明智の頼み事
あれから一日が経って朝になった、寝ていた間に甘栗からメッセージが届いていたようだ。
そのメッセージには、昨日の件について書かれていて。いつか答えが欲しいという事だった。
「おはよう優人」
「ああ……おはよう明智」
「どうしたの何か思い詰めてる様子だけど」
「いや、なんでもないんだ」
「そう……?」
「それとさ優人今日の放課後暇?」
「放課後かまぁ暇だが」
「だったらさ今日ちょっと付き合ってよ」
放課後、明智の頼みで近くの喫茶店に連れてかれた。
「いやー本当助かったよ。明智君、急に塾の模試があるからシフトに入れなくなるって言ってたから。人手が欲しくてね」
「いえそんな別に明智にはよく世話になってるので」
「少しだけどバイト代も弾むからさ」
「ありがとうございます」
どうやら明智は隣にある塾で今模試の試験中らしい、そして急遽明智の代わりに、俺が喫茶店のバイトに入る事になった。
「すみません店長、遅れ……ちゃって……」
そして喫茶店の扉から慌てて入ってきた人物を見て驚いてしまう。それは俺の元カノ笠羽陽子も同じようだ、お互いに立ち尽くしている。
「笠羽さん、おはよう」
「おはようございます」
「今日ね、明智君がバイトに来れない代わりに入ってもらった鏡優人君ね。でこちらは先週からうちでバイトを始めた笠羽陽子さん」
「そうなんですね」
まさか笠羽陽子がここでバイトしてるなんて知らなかった、もし知っていたら明智の頼みも断っていたかもしれない。
「すみません、注文いいですか?」
「はーい少々お待ちください」
笠羽陽子は喫茶店の制服に着替え、お客が食べた皿を片付けている途中に他のお客から声をかけられている。
「鏡君。これ奥のお客さんの所運んで」
店長に呼ばれ、すぐにカフェテーブルに置かれた皿を持って奥のテーブル席へと近付く。
「お待たせ致しました。こちら春の山菜パスタでございます」
お客の前に持ってきた皿を置き、会釈をしテーブル席から離れる。
「やっぱり鏡君手際いいね、是非今回だけとは言わず。うちでバイトとして雇いたいぐらいだよ」
「流石に掛け持ちでバイトは少しキツイので」
「へー他の所でバイトしてるんだ、何処なの……?」
「駅前にあるファミレスです」
「えーうそ!! あそこの店長とは同級生なんだよ。最近会ってないけど元気にしてる……?」
「元気ですよ。従業員からも信頼されてますし、相談事もし易いので、頼れる店長って感じです」
「そうなんだよね、昔から頼り甲斐があるって言うかさ」
「店長、話してる暇ないですよ。もうすぐあの時間です」
「もうそんな時間か、鏡これからもっと忙しくなると思うから覚悟しておいてね」
笠羽陽子が慌てて厨房に入ってくる、覚悟一体何が起こるというのだ?
「すみません四名なんですけど」
すると高校生か中学生か分からないが男女四人が制服姿で喫茶店に入ってくる。
「四名様ですね。どうぞこちらのお席へ」
笠羽陽子がすぐに対応しに向かう。そしてまたすぐに制服姿の男女が、喫茶店の扉を開け入ってくる。
ものの数分で、喫茶店のテーブル席は制服姿の男女達で埋まり。カウンター席の殆ども制服姿のメガネの男子で埋まる。先程まで珈琲を飲みながら食事をしていたスーツ姿の男性は食べ終わると、同時に会計を済ませ喫茶店から出ていく。
「隣が塾だからね、終わって復習の為にここの喫茶店に集まる中高生が多いんだよね。おかげで繁盛してる訳だけど」
理由を聞いてもいないのに、勝手に独り言を喋る店長。だが注文された料理を淡々と完成させていく。数十分後塾の授業が終わった明智が、喫茶店の扉から入ってくる。そのまま更衣室に向かい制服に着替え店長と同じ厨房に入る。
「店長、手伝いますよ」
「ありがとう明智君、やっぱり一人で厨房はキツいね」
「あいつって料理できたっけ……?」
長い間付き合ってきたが明智が料理している所など見たことがない。
「優人。突っ立ってないで他のお客さんの注文早く渡して」
「ああ、分かった」
明智の指示で動く、それから数時間経ち喫茶店は閉店時間を迎える。
「鏡君、今日は本当にありがとう。これ少ないけどバイト代ね」
「こちらこそありがとうございました」
店長から封筒を受け取り学校の鞄の中に仕舞う。
「それじゃあ店長お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様」
笠羽陽子は俺と店長が話していた横を通り過ぎる。
「優人追わなくていいの……?」
「だから前にも言っただろ。俺と彼女はもう終わったんだ」
明智からの問いかけに答えて、俺と明智も喫茶店から出る。
「今日は助かったよ、おかげで模試の試験も塾に通う生徒の中で無事一位を取れたし」
明智と途中まで会話しながら帰るとコンビニに見覚えのある顔が二人雑誌に載っていたのに気付き立ち止まる。
「優人……?」
「なんでもない」
すぐに明智に声をかけられ、歩き始める。
「てか、笠羽陽子と同じバイト先なら先に言っとけよな」
「ごめん、ごめん。今日が一緒のシフトだった事思い出したのは模試の試験中だったからさ、また今度お詫びに何か奢るからさ」
その後も明智と何の変哲もない会話をしながら、分かれ道がやってくる。
「それじゃあ、また明日学校でね」
「おーう」
明智と別れ、家が見えてくる、珍しく母さんが外に出ていた。
「あ、丁度よかった」
「何かあったの……?」
「えっと貴方には内緒にしてたんだけど今日あの子が帰って来るのよ」
「あの子……それってまさか……!?」
「母様……ただいま」
キャリーバッグを転がし、こちらの方まで一直線に走ってくる長い銀髪の美少女は、着くと同時に母さんに抱き着く。
「おかえり銀華」
母さんは銀華に声をかけるが俺は何も言えなかった。
「母様、ここにいては風邪を引いてしまいます。早く家の中に入りましょう」
「そうね、今日は銀華の好きなお好み焼きを用意してるから早く中に入って温かいうちに食べましょう」
「わぁーい母様大好き」
そのまま母さんと二人家の中に入っていく。俺は銀華に置いていかれたキャリーバッグを転がし家の中へと入る。