甘栗と放課後デート
「初めまして私少しの間この学校でお世話になる鏡銀華と申します」
それは朝学校の授業が始まる前に突然起こった事。
担任からいきなり知らされた事により、教室中騒ぎになるが、別に俺は何とも思っていなかった。だが入ってきた人物はよく見知った顔であった。
「へー。鏡さん海外の大学に飛び級して通ってるんだ、でもなんでこの高校に……?」
「少しの間だけここの授業を受けたくて。それで海外の大学には休学届を提出してこの高校の授業を受けれるようにしてもらったんです」
「でもここの授業、鏡さんの気に入る授業とかないと思うけどな」
「おーい授業始めるぞ。さっさと席つけ」
教室の扉をガラッと開け入ってきたのは一限目の授業の担当教師である。
「それじゃあこれを……鏡解いてみろって……そうかこのクラスに鏡は二人いたか、鏡優人解いてみろ」
担当教師の授業は淡々と進んでいき、あと数分で終わる所でいきなり名前を呼ばれる。黒板を見ると予習しておけば簡単に解ける問題である。
「これでいいすっか……?」
チョークを手に黒板に問題の解いを書くと担当教師に問いかける。
「ふむ正解だ」
担当教師は何か言いたげの様子だが、そのままチョークを置き席へと戻る。
「ねぇ、鏡君ってあんな難しい問題解けたっけ?」
「さぁ? あいつあんま自分の事話さないし。けど確か入学試験で明智の一つ下の二位だったて噂は聞いた事あるけど」
「嘘……!! 明智君と一緒位頭がいいって事!?」
授業中にも関わらず、ヒソヒソ話をする生徒が数人。そしてその視線は俺の方に、だがそんなの気にする程でもない。
「優人、今日の放課後一緒ゲーセンでもどう……?」
「悪いけど今日は先約があるんだ」
「先約……? そう、だったら明日は空けといてね」
「おう悪いな」
昼休み明智の放課後の誘いを断る、明智はそのまま風呂敷を持ち教室から出ていく。明智は入学してから一年生にして生徒会に入っている。この高校で一年生で生徒会に入っているのは明智だけらしい、そして今日は一週間に一度ある生徒会の会議のようだ。会議がある日は生徒会役員全員が集まり、会議の前に昼食を済ませるらしい。
「さーて今日はどこで食べるかね」
俺も風呂敷を持ち教室から出て行こうとしたが、教室の一角に男子生徒達が集まっているのを目撃する。その一角は、朝転入生としてやってきた俺の家族で義妹。鏡銀華の席のようだ。
「鏡さん。俺と一緒に昼食べようよ」
「あ……結構です昼食は一人で食べるのが好きなので」
誘っていきなり振られる一人の男子生徒だが、負けじと他の男子生徒が誘うが同様に振られるのを目撃する、何も言わず教室から出て、誰も来ないであろう非常口階段の扉を開け外へと出る。
「いただきます」
座って風呂敷を解き弁当箱の蓋を開け手を合わせる。
「……ここにいた」
誰も来ないと思っていたのには語弊があった。ここは彼女と初めて出会った場所で、告白された場所であった事を思い出す。
「久し振りに一緒に食べてもいい……?」
元カノ笠羽陽子が俺の隣に座る、何も言わずに弁当箱のおかずを食べ始める。その隣で笠羽陽子も、購買で売っているおにぎりの包装紙を、ぺりぺりと破り小さい口で一口食べ進めるのを隣で見る。
「ごちそうさまでした」
笠羽陽子は隣で食べ終わったおにぎりを袋にしまう。
「優人君またさここで食べてもいいかな……?」
「別にここは俺一人で占領するつもりもないし、食べたかったら勝手にどうぞ」
「うん……ありがとう」
笠羽陽子はお礼を言って、立ち上がり入ってきた非常口の扉から出て行く。まだ昼休みは少し残っていたので立ち上がって階段の手すりから空を見上げる。
「まだ彼女に未練でも残ってんのか俺は」
もう終わった関係なので関わる事なんて思ってなかった元カノ笠羽陽子の事を考える。考えてる間にいつの間にか残っていた昼休みの時間が終わり、チャイムが聞こえてきた急いで非常口の扉から走って教室まで戻る。間一髪まだ教室には担当教師も来ていない様子だ、席に着き授業の準備を始める。その後も問題なく授業は続いていき放課後になり帰る支度を始める。
「鏡さんこの後時間あるかな……ちょっと話したい事があるんだ」
教室に入ってきてのは、名前は知らないがこの高校でも人気のある三年の生徒で、サッカー部のキャプテンであった。そいつは鏡銀華に声をかけるが、その後ろには女生徒を大勢侍らせている。
「あー今日は少し用事があるのでまた」
鏡銀華は走り去って教室から出て行く。
「振られちゃったか、でもまだ機会は沢山あるし」
「斎藤君元気出してあんな子放っておいてこれからカラオケ行こうよ」
「うん、そうだね僕は君達に囲まれて幸せだよ」
「優人放課後用事あるって言ってなかったけ」
「え……ああ……! そうだった。それじゃあまたな明智」
明智に挨拶してそのまま俺も走って教室を出る。
「待たせたか……?」
「先輩、全然待ってません今来た所です」
「おお……そうか」
「それじゃあ先輩、放課後デートに行きましょう」
甘栗は平気で腕を組んでくる。昨日の夜、突然甘栗からメッセージで放課後デートしてくださいと送られてきた時は驚いたが、断る理由も思いつかなかったので誘いに乗った。
「それで今日はどこに行くつもりなんだ」
「これです……!!」
甘栗は組んだ腕を一旦離すと鞄に入っていた財布からチケットを取り出す。
「映画か、しかもこの映画今日までじゃん」
「そうなんです。ずっと気にはなっていたんですが一人で行くのは」
「確かにこういう映画って一人じゃ観にくいよな」
甘栗が見せてきたのは、最近話題のミュージカル映画の前売り券であった。
「それじゃあ私チケットに変えてくるので先輩ここで待っててくださいね」
映画館に着くと甘栗は早速受付に行く甘栗に言われた通り待っている。
「あれ……」
見知った顔を見た気がするが一瞬で人混みで消えた。
「いや…まさかな」
「先輩変えてきましたよ……ってどうしたんですか先輩?」
「いや知り合いに似た顔の持ち主を見たんだが、多分ありえないだろ」
そう、第一あいつは男だ。ずっと小学生の頃から見てたんだし女のはずがない。
「てか先輩、この映画上映が夕方しかなくて、もう始まるみたいなんです急ぎましょう」
「そうなのか、まぁ最初は予告だし。そんな急がなくていいんじゃないか」
「予告ってなんですか」
「え……お前まさか映画館来たことないの?」
「はい、来るの自体初めてですよ」
「だったらなんで前売り券なんか持ってるんだ? 映画の前売り券は映画館に来ないと買えないはずだが」
「前売り券は、父の提携先の社長から、頂いた物らしく。私は父から前売り券を貰ったんです」
「そうか、それじゃあ甘栗の言う通り急ぐか。初めての映画館なら予告を観る事自体新鮮でいいからな」
入場ゲートに映画館のスタッフがチケットを確認している。俺と甘栗も列に並びチケットを確認してもらう。館内はまだ明るく、映画の予告が始まったばかりらしい甘栗が取ってくれた席は俺が好きな真ん中の席を取ってくれたようだ。
「へー、これが映画館の席なんですね」
甘栗は席に座って色々見て回る。すぐに館内が少し暗くなり映画の予告が始まる、黙って隣を見ると甘栗は初めて観る映画の予告に、嬉しさを隠せないのか甘栗は笑っていた。