介するって記入されてたと思うのですが。彼女を演じればいいんですよね……?」


 そう昨日飛んできたチラシは、簡単に言えばレンタル人材サービスという物だった。まさか自分で使うとは思ってなかったが。


 別れた日に、元カノに明日友達に彼女を紹介するって約束してたから手伝って。なんて頼るのもどうかと思って、初めてこの人材レンタルサービスという物に頼ってみた。


 なんで嘘を吐いてまで友人に紹介したいかって、それはこの後やってくる友人の性格をみれば解る事だ。


「一応どんな感じの彼女を演じればいいのか、教えてもらっていいですか」


「普通に仲のいい感じで、多分一、二時間会話したら終わると思うので」


「それじゃあよろしくお願いしますね優人さん」


「なんで俺の名前……そっか記入したから」


 でも、いきなり名前呼びとか。やっぱ仕事だから慣れてるのだろうと考えて。彼女と数分間相談しながら友人の到着を待つ。


「なぁなぁ、いいだろ少しでいいからさ」


「しつこいですね、今から予定あるって言ってるでしょうが!!」


 いきなり持っていたオシャレな鞄を男の体に当てこっちに全力疾走で走ってくる女子の姿が。


「あー……先輩すみません遅れちゃいました」


 髪を整えて、こちらに向き直るオシャレな服を着た女子。


 そう今先輩と呼んだ女子が、今日会う予定の友人だったのだ。そしてさっきまでこいつに付きまとっていたチャラい男は舌打ちをして、俺達の方を通り過ぎた。


「てかお前なんか今日随分雰囲気違くないか」


「そうですかね……」


 顔を下に向けて答える。


「まぁいいや、ほらこちらが俺の彼女の朝比奈彩さんだ」


「へー先輩の話本当だったんですね、てっきり嘘かと思ってたんですけど」


「朝比奈彩です」


「中学で先輩の後輩だった甘栗愛名(あまくりあいな)って言います」


 今日会う予定だった友人は中学の時の後輩甘栗愛名。いつもウザ絡みしてくる後輩なのだが、性格から先輩後輩関係なく仲良くなるので学校中に友人がいるだとか。


 高校に通い彼女が出来た事を報告すると、いきなり紹介して欲しいと言ってくる変な奴だが。中学の頃は友人と呼べるのはこいつしかいなかったので仕方なく、その約束をしたのだが。まさかその前日に別れるなんて考えてもいなかった。


 そしてここで理解して欲しいのが、もしこいつに彼女と別れたなんて言ったら、多分次の日からウザイ文面でメッセージを送って気そうなので。今日は人材レンタルサービスを利用してでも、こいつに彼女がいることを証明するしかなかった。


「とりあえず立ち話もなんだし、そこの喫茶店で話そうか」


 待ち合わせ場所から近くにある喫茶店に三人で入る。


「てか先輩髪切ったんですね」


「え? ああそろそろ前髪が邪魔になってきたからな」


「てかお前、自分から彼女を紹介してくださいって言ってきたのに全然興味なさそうだな」


「えーそんな訳ないですよ、興味ありますって。朝比奈さんは先輩と同じ高校なんですか?」


「そうね同じ高校よ」


「そうだったの!?」


「なんで先輩が驚いてるんですか……?」


「いや別に」


 注文したカフェオレのカップを持ち飲む、まさか同じ高校とは思わず驚いてしまった。てかこんな美人高校にいたっけ。


 二週間も通えば先輩ともすれ違う機会が多いがこんな美人を同じ高校で見た覚えがなかった。


「二人はもうキスとか済ませたんですか」


 甘栗の不意な質問に、飲んでいたカフェオレを吹きそうになるが堪える。


「あ、その反応まだみたいですね」


 甘栗はイタズラ笑顔を浮かべる。


「まだ付き合いだしたばっかりだからな」


 カフェオレを飲んで甘栗の質問に答える。まさかこんな質問をしてくるとは思わなかったが、答えとしては一番マトモな答えだ。


 それからたまに甘栗から質問されながら朝比奈さんと話を合わせ答えていく。


「先輩には勿体くらいの彼女さんですね」


 お昼頃甘栗は質問が無くなったのか、それとももう興味が無いのか、話を切り上げ三人で喫茶店を後にして。

待ち合わせ場所にしていた銅像前に戻ってくると。甘栗は側に駆け寄って来て朝比奈さんに聞こえないよう耳打ちする。


「うっせ」


 そして甘栗が手を振って帰っていくのを見送る。朝比奈さんと二人きりになり真正面に向かい合う。


「今日は助かったよ、値段ってこれぐらい」


「そうね」


 財布から諭吉を二枚朝比奈さんに手渡す。正直これは手痛い出費だが一応先週からバイトを始めたのですぐに貯められる金額でもある。


「それじゃあ」


「ちょっと待って同じ高校って言ってたけど何年生?」


「あなたにそれを言う義務があるのかしら」


 朝比奈さんの態度が急に変わる。さっきまで穏やかだった朝比奈さんの顔は俺を睨んでくる目に変わった。


「またのご利用お待ちしております」


 朝比奈さんは営業の言葉を投げかけて歩いていく。


「まぁあっちも仕事だしな」


 最初に会った時に好意的に接していたのはきっと好印象を与える為のような物だ。


「まぁ多分これでもう会うこともないだろう」


 多分同じ高校ってのは嘘なのだろう、だってあんな美人がいれば学校中噂になっているだろうし。きっと話を合わせる為に嘘を吐いたに決まっている。


「……帰るか」


 昨日に引き続き今日も嫌な気持ちになってしまう。


「はあぁぁぁぁぁ……」


 長いため息を吐いて帰り道をとぼとぼ歩いていく。明日はゆっくり休んで今日と昨日の気持ちを忘れようそんな事を考え家に着く。

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