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79.円卓

「痛いっ!?」

「またよそ事を考えましたね? フェルナンド様のことは頭から離しなさい」

「す、すみません」


 目をつむれば、あのときのことが思い出されてむず痒い気分になります。

 そんな私が無心なはずもなく、お姉様からおでこを指でピンと叩かれて叱咤されるのです。

 まったく、どうすれば雑念を消せるのでしょう。これは本当に難題です。


「シルヴィア様、国王陛下がイムロスの件について話が聞きたいと仰せです」

「……陛下がお話を、ですか? わかりました。すぐに支度をします」


 瞑想を開始して数分後、陛下の使いの方がやってきましたので、特訓は一時中断となりました。

 どうやら昨夜のイムロスについて聞きたいみたいですね。こう連日ことが起きているので、いても立ってもいられないんでしょう。


 ◆


「おおっ! シルヴィア殿、連日呼び出してすまなんだ! ノーマン伯爵、これで全員が揃った! 話を進めてくれ!」


 案内されたのは会議室。ずらりと円卓を囲んでいるのはナルトリア王国の高官たちに加えて、お父様やフェルナンド様、そしてライラ様です。


 昨日の会食の席でライラ様が仰ったとおりナルトリア王国が一丸となって、イムロスの侵攻を阻止する。そのための集まりらしいのですが、彼と二度も遭遇した私の話も聞きたいとのことでした。


 お父様には今日の朝食時に昨晩の話をしています。

 イムロスの「満月の夜」、「アーヴァインの封印術」という言葉にお父様は顔をしかめました。

 魔術についての知識はこの大陸でも随一と言われているお父様はそのキーワードだけで何かを察したのかもしれません。


「娘からの話を聞いての推測ですが、どうやらイムロスは父アーヴァインより封印術をかけられていたようです」

「封印術?」

「封印術とは四肢に刻印を打ち込み、魔術の発動を阻害する術式のことです。魔法を使おうとすると四肢が切断されると錯覚するほどの激痛が走り、それを阻みます」


 お祖父様はとんでもない魔法をイムロスにかけていたみたいです。

 呪い、と言ってもよいほど苛烈なその術を温厚な彼がかけざるを得なかったという話だけでも、イムロスとの死闘がどれほどのものだったのか推して測ることができます。


「だが、報告によればイムロスとやらは魔法を使っていただろう? 魔法が封じられていれば脅威ではないが」


「陛下の仰るとおり、魔法の使用は確認されています。封印術自体はアーヴァインが何十年も前にかけたものですから、おそらくはこちらの効果が切れかけているのかと。あくまでも推測ですが」


 そうですよね。お祖父様はすでに亡くなっております。

 それに術自体もお父様が生まれるよりも前。彼が若い頃にかけたものです。

 効果が少しでも残っていることのほうが驚愕でした。


 普通は術者が亡くなれば効果は切れますから……。ティルミナのかけた傀儡魔法もそうでした。


「なるほどのう。昨日と一昨日の襲撃がごく短時間で撤退したのは、封印術によって魔法が使える時間が制限されたからというわけか」


「私はそれが妥当だと考えております。そして、次の満月の日にその呪縛から解き放たれる、そう推測しています」


「むむむ、次の満月じゃと!? それはどういうことだ!?」


 そんなことを言っていましたね。満月の日にどうのこうの、という下りを話したときお父様はワナワナと震えだしました。

 そこにも何か引っかかる話があるのでしょうか。


「満月には魔力を増幅させる力があります。古代より月の光と魔力の関係性は研究されておりまして。難しい話は割愛しますが、おそらくイムロスは満月の光の力で自らの魔力を増幅させて、弱まったアーヴァインの封印術を力づくで破ろうと考えたのでしょう」


 満月には魔力を増幅させる力がある。そんな話を聞いたことがあるような、ないような……。

 もっと勉強しなくてはなりませんね。


 基礎的な魔法学書は一通り読んで、再生魔法などの古代魔法書も読んでいるのですが、如何せん知識に偏りがあるみたいです。


 これからは、研究者になる気持ちで魔法の勉強をしなくては恥をかくことになるでしょう。


「それでは、次にイムロスが襲撃してくるのは……!」

「満月の日だと私は予測しています。もっとも、他の日にもこれまでのような小競り合いはあるかもしれませんが、本格的に攻め入るのは満月の夜の可能性が非常に高いかと」


 お父様による予測。それはこの国が大きな戦いに巻き込まれる日までのカウントダウンが開始されたと言っても差し支えないでしょう。

 会議室はお父様の発言により、ざわつき始めました。


「今度はあの大賢者様ですら手を焼いた怪物が本気でこの王宮に!?」

「今までも警備に気付かれずに侵入しておる。どうするか、だが」

「下手をすると一瞬で国の中枢が……」


 迫りくる危機に狼狽する高官たち。大国であるナルトリア王国といえども、今回の二度の騒動とお父様の話でかなりの危機感が煽られたみたいです。


 妖者の王イムロスの力は未だにベールに包まれた部分が大きく、それも彼らの恐怖心を刺激しているのかもしれません。


「ナルトリアのトップである貴様らがうろたえるな! ゲストたちが見ておるのだぞ!」

「「――っ!?」」


 円卓をバンと叩いて、ライラ様は皆様を落ち着かせようと語気を強めます。

 彼女の迫力に圧されたのか、会議室は一気に静まり返りました。


 こういう事態にも胆力を見せてリーダーシップを取れる彼女は生まれつき人の上に立つ器があるのでしょう。そのカリスマ性は恐怖によってパニックに陥っていた会議室の空気を変えました。


「もうすぐ兄上たちがナルトリア軍を率いて戻ってくる。そうなれば、妖者どもが攻めたとて我らは必ずや勝利するだろう。違うか?」

「そ、そうだった。殿下たちが戻ってくる!」

「大陸最強のナルトリア軍が勢揃いすれば、安泰だ!」

「満月にはまだ十分時間があるぞ! 大丈夫! 大丈夫なんだ!」


 ナルトリア王国は短い期間で大国まで成長した国です。

 それは単純に軍事に力を入れており、ナルトリア王族が軍師としての才能ある男子を幾人も輩出したからに他なりませんでした。


 ティルミナの奸計によって暴君と化した先代国王も軍神という異名を持つ戦上手として歴史に名を残し、その軍神が治める国でクーデターが起きたというニュースには大陸中が震撼したものでした。


「あらあら皆さん、単純ですわね。人数揃えたところでどうにかなる相手かどうか未知数ですのに」

「お姉様、そんな水をさすようなことを言われなくても……」


「なんだ、イザベラ。意見したいのか? 貴様は妹のお守りをしておくだけでいい。もっとも、昨夜はその言いつけを破ってシルヴィアから離れたときに襲撃があったみたいだがな」


 お姉様が余計なことを言うからライラ様が彼女を睨んでいます。

 昨夜の件は私たちの問題ですので、お姉様は悪くないのですが……。それは私の方から弁護しておきましょう。


「あの、ライラ様。お姉様はですね、私とフェルナンド様が――」

「わたくしに元婚約者と妹がいちゃいちゃするところまで同行せよと言いますの? ライラ様は部下に下世話なことをされるご趣味がありまして?」


 イザベラお姉様、何故にそうやってライラ様を煽るようなことを言うのですか? また怒られたら解雇される可能性もあるのですよ。


 しかも今回の件は完全に悪いのは私たちで間違いありません。ですから、お姉様は私の言葉を待っていればライラ様の機嫌を損ねずに済んだはずなのです。


「下世話だと? 知らなかったな。まさか他人の婚約者と接吻をするなどという愚行を犯した貴様にそんな語彙力があったとはな」


「そんな何百年も前のお話忘れましたわ。勇猛果敢で誇り高い王女殿下だと思っていましたが、存外ねちっこいですわね」


「貴様、私を愚弄するつもりか? いい度胸ではないか。表に出ろ! その性根を叩き直してやる!」


 腰のサーベルに手をかけるライラ様をまったく動じずに見据えるイザベラお姉様。

 頼むからこれ以上ライラ様を刺激なさらないでください。

 私が謝っても許してもらえなくなるかもしれないではありませんか。


「いい加減にせぬか! お前たち!!」

「へ、陛下……!」

「国王陛下……」


 そんなお二人の様子を見るに見兼ねたのかついに国王陛下が大きな声を出して叱責しました。

 そもそも、今はそんなことで争っている場合ではないのです。

 これからやってくる脅威に対して皆で一丸となって戦わなくてはならないのですから。喧嘩などもってのほかです。


「イザベラ殿にはイザベラ殿の事情があったのであろう。職務怠慢ならばシルヴィア殿かフェルナンド殿から伝えられるはずだ。そうではないか? ライラよ」


「はぁ、陛下の仰るとおりではありますが……」


「ならば、今はそのことを追及するときではあるまい。イザベラ殿は宮廷魔術師として確かな力を持っておる。この国にとって大事な人材だ。上手くコントロールするのがお前の仕事なのだからな」


「はっ! お見苦しいところをお見せして失礼いたしました」


 ライラ様は陛下の言葉をうけて、背筋を伸ばして一礼しました。

 あのライラ様がこれほどまで素直に話を受け入れるとは、国王陛下は娘である彼女から随分と尊敬されているみたいです。


「イザベラ殿、娘が失礼をした。お主が言いたいことも分かっておる。高すぎる士気は油断に繋がる、と言いたいのだろう」


「ご明察です、陛下」


「だが、これがナルトリアのやり方なのだ。圧倒的な力でねじ伏せるには、負けないという強き心が必要である。士気の高さは心の強さに繋がる。お主も宮仕えを続けるのなら、ナルトリアの流儀に付き合ってもらうぞ」


「承知いたしました。過ぎた真似をしたことを謝罪申し上げます」


 負けじとお姉様もきれいに頭を下げて非礼を詫びます。

 そのような意図があって、あのとき水を差すような発言をしたのですか。私は全然気が付きませんでした。


「皆のもの! 満月の日には王都全体に厳戒態勢を敷く! そこまで日数があるわけではないが、支度を怠るでないぞ!」

「「はっ!」」


 陛下の一言で会議室の全員が一つになりました。

 これが傾国の魔女ティルミナによって傾きかけた国を立て直したナルトリア国王のカリスマ性。いつの間にか私の心も落ち着いており、緊張感が少しだけ解れたような気がしました。

ついに、辺境聖女2巻の発売日が決定しました!

発売は4/15です! つまり、来月なのです!


先崎さまの美麗イラストは必見!

新キャラのイムロスもすごく格好良く描いていただきました。

カバーイラストも完成しましたので、↓↓のURLからご覧になってください!


https://syosetu.com/syuppan/view/bookid/5458/


ご予約のほうも是非ともよろしくおねがいしますm(_ _)m

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