表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ガードレール

作者: ムルモーマ

死体アンソロジー「つめたいあなた」

に寄稿した作品です。掲載から規定の半年が経過したので公開。

twitter: @anthology_cold

 買い物の帰りに首吊り死体を見た。

 人が幾許か集まって騒ついていると思えば、それだった。大木から伸びた、人の重さに耐え得る太い枝に男が首を吊っていた。

 その人から一定の距離を取って、多くも少なくもない数の人がそれを眺めていた。

 自分もそれに向かって気付けば歩いていた。怖い物見たさでもあり、野次馬根性でもあった。

 ある程度まで近付くと、その死体がはっきりと見えて来た。

 倒れている小さめの脚立。だらりと伸び切った足。膀胱の役目を果たせなくなり濡れている茶色いズボン。水色のシャツ。項垂れて口を開けた、生気の無い顔。風に僅かに揺られているその全身。

 ここからでは分からないが、口周りには涎の痕があるのだろう。尻からは糞も漏れ出しているかもしれない。

 葬儀の時に見るような整った顔もしていない、生のリアルな死体。言っては何だが、新鮮という言葉が思い浮かんでしまった。

 死にたて、鮮度たっぷり!

 そんな失礼極まりない事を思ってしまっていると、遠くからサイレンの音が鳴り響いてきた。

 警察が来たのだろう。

 色々と面倒な事になる前に退散する事にした。


 帰り道をいつものように歩きながらも、体が僅かに震え始めているのに気付いた。加えて、心も。

 死体の醸し出す強烈な雰囲気にあの場の誰もが呑み込まれていた。思考を茶化したのはそれへの防衛本能だったのかもしれないと思う程に。

 何故自殺したのかは暫くの間ニュースを追い掛けていれば分かるだろうと思いながらも、その男が何故死んだのかを考えたりしてしまう。

 思考が吸い寄せられていく。コロナが蔓延るご時勢だ、商売が成り立たなくなって自殺した人はもう既にニュースで報じられていた事があったし、きっとその可能性が一番高いだろう。

 他にもつい最近では、一人暮らしの家事の出来ない老人が人付き合いと夕食を兼ねて食事処に行っていたのが制限されてしまった、というのも見たりした。

 それも有り得ると思えた。何にせよ想像に過ぎないが、同じ都内と言えど、どこぞのロンドンのベイカーストリートが名前の由来となった架空の町のように殺人が簡単に起きる土地でもない。だから、自殺だろう。

 息を吸って、吐いた。二度、三度と。その偏った思考も吐き出してしまえれば良いのにと思いながらも、その程度では思考は凝り固まったままだった。

「いつまで続くかな……」

 今日は日曜日だ。明日は仕事だ。リモートワークが出来る環境で更に今は閑散期だった。仕事も大してなく、時々質問に答えたり小さなハプニングを解決する以外はゴロゴロしていればそれで金が入って来る。

 ただ、だからと言って好き勝手に出来る訳でもない。チャットツールから来るメンションへの反応が遅れればサボっている疑惑を抱かれるし、それがスマホから確認出来るとしてもパソコンを弄らなければ解消出来ないものならば自宅に居なければいけない。

 意識の数割かはずっと仕事に向けていなければいけない。

 それすらもしたくなかった。ただただ、ぼうっと自分の好きな事をして気を紛らわしたい。けれど、そうしていても脳裏に首吊り死体は思い浮かぶのだろう。風に僅かに揺れる、俯いた首吊り死体。とびきり新鮮で糞尿に汚れた首吊り死体。

 この記憶が表層から失せる為には何をするにせよ時間が経つのを待つしかないだろう。そして経験則から言えば、表層から失せてもその死体の事はふとした瞬間に思い出す。あの一、二分の記憶は、死ぬまで頭から完全に消える事は無い。ほぼほぼ確実に。

 遊ぶ事にすら集中出来ないのに有給を使うのならば、仕事をしている方がマシなように思えた。


 アパートへと戻った。鍵を開ける音がカコンと響く。扉を開けて靴を脱ぐ。

 傾き始めた日の光が窓から差している。大学時代から使っている冷蔵庫から雑音が鳴っている。ベッドの上、万年床にぐちゃぐちゃになった毛布。雑誌からゲームのコントローラ、パソコンまで雑多なものが置いてあるテーブル。隅に積み上がった洗濯物。

 いつも通りの部屋の中が妙に鮮明に感じられた。ホラー映画などで明るい廃墟に入った時のように。

 人が恋しくなる。ネット上で繋がるものではなく、親しい人が近くに居る空間が欲しかった。ただ、近くに友人なども住んでいない。このコロナの情勢では親に電話でもしようかと思い、スマホを手にした。ただ、その前に冷蔵庫に然るべきものを入れなければいけないと思い直した。途中で付けていた使い捨てマスクを捨てた。

 その後に電話を掛けた。

「もしもし、何かあった?」

「えっと、うーん、うん、首吊り死体を見ちゃってね」

「え、ええ?」

 親からは労うような言葉がぽつぽつと出て来る。座って会話が長く続く。日は気付けば強く傾き始めていて、電気を付けた。

 いつもは気に掛けさえしない電気を付ける音すらも耳に入った。

 それからもう暫く会話をした。

「また電話する?」

「……必要だったらこっちからするよ」

「そっか、ゆっくり休んでね」

「うん」

 もう、夜に近かった。

 カレーを作ろうとしていたけれど作るにはもう遅かった。米も浸水させたまま炊いてもいない。それにそんな事をする気力も無かった。

 近くのコンビニまで行ってカップ麺でも買おうと思った。

「あ、マスク……」

 捨ててしまった外に出る為の免罪符。

「まあ、良いか」

 立ちション位の罪に免罪符は要らない。多分。そう思いたい。


 湯を沸かし、カップ麺の蓋を開く。その内電気ケトルからこぽこぽと音が鳴り始める。完全に沸騰するまでの間に小便をして手を洗う。

 自分の一つ一つの動作に感覚が鋭敏になっている。その原因はやはり、首吊り死体を見たから、その死というものに近付いたからだろう。死に近付いたから、自分が生きている事を実感しなければ元の場所に戻れない。

 そんな今より生きていると実感していた時はあっただろうか?

 電気ケトルの電源が勝手に切れる。完全に湧き上がった合図。カップ麺に湯を注いて蓋を閉め、残りの湯を捨てる。ベコンと音が鳴らないように、排水溝に直接。

 色々と思い返してみたが、無かった。自殺しようとした時でさえ、ここまでの実感を抱く事は無かっただろう。多分。

 カップ麺をテーブルに運び、三分経つまでの間、座椅子に座って隣のパソコンでネットサーフィン。ぼんやりとディスプレイを眺めながら、その自殺しようとした事に対して深く思い返していた。

 ただ、自殺しようとしたと言ってもそんな深刻な自殺未遂まで行く事もなく、ちょっとカッターで手首を切ってみたり、首にちょっと体重を掛けてみたり、その程度だ。

 太い血管までカッターの刃が切り裂く事もなければ、いつでも止められる姿勢で試しに首を吊った程度で、メンヘラやらファッション自殺やら、そう形容される類のものだ。

 ただ、その時々は本当に思い悩んでいた。

 高二病の極みのようなネガティブ思考に偏っていた時。嫌な事が続いた事と嫌な事ばかりをどうしてか思い出し易い自分の記憶力が相乗して自尊心を抱けなくなった時。半ば、いや、九割九分が今思い返したら恥であるような記憶。

 パァン! と手をグーとパーで叩いた。忘れられるならば忘れたい記憶だ。叫びたくなるし、自分を殴りたくなる。何かをして気を晴らさなくてはいけなかった。

 ただ、自分は不器用な事に嫌な事程忘れられない体質なようで、思い出そうとしなくともふとした時に無作為に思い出してしまう。

 慣れたものでも、人が居る場所で思い出してしまった時はそんな手を叩く事も気軽に出来なくて困る。

 三分程が経つ。カップ麺を開いて、蓋はゴミ箱に入れてしまい、箸を手に取って食べる。

 麺を啜る。熱々のスープを少し飲む。

 安物の陳腐な、けれど美味しい味。偶に食べるにはとても美味しい。

 結局、何だかんだありながらも自分はまだ生きている。その時々の精神状態が鬱に価するものなのかも結局知らないまま、仕事をして、好きな事をして、飯を食って寝て起きてその繰り返し。

 今は少なくとも、そんな悩みで悶々としていた時よりは幸福だ。

 スマホから音が鳴った。家族からメールが来ていた。帰ってくれば? という旨の短い文章。帰れば精神的な安定も得られるし、リモート作業が出来るから仕事も困らない。

 でも、今はコロナの影響もあるし、緊急事態宣言の自粛を破ってまで帰る程辛くもなかった。

 大丈夫、と短く返して、カップ麺の容器を洗って台所のゴミ箱に捨てた。

 台所のゴミ箱も数日で蓋を開けた瞬間に臭いが飛び出してくる、そんな温かさになっていた。


 ゲームのコントローラを握ったが、今熱中しているのは基本的に一人用のものではなく、オンラインで見知らぬ人と競い合う対戦ゲームだった。集中出来ないままにただただ連敗を重ねる結果になりそうで、そのまま置いた。

「はー…………」

 酒でも飲もうかと思う。日常生活じゃ基本的に飲まないが、このどうにもならない気分を抑えるにはそういう物に頼るしかないように思えた。

 缶詰などを置いてある場所に、確か数年以上放置してあったビールかハイボールか、そんなものがあったはずだ。丁度ハイボールが一本だけあった。

 缶をそのまま開けると炭酸が抜ける音がする。常温のまま飲んだ。

 温く、大して美味くもないそれを半ば勢いで、二、三回で飲み干した。缶を洗って玄関に置いて、ちょっとふらつきながらも座った。

 頭が軽くなるような感覚が来ても、酔うような事まではなかった。思考は正常に働き続けている。ただ、その代わりに少し眠くなってきた。

 眠ろうかと思う。まだ時間としては早過ぎるが、この勢いに任せて寝られてしまえば一番良かった。

 さっと歯磨きをして、明かりのスイッチに手を掛ける。

「……」

 明かりを消すのには多少抵抗があった。起きていたい気持ちもあるが、起きていたからと言って何も良い事は無い。出来る事も無い。

 スイッチを押して一気に暗くなる。都会だから室内がぼんやりと見える程度ではあるが。ベッドに倒れて横になった。明日は仕事だ。目覚まし時計のアラームをオンにする。

 憂鬱だが、何をしてもこんな気持ちが続く位なら出社している事にしようと思う。

 目を閉じる。外からは人が歩く音が聞こえてきた。二人の男性の声で、他愛無い話をしている。次第に声が小さくなり、聞こえなくなる。首吊り死体の話は出て来なかった。けれど、それで意識してしまって脳裏にその首吊り死体が思い浮かんだ。

 はっきりとした顔とかまでは覚えていない。ただ、その醸し出す雰囲気はついさっき見たかのように思い出せてしまった。

 体を縮こまらせる。ぞくりと来るような恐怖ではない。けれどこれは紛れもなく恐怖だった。鈍痛のように延々と響く、とても厄介な。

 暫くしてからまた体を伸ばして、仰向けになる。目を閉じると欠伸が出た。

 幸いにも眠れそうだった。


 首吊り死体の前に立っていた。顔は見えない。

 風が段々と激しくなっている。首吊り死体がどんどん早く揺れて、木がざわざわと音を立てる。枝が折れた。首吊り死体が落ちてそれからあたかも自然な風に立ち上がった。自分に歩いて来ると、ロープを外して自分に手渡した。

 自分はそれを手に取り、首に掛けた。木に登ってロープの先を枝に縛り付ける。

 そして何の躊躇いも無く飛び降りた。

「…………」

 夢だった。

「……相当参ってるっぽいな……」

 全身びっしょりと言う程ではないが、脇は結構湿っていた。目も覚めてしまい、時計を見る。

 夢を見る程に浅い眠りだったからある程度予想は出来ていたが、まだ日を過ぎてもいなかった。

「はぁ……」

 最悪のパターンだった。こうなってしまうと、一時間以上横になっていても眠れない。

 一旦諦めて起きる事にした。コンビニに行くか迷って、取り敢えずは行かない事にする。すぐ近くにあると言えど、行くまでの気力も無かった。

 体を起こして電気を付ける。パソコンも開いて、適当に生放送をぼうっと眺めて時間を潰した。

 ただ、次に来たのは微妙な空腹感。菓子などをそんなに食べないせいで、そのような気軽に食べられるものを家には置いていなかった。

 いつもなら我慢する事も多いが、こんな日はそんな不満も満たさずには居られなかった。

「あー、もう」

 立ち上がって、その前にふと、首吊り死体の事がニュースになっているか調べた。流石にまだどこにも上がっていなかった。SNSを開いて見れば、多少話題になっていたが。

 また、マスクをつけずにコンビニへ向かう。適当にパンやらを手に取る。

 ……明日の朝昼はどうしようか。

 自炊する気にはならないだろう。肉も買ってあるから近い内にしなくてはいけないのは変わりないが。

 取り敢えず明日の分も考えて冷凍食品もぼちぼちと買って、帰った。

 然るべきものを冷凍庫に入れて手を洗い、米を浸水させたままの事を今更思い出した。取り敢えず、明日の朝に炊けるようにしておく。うがいをしてから買ったパンを手に取る。チョコレートデニッシュ、もさもさした食感。美味しい。

 太るな、と思いながらも口に運ぶ。時々なんだから良いだろう。数カ月に一回程度の本当に時々だ。

 あっという間に食べ終える。空腹感は満たされて、けれど悲しい事に眠気は全くない。

 スマホを手に取りソシャゲやらをするも長く続かず、月曜日になっていた事に気付いて週刊月曜刊行の漫画サイトを起動するが、社会現象まで引き起こしている大人気漫画の為にか相変わらずユーザーが駆け込んでいるようで、見慣れたアクセス過多のメッセージが表示された。

 別の漫画サイトの漫画も無料ポイント分読み切り、気付けばそのまま流していた生放送も終わっていた。

 静まり返るのが嫌で、別の生放送を探して流す。眠れなくて、集中する物事をする気にもなれず、ただ無為に時間が流れるのに身を任せている。そんな自分を省みながらも、溜息を吐いた。同時に平和だなあ、と思った。

人の死も動物の死も実感する時は殆どないこの大都会の街中だからこそ、ただ首吊り死体を見ただけで自分の心が激しく揺さぶられてしまった。それ程に、死に対する耐性が自分には備わっていなかった。ファッション自殺する事は、それへの耐性に何も影響しなかったようだった。

 実際、子供が病気に罹っていとも容易く死んだり鶏を自宅で絞めたりする必要が無くなった事は良い事なのだろうけれど、特に自分が衣食住何にも関わらない仕事をしていると時々、地に足がついていない感覚にも襲われる。

 自分が着ているものから食べているもの、住んでいるものに対してその裏側を意識せずに生きている。その弊害が今自分に降りかかっている。そう考えるのは流石に大それた事だろうか。

 意外と当たっているのではないか、と半ば己惚れる。似たような事柄をぼちぼちと聞いたりするし。

 生放送の音声が流れ続ける中、座椅子から背中をずるりと滑らせて天井を眺める。再び溜息を吐いて、もう今日は仕事だと思い出す。

 やる事は少ないと言えど、憂鬱だ。特に五連勤というところが。

「あーーーーうーーーー…………はぁ」

 こんな社会人生活を送ると、どの時の自分も想像していなかっただろう。


 アラームが鳴る前に目が覚めた。三時頃まで起きていた割には意外と目覚めが良い。ただ流石に気怠さはあって、単純に深い眠りが出来ていなかっただけとも思えるが。

 二度寝をする気にもならず、体を起こす。カーテンを開けると外はもう明るい。温かくなってきたとは言え、朝はまだ柔らかい日差し。窓を開いてベランダに立つ。首吊り死体の事が思い浮かんだが、もう昨日程ではなかった事に気付いた。

 記憶が薄れたのか、慣れたのか。

 どちらにせよ寝て起きればある程度の事までなら和らぐ。首吊り死体もその程度だったらしい。

 自分でも意外だったが、長引いた事を思い出してみれば他者との関係があるものばかりだった。自分だけで完結してしまう事柄ならば、そう長く引き摺らないか。

 背伸びをして肩を回す。呻き声を上げて、肩から音を鳴らす。欠伸をして、深呼吸。

「まあ、頑張れそうだ」

 顔を洗って、シリアルをゆっくりと食べる。ニュースを見てみれば、その首吊り死体の事が少しだけ載っていた。

 自分の想像した通り、コロナに因る経営不振が原因のようだった。

「……」

 会社のパソコンを開いて打刻する。チャットツールに出社の旨を書き込む。

 かと言ってやる事も大してなくだらだらとソシャゲをやったりしながら過ごす。

 コロナの影響で自殺した人も居れば、こうやって家で基本だらだらしているだけで金が入って来るようになった人も居る。

 罪悪感は抱かない。結局、自分は運が良かっただけだ。

「……ずっとリモートで良いなあ」

 ぼーっと天井を眺めていると、チャットツールから通知音が鳴った。

「はいはい」

 朝の顔合わせの時間になっていた。セクション単位で雑談を挟む。首吊り死体の事を話すか少しだけ迷って、何も言わない事にした。

 余計な事は言わないに限る。いつも通りの、もう慣れ切ったリモート作業。

 日差しが強くなって、段々と暑くなってくる。まだ夏と言うよりかは春と呼ぶべき季節のはずだが、近々クーラーが必要になりそうだった。


 数日後、食材が尽きてまた、マスクを付けて買い物に出掛けた。

 首吊り死体のあった場所に寄ってみると、もうそこには花が小さく添えられてあるだけで、何があったのかはそれだけでは分からなくなっていた。

 ただ、それを実際に見た身としてはそこに首吊り死体があったのだという記憶から、光景が鮮明に思い出される。

 しかしながら、それでももう体が怯える事は無かった。いつもの道に戻って、車が走って行くのを眺めながらスーパーへと向かう。

 歩道と車道の間には真っ白いガードレール。はっきりとした境界線。

 ファッション自殺だとは言え、二度程自殺しようとした事がある身としては、自殺するという事は車が数多に走っている中でこのガードレールを乗り越えられるか、という事のように思えた。

 何かがあって死にたいと思う事があっても、自死に至るまでには歩道と車道を分けているこのガードレールのようにはっきりとした境界がある。一、二メートルでも歩いている場所がずれれば車に跳ね飛ばされて死ぬと言うのに、手首を切って風呂にでも入れば死ぬと言うのに、そんな簡単な方法を実際には実践出来ない。少なくとも自分は出来なかった。そうして自覚した。

 きっと、それが出来るようになる為には、激しく強い要因が必要だ。自分の中の気分や思考は、それに至らなかった。少なくとも、外部からの今まで培ってきたものが無に返されるようなものでは全く無かった。

「まあ、当たり前だよな」

 振り返ってみれば本当に大した事ではない。外的な要因は強くなく、ほぼほぼ自分の中で勝手に思い悩んでいただけ。

 そして、それで死ねる程自分は狂人ではない。ただそれだけの事だった。


ぶっちゃけると、自分が死体を見たらこうなるんだろうな、という感じで書いたので9割エッセイです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ