銀華は仲良くしたい
「たっだいま」
るんるんと言った様子でリビングに入ってくる父様。理由は大体検討がつく。
「お帰りなさい父様、お仕事大変だったでしょう」
ニッコリ笑顔で、リビングに入ってきた父様に労いの言葉をかける。
「いやーまさか本当に銀華が帰って来てるとは」
「まさか、私が父様と母様に嘘なんかつく訳ありませんよ」
「あれ……優人の姿が見えないけど」
父様はリビングを見渡し、ここにいない。もう一人の家族の名を呼ぶ。
「今日は疲れたからって言って、もう部屋に入って休んでるわ」
「そうか、まぁ銀華そのな。優人とも仲良くやってくれよやっとこの家に馴染んできたんだから」
「父様に言われなくても、仲良くしようとしてはいるけど」
「銀華は素直じゃないからね、優人と話したいのに緊張して中々上手く話せないらしいわよ」
「だったら今度一緒にここに行って来たらどうだ」
「これ昔家族で行った遊園地のチケット……?」
「ああ、上司から貰ってな。丁度二枚あるし優人と仲良くなるきっかけを作るチャンスだろ」
「でも私から誘うのは……」
「しょうがないわね、私から優人に頼んでみるからそれなら優人と一緒に行けるでしょう」
「ありがとう母様」
「全く十二歳にして、海外の大学に飛び級してる子の悩みが、歳上男子との接し方で悩んでるなんて」
「別に優人兄様以外だったら、仲良くしてる男子はあっちでもいるんだから」
「はいはい、そうゆう事にしときましょう。それで銀華今回はなんでまた急に日本に帰ってきたの? 何時もならもっと前もって連絡してくるのに」
「それはその……優人兄様彼女ができたって聞いたから……」
「またあの子から聞いたのね」
「な、な、な……!? なんで分かるの」
「そりゃ銀華の電話番号知ってるの、私達家族を除いたらあの子だけでしょう」
母様はやれやれといった顔をする。
「うぅぅ……だっていつも通り暇だったから電話かけて話してたら。急に優人兄様に彼女が出来たって言うんですもん。気になり過ぎて、いつの間にか大学の方に休学届を出してまで日本に帰って来たんですから」
「それを優人の前で言えるなら。簡単に仲良く出来ると思うけどな」
「父様は黙っててください」
「ごめんって銀華」
父様が謝るのを無視して、私はリビングから出て二階へと向かう。前までだったら私の部屋だった扉には、優人と書かれたドアプレートが立て掛けられていた。
数回ノックしたが返事がないので、勝手に扉を開けて部屋の中に入る。
「優人兄様。私は帰って来ましたよ。なのに何故、一言もおかえりと言ってくださらないのですか?」
私の兄になった人物は、すやすやと真新しいベッドで寝ていた。
「これが優人兄様の彼女……?」
勉強机には教科書、ノートの他に優人兄様の携帯があり電源をつけて写真アプリのボタンを押すと。優人兄様が撮ったと思われる、風景の写真や食べ物の写真が複数枚表示される。そして一番下までスクロールして、ある写真を見つける。タップして一枚の自撮り写真が表示された。そこには笑顔の金髪女子と若干引きつった笑いの優人兄様が飲み物を持って写り込んでいた。
「私の優人兄様を取った挙句、こんな仲睦まじい写真まで」
優人兄様が私に微笑んだ事があるとすれば数回だ。初対面の時と目が合った時。
最後に優人兄様が私に微笑んだのは、私が海外の大学に旅立つ時の空港が最後だろう。
「こんな女性なんかに、優人兄様を渡してはいけません。先ずは情報収集からとしましょう」
こっそりと立ち上がり優人兄様の部屋から出ると、隣の部屋へと移動する。そこには私愛用のパソコンが置かれていた。早速キーボードを押し、優人兄様が通う高校のホームページを見る。