いじめ
昼休み今日は母さんが俺の弁当を作り忘れたので、学食か購買で何か買って食べるように金を渡されていた。残った金は小遣いにしていいと言っていたので、購買でパンを買って安く済ませた。
教室に戻ってくると、俺の席の前明智の席は銀華が座っていた、どうやら明智はどこかで昼食を取っているのだろう。
「おかえりなさい優人さん一緒にお昼食べましょう」
「えっとこの席の明智は何処に行ったか知ってる……?」
「さっきお弁当箱と思われる風呂敷を持って、女子生徒複数人連れて教室から出て行きましたけど」
朝の噂について少し聞きたかったが、仕方ない今日はバイトもあるし明日聞くか。
「先輩ー」
席に着いた瞬間、教室前の扉からこちらに声をかけて手を振ってくる甘栗が現れる。
「お前帰ったんじゃなかったのか」
さっき購買に買いに行く途中に甘栗が学年主任と歩いている姿を目撃したので、てっきり帰ったと思ってたのだが。
「ちょうどお昼だったんで食べて帰ろうかなって思って学年主任の先生に話をしたら許可貰ったんで。さっき購買で色々買ってきたんですよ。先輩のクラスは前に教わってたんで、もしかしたらいるかなーって思ったんですが来て正解でした」
甘栗は席まで来ると出来事を話す。
「食べるにしても、ここじゃなんだからどっか別の所で食べるぞ」
二人によってクラスの視線が集まってくる。目立つのもそれ程好きじゃないので、二人を連れて屋上に行く。この前と同じで屋上にはギャル達の姿が、だが笠羽陽子の姿はそこになかった、いつもならギャル達と昼を食べていたはずだが今日はいないのか。
「ここなら変に目立たないし大丈夫だろ」
屋上の空いていたベンチに座る甘栗と銀華は俺を間に挟んで座る。
「目立つって一体何の事ですか……? 先輩」
「いや明智から聞いたんだが、朝二人と登校してた時の出来事で俺の事が噂になってるらしい。さっきも教室から視線集まってたの気付かなかったのか」
「そうなんですか、私先輩を見つけて舞い上がってたので気付きませんでした」
「一つ聞きたいけど二人は中学の先輩後輩って話だったよね、なのになんでそんなに距離感が近いの」
「銀華には言えないけど、まぁ色々あってな」
多分甘栗の距離感が近い理由は様々あるだろう、最近告白してきた事か、それとも中学から続く関係だからなのか、だがここで銀華に言っても別に意味はないので黙っておく。
「私も銀華さんに聞いていいですか、なんで昨日急にいなくなったりしたんですか」
「別に甘栗さんには関係ない事だから」
「先輩と銀華さん昨日より話すようになってますよね、昨日は話してる所一切見なかったのに、なんで今日はそんなに話せるようになってるんですかね」
「甘栗、実はな」
「今は先輩には聞いてないので黙っててください」
甘栗が少し怒っているように見える。確かに昨日は銀華が見つかったメッセージしか送ってないし、しかも甘栗を一人で遊園地から帰してしまったので怒っていて当然か。
「銀華さん……答えてくれますよね」
「私と優人さんはただすれ違ってただけ、それで昨日二人ともすれ違ってたのを知って話すようになった。あなたにはそれだけ言えばいいでしょ」
「それにしては随分進展したみたいですけどね、優人さんですか……」
「ああ、それは俺から頼んだんだ。優人兄様よりはそっちの方がマシだったから」
二人の話がヒートアップする前に食い止める。
「そうですか、なら私も先輩の事、優人先輩って呼んでもいいですよね」
「それは前にも話しただろ、ダメだ」
「なんで銀華さんはよくて、私は名前で呼ぶのダメなんですか」
「そりゃ」
「ねぇちょっとあんた」
急にさっきまでベンチで昼を食べていたギャル達が、俺に声をかけてきた。
「最近よーこ学校に来てないんだけど、あんたなんかした……?」
よーこと言うのはきっと笠羽陽子の愛称だろう。
「いや、何もしてないし、俺は知らないけど」
「だから言ったじゃん。もうこいつとよーこの関係は終わってるんだから知るわけないって」
「聞いてみただけでしょ、悪かったわね邪魔して」
ギャル達はいつの間にか昼を食べ終わっており、屋上から立ち去って行く。銀華の事で色々バタバタしていたので気付かなかったが、確かに最近笠羽陽子を見かけなくなっていた。
「少し遅くなったけど昼食べるか」
そう言ってら甘栗と俺は購買で買ってきたパンの袋を開け。銀華は弁当箱の蓋を取り、母さんが作った弁当を食べるのだった。
「それじゃあ先輩、またファミレスで」
「じゃあな」
銀華は先に教室に戻って、俺は甘栗を校門まで見送りに来ていた。チャイムが鳴るギリギリで教室に到着したが、教室内には誰もいない。黒板を見ると午後の授業は視聴覚室集合とデカイ文字で書かれていた。
「そういや今日はビデオ見るとか担任が言ってたか」
思い出して必要な物を持ち、教室から出て視聴覚室に向かう。その途中女子トイレから女子生徒達の笑い声が聞こえた。すぐに女子生徒達が女子トイレから飛び出てくるのを見る。そしてその後ろから制服をびしょびしょに濡らした女子生徒がゆっくりと歩いて行く。
「あんた、なんでここにいるんだ……!?」
女子生徒の顔に見覚えがある。それは何故か、この間甘栗に紹介したからだ。
「ああ、君か」
「おい大丈夫か!?」
いきなり倒れそうだったので駆け寄って肩を貸す。このまま放っとく訳にもいかず、一度職員室に行き。先生に事情を話して保健室のベッドで休ませる。
「で、その女子生徒達の顔は覚えてるか?」
「覚えてます。多分あの人と同じクラスメイトか同級生なはずです」
「そうか」
先生はいきなり、生徒名簿を取り出して見せてくる。俺は先程女子トイレを飛び出して行った、女子生徒達を指差す。
「一応事情だけは聞いてみるが、きっとまた訳は話さないだろうな、後は私達に任せてくれ」
もう授業も遅刻しているので、今さら行っても授業が終わる頃だろう。俺と話していた先生が、後で授業担当の先生に訳を話しておくと言ったので問題ないだろう。職員室を後にし、一度保健室まで女子生徒の様子を見に行く。
「彼女ならまだ寝てるわよ」
保健室に入ると養護教諭が机で書類を書いていた。
「そうですか」
「これで三回目」
「何がです……?」
「彼女がずぶ濡れで保健室に来たのがよ、その他にも教科書を無くしたり靴も隠されたりしてるのを聞いたわ」
「イジメですよね」
これだけ聞けば俺でも分かる。
「けど彼女自身何にも話さないから対処しきれないのよ」
「なんで…別に話さなくても先生達が動けばいいじゃないですか」
「でも、その現場を私達も見た事がないからそんな簡単に動けないのよ。彼女自身も耐えてはいるみたいだけど、人間なんてのはいつか枷が外れて何をするか分からないあなたもそれだけは覚えておいて」
養護教諭から大事な事を教わった気がした。保健室から出ていく。正直これを使うとは思ってなかったが、あの女子生徒には前に付き合ってもらったので、そのお返しだと思い俺は二年の教室へと急ぐ。