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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

高校に入って共同生活を始めた男だと思っていた幼馴染の弟分が実は美少女の女の子でした

作者: 竜頭蛇



俺ーー阿仁正吾(あにしょうご)には弟のように慕っている幼馴染がいる。

名前は尾当瑞稀(おとうみずき)

幼い頃、学校は別だったが両親同士が仲がいいこともありよく遊んでいて、あいつはいつも俺の後をついてきていた。

気づけばいつでもどこでも一緒にいたし、そんな瑞稀のことを年は違えど俺は唯一無二の親友だと思っていた。

中学になると、初めて始めた課外活動の部活が思いの外忙しがしく、時間的余裕がなくなって物理的に接触する機会が皆無になり、疎遠になったが、思いがけず高校になり再会することになった。


母の話によると、瑞稀の身長が低いから俺が勘違いしていただけで瑞稀は俺と同い年で、なおかつ俺が弟分と呼ぶのは勿体無いぐらいの優等生らしい。


『あんた、尾当さんのとこと節約のためにアパートを一緒に借りないかって話が出てるんだけど、どう? 優等生のあの子の影響を受けてバリバリの真人間になれるわよ』


瑞稀の話が終わると、母は県外の高校ということもあり、アパートを借りる必要があったためそう切り出してきた。

真人間の部分に関しては文句を言いたいが、気のいい瑞稀と一緒に暮らすというのは実に楽しそうな話だったので二つ返事でOKした。

それから両親同士の取り決めが終わると、入学の一週間前からアパートでの共同生活が始まった。



ー|ー|ー


そして現在、俺と瑞稀の共同生活が始まって二ヶ月くらいが過ぎ、今は金曜の夕方。

学校から帰宅した俺は共有のリビングで動画投稿サイトの動画を見ながらソファでゴロゴロしていた。

瑞稀は部活はしていないが、生徒会活動を手伝うとかで帰りは遅く、帰ってくるのはもう少し後だろう。


『ホモあるあるなんですけど。ホモってまずブラジャーとパンティーから入るんです』


「いや、そんなわけないだろ」


自称ゲイのオネエ系動画投稿者がそんなことを言って、混同のしすぎだ馬鹿馬鹿しいと思っていると、扉を開ける音がした。

どうやら今日は早めに生徒会活動が終わったらしい。



「おかえり、今日は早いな」


「早く終わったから」


「いつも遅いのに今日はラッキーだな」


「うん」


瑞稀はそう言葉少なに答えると俺の後ろにあるキッチンの方に足を運んでいくのが気配でわかった。


距離感が遠い……。

昔ならばあちらから近づいてきて、「何してるの?」と言ってこちらを覗き込んでくることの方が多かったというのに、今ではこうやって話しかけなければ会話さえ起こらないことがしばしばだ。

ただでさえ学科が違い、学校でも接点が少ないというのにこれでは溝が大きくなるばかりだ。


再会する前は全く持って瑞稀が変わってることなど考慮に置いていなかったので、共同生活が初まったばかりの時は面食らった。

瑞稀の見た目が、幼い頃とは大きく変わり、少年ぽい感じから美少女と見紛うような美形になり、内面もそれに伴い、どこか人懐こいそれから凛とした洗練されたものに変わっていたのだから。


ごく稀に幼い時の残滓のようなものを見せることもあるのだが、本当に稀だ。

休日だろうがいつも制服を着ていることが関係しているかどうかはわからないが、いつも警戒して壁を造られているような気がしないでもない。

本当は昔のように戻って欲しいという願望はめちゃくちゃあるが、現在の努力の果てに洗練された瑞稀を否定するようで、兄貴分としてはそれを強制することはできなかった。

今俺がしなければならないことは今の変わってしまった瑞稀と腹を割って、仲良くなることだ。


「なあ、瑞稀、急だと思うんだが、一緒に風呂に入らないか?」


「ふぁ、ふぁい!?」


前、動画投稿サイトで不和の上司と部下が裸で語り合うことで心の中のわだかまりを解消することに成功したという海外のドキュメンタリー映像を見たこともあり、そう切り出すと、瑞稀は素っ頓狂な声をあげ、ペットボトルを落とす音が聞こえた。

懸念としては持ってはいたがやはり急に距離を詰めすぎたようだ。

流石に動画のようにすんなりとはいかないか。


「ああ……、いきなりごめんな!びっくりしたよな。忘れてくれ」


「……お風呂入ってくるね」


瑞稀はどこかしゅんとした覇気のない声で言うと俺のいるリビングから退室した。

距離を詰めすぎて心の壁がさらに分厚くなったかもしれない。

その証拠に今日はあいつの家事当番の日で、いつもは洗濯もの畳、夕飯作りをして全ての家事を終わらせてから風呂に入るというのに、今日は俺から離れるためか全てをすっ飛ばして風呂に直行している。


「うまくいかないな」


動画を見ていたタブレットを顔から離してソファの上で脱力すると、外に干されているタオルが目に入った。

まとめ洗いをしている都合上、そういえば今日はタオルが枯渇するタイミングだった。

今脱衣所にはタオルが存在しないはずだ。

タオルを持っていてやらなければいけない。


外に干されているタオルを取って畳んで、脱衣所兼洗面所に持って行く。

すると風呂のドアの掠りガラスから男にしては妙に艶かしい腰のシルエットが見え、なんだか見てはいけないものを見たような気がして目を背けてしまう。

体まで黄金比率を保っている美形とは恐ろしいものだと思いながら、着替えの上にタオルを置こうとするとあってはならないものが目の前に飛び込んできた。

女性用の下着ーーブラジャーとパンティー。


『ホモってまずブラジャーとパンティーから入るんです』


頭の中の思考がストップし、オネエの言葉が脳内でリフレインする。

自慢の弟分がそんなまさかと思いつつも、昔美系の俳優がバイセクシャルであることをカミングアウトしていたことを思い出して、ないこともないかもしれないと思いはじめてきた。

とりあえず、オネエの話によるとまだホモ第一段階だ。

おそらくまだ間に合うはずだ。

兄貴分として、弟分の気の迷いを晴さねばならん。

脱衣所のパンティーとブラジャーを回収すると、洗面所の下の戸棚に保管してあるストック用の俺の未使用のボクサーを取り出し、着替えの上に置く。


「ふぅ……」


一仕事終え、安堵の息を吐き、ブラとパンティーをどうしようかと考えると、これ以外にもブラとパンティーがある可能性に思い至ってしまった。

おそらくそいつは瑞稀の部屋にあるに違いない。

瑞稀が気づく前に火急的速やかに処分しなければならない。


足音を立てないように、急足で今まで一度として入ったことのない瑞稀の部屋に入る。


「な、ん、だと……!?」


あまりの光景に手に持っていた下着を地面に落としてしまった。

だが拾っている心理的余裕ははない。

なぜならそこには今のクールなあいつには似つかわしくないファンシーなぬいぐるみの置かれたベット、ブラとパンティーだけが干されたハンガーフックがかかったカーテンレール、分厚い日記の置かれた机があったからだ。

この部屋はブラとパンティーを俺にバレずに洗濯するサイクルを確立し、なおかつもはや女の子のものとしか思えない仕上がりになっているのだ。


「第一段階じゃあねえ……! 既にあいつは最終形態になっている……!」


もはや気付かずに処分できる類のものではない。

一体いつからだ?

いつからこんな具合に。


早く解決せねばならんという焦燥から、俺はわらにも縋る思いで、机の上に置いてある日記に手をかける。


『一月一日

 しょう兄のことが好き。

 一月二日

 しょう兄のことが好き。大好き。

 一月三日

 しょう兄のことが好き。大好き。世界一好き。

 一月四日

 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きーーー』



「ぎゃああああああああああああぁ!!」


恐ろしく早いタイミングで拗らせている!

あまりの真実に衝撃を受け、たたらを踏むと、水気を含んだものが肩に触れた。


人の手の形……。


「しょう兄、見たね……」


「見ていないゾ。俺は何も見ていない」


首をフルフルとやり、否定をする。


「ああ、ちょっと予定を思い出した。外に行かなきゃ」


今は頭が混乱しているし、冷静に瑞稀と接することができない可能性が高い、一度外で落ち着いてから、今の瑞稀と話合わなければ。


「行かないで!」


戦力的撤退をしようとすると、俺の腹に手がまわされ、取り押さえられた。

弟分を突き飛ばすわけにも行かず、どうすればと思っていると背中に抱きついている瑞稀の感触がおかしいことに気づいた。

これだけ密着して、肌とタオルの感触までするというのに、まず真っ先に感触を感じるだろう漢にしか存在しないものの存在を感じない。

それに漢には存在しないたわわなものが背中にあるのだ。

ここから導き出せる答えは一つだ。


「瑞稀、お前女の子だったのか!?」


「そうだよ……、幻滅した? しょう兄は僕をずっと男の子だと思ってて、女の子だとわかったら今までしょう兄と一緒に培った時間が全部台無しになって嫌われるんじゃないかと思って……」


瑞稀が女の子だということも衝撃だったが、こいつがそんなことをクヨクヨと悩んでいたのにも驚かされた。

今までの凛とした態度から俺のことなど、歯牙にもかけていないか、嫌っているのかもしれないと思っていたが、俺と同じ気持ちだったとは。

足を一歩伸ばして仲良くしたいけど、大きく踏み出して、現状を大きく変えて嫌われたり、自分が傷つくのが怖い。

そんな感情をこいつが持っていたとは。

同じ気持ちを抱えて、悶々としていた俺がこいつにかけられる言葉は一つだけだ。


「嫌いになるわけないだろ。お前が何者であろうと、過去に俺があったことのある瑞稀なら俺はお前が大好きだよ」




ーーーー




必要だったのはたった一言だけだったんだろう。

瑞稀は休日だろうが制服だったのが、あれから体のラインのでるラフな服装に代わり、気軽に話かけてくれるようになった。


「ちょっと最近生徒会の仕事が疲れちゃったな」


今はソファにだらりと寝転がり、脱力している。


「無理するなよ」


今日は俺が家事当番でキッチンにいたこともあり、片手間に茶を入れて持っていてやると口を綻ばせて、「ありがと」と返してきた。


「ついでに頭を撫でて」


それは男ではなく、女の子だと知っている今は少し気恥ずかしかったが、頭を撫でてやった。

撫でられてうっとりした顔は小動物のような感じでかわいい。


俺はずっと兄貴分と慕って瑞稀は俺と一緒にいたと思っていたが、あの日記を見た後だと本人はそうじゃなかったかもしれないと思う時がある。

こんな風にかわいい女の子と付き合えるなら、悪くないというよりも万々歳だが、ひとまずは俺は昔と同じ状態に戻れた今が一番落ち着いた。


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