8.聖女じゃなくて、盗人だろ
第二王子のアルヴィン様がわざわざ王都から、辺境の地までやって来られたと聞いて、私は急いでフェルナンド様のお屋敷に戻りました。
アルヴィン様はフェルナンド様の友人と聞いていましたから、よくこちらに来るのかと使用人の方に尋ねますと、滅多に足を運ばれることはないと答えられます。
大抵はフェルナンド様が王都に用事があるなどして訪れた時に会っているらしいです。
「きっと、聖女様の噂を聞いて駆けつけて下さったんですよ!」
「聖女は止めてください。私、そんな大層な者ではありませんから」
「荒地を再生されたのは大手柄です。勲章の授与を伝えに来られたのかもしれません」
そんな大袈裟な……。
周りの皆さんは私を褒めに来られたのだと言いますが、どうもそんなに楽観的に考えられません。
王都から馬車で数日かかる辺境での噂がアルヴィン様の耳に入るにしては早すぎるような気がしますし。
少なくとも、私が大地に再生魔法を使ったこととは関係ないと思われます。
「シルヴィア様、アルヴィン殿下が話があると応接室で……」
「は、はい。なんか、アルヴィン様、怒っています?」
「ど、どうしてそれを?」
「顔が暗いですから。嫌な雰囲気なのだろうと察しただけです」
「いやー、なぜ怒っているのか旦那様も首を傾げているんですよね」
どうやら、アルヴィン様はお怒りらしいです。
怒らせることをした覚えはありませんが、フェルナンド様だけでなく、私を待っているということは私に原因があるのでしょう。
まさか、実家関連の話でしょうか。うーん、見当がつきませんね。
すごく怖いです……。
「やっと来たか盗人……! 僕を待たせるとはいい度胸じゃないか……!」
会うなり、ほとんど面識のない私にいきなり盗人呼ばわりしてきた失礼なアルヴィン様。
何が何だか分かりませんが、怒っているということだけは伝わります。
いえ、本当に伝わるのはそれだけなのですが……。
「えっ? ぬ、盗人? ええーっと、アルヴィン様、この度は遠路はるばる、ご足労頂いて――」
「そんなもの、どうでもいい! 僕は君らに説教をしてやりに来たのだ!」
せ、説教って……。私とフェルナンド様に?
本当にこの方は何をされに来たのでしょう。
私たちが責められることなどしていないと思うのですが……。
しかしながら、この怒っている様子は只事ではありません。
当然、何らかの理由があるはずです。
「殿下、盗人呼ばわりとは、シルヴィアに対してあまりにも失礼ではありませんか?」
「黙れ! あの女が盗人でなくて、なんだ!? 事実として、イザベラの婚約者だったお前を奪ったではないか! それに、こいつが付けているモノは全部イザベラのモノだぞ!」
フェルナンド様がアルヴィン様の発言を諌めようとしますが、彼は聞く耳を持ちません。
それどころかヒートアップして、私が姉のモノを盗んだような言い回しをします。
「殿下、何を仰っているんですか? シルヴィアはイザベラの捨てたものを再生魔法で直して使っているだけですよ」
「アルヴィン様、姉のイザベラは田舎暮らしは虫が多いから嫌だと言って、私に代わりに嫁いで欲しいと頼んだのです。姉の婚約者を奪ったなどという話は事実無根です」
「はぁ~~~? 貴様ら二人揃って嘘つきだな~! イザベラはそんなこと言ってなかったぞ! やはり、このアルヴィン・ノルアーニが貴様ら二人を成敗せねばならぬようだな!」
事情を説明しても一方的に私たちが悪いと決めてかかるアルヴィン様。再生魔法で荒地を直したことは伝わっていないみたいですが、そんなことはどうでもいいです。
どうやら、イザベラお姉様が何かしら嘘を吹き込んだということだけは分かりましたが……。
お姉様、なぜ、アルヴィン様にそんなことをされたのです? 身代わりになったのに、酷いじゃないですか。
偉そうなアルヴィンですが、次回……。
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