三人で遊園地へ
「ただいまー」
「お帰り、そうだ優人ちょっとこっち」
帰って来て早々にリビングにいた母さんに呼び止められる、すると母さんは着ていたエプロンのポケットから何かを取り出し手渡してきた。
「何これ?」
「週末予定とか無かったら、銀華連れてこの遊園地に行って来て」
「……まじでいやでも多分俺嫌われてると思うし」
「まぁまぁ銀華と仲良くなるきっかけになると思って。銀華の方には私から伝えておくから、それじゃあよろしくね」
「おいおい、まぁ予定とかないけど一体どうすればいいんだ」
そんな事を考えていたら、いつの間にか週末になっていた。
「先輩、先輩。銀華さん不機嫌な顔してますよ」
「いや、けどやっぱり。二人きりで遊園地ってのは少し行きづらくてさ明智にも声かけたんだが、なんか遠慮したみたいで」
「ふーん、私よりも先にあの人に声かけたんですか」
「そりゃ明智とは同じ高校に通ってるし、親友なんだから当然だろ」
「はぁ」
「何だため息なんか吐いて、なんか悪い事言ったか?」
「いいえなんでもないです」
結局鏡銀華と二人で遊園地に遊びに行く事に耐えれなかった俺は甘栗に頼み込み三人で遊びに行く事になったのだが、鏡銀華の顔を見たらいつもの倍くらいに機嫌が悪い。
「そうだ先輩、ここの遊園地にまつわる伝説って聞いた事あります」
「伝説……? 普通遊園地って楽しければいいんじゃないのか」
「ここの遊園地、夜に好きな人同士である場所に行くと結ばれるって噂があるんですよ。まぁそのある場所ってのがどこか知らないんですけど」
「何だそれ、本当の話なのか」
「怪しい所ですけど、ネットでは結ばれてるって方の方が多いみたいで」
「まぁ、そんな伝説真に受けない方がいいぞ。誰かが勝手に流したデマの可能性もあるし」
「……そうですよね……でももし先輩と行けたら」
誰にも聞こえないように呟いたつもりだったが、隣から銀華さんの鋭い視線を感じる。まさか先輩の事が好きだって気づかれたかな。
「おい、甘栗あれ見ろ」
先輩はいつもより甲高い声をあげて私を呼ぶ。先輩が指差した方向には、遊園地でも一二位を争う絶叫系ジェットコースターが真上を通過する。
「先輩大袈裟ですって」
「悪い……こんな所来るの施設に居た時ぐらいだから」
「ごめんなさい」
「なんでお前が謝るんだ?」
「だって先輩施設にいた時の事をあまり話したがらないから」
「気にするなよ、そりゃ施設の時は色々苦労したが。今は幸せにしてくれる家族の元にいるんだから」
「……そうですよね」
少し甘栗の顔が落ち込んだように見えたが気の所為だろうか。
「どうした……?」
鏡銀華が急に服の裾を掴んできたので止まる。
「あれ……乗りたい」
そう言って鏡銀華は、先程真上を通過して行ったジェットコースターの入口を指さす。
「うぅぅ……」
「怖いなら手でも握るか?」
隣に座る甘栗の手は少し震えていて甘栗は何も言わず安全バー越しに差し出した手を握った。
「まさか甘栗が絶叫系が苦手だったとはな」
ジェットコースターを乗り終えた俺達は、ドリンクを買ってベンチで休憩をとっていた。ジェットコースターに乗っている時の甘栗は、聞いた事がないくらいの声量で叫び、途中から俺の耳の鼓膜が破れるんじゃないかと感じた。
「私も遊園地に来るの久し振り過ぎて、自分が絶叫系苦手なの忘れてました」
「じゃあ次はゆっくりした乗り物でも乗るか……?」
「そっちの方が助かります」
そしてコーヒーカップ、メリーゴーランド、観覧車などを乗った後昼食を取ろうと遊園地にあるファストフード店に入る。
「結構混んでるな」
「ですね」
「じゃあ俺が注文してくるから二人は席の確保頼むよ。何食べたい」
甘栗から一通り注文を聞く、鏡銀華は置いてあったチラシを手に取って指を差す、二人は席の確保に向かい、長い行列に並び少し時間がかかったが注文した料理を受け取る。
「先輩こっちです、こっち」
「あれ……? お前だけか」
テラス席に甘栗の姿を見つけたがそこに鏡銀華の姿はなかった。
「銀華さんならお手洗いに行きましたよ」
「そうなのかじゃあ先に食べてるか」
鏡銀華には悪いが甘栗と先に食べ始める。
「本当に今日は悪かったな急に誘ったりして」
「別に構いませんよ、今日は何の予定もなかったので。それよりも先輩見てたから思うんですけど。銀華さんとはあまり仲がよくないんですか」
「ああ、俺が家に引き取られて数ヶ月したら海外の大学に飛び級したから、仲良くしようにもあっちから嫌われてると思うし」
「別に先輩が気に止む必要なんてありませんよ」
「でも……母さんから仲良くなるきっかけにって、今日は遊園地に来たんだけどな」
甘栗と話ながらも食べ終わったが鏡銀華はお手洗いから一度も帰ってこなかった。