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70.妖者の強襲

 何ということでしょう。ライラ様の歓迎会に行くものかと思っていましたら、私たちはまんまと敵の罠に嵌められてしまったみたいです。


「もう一度言う。シルヴィア・ノルアーニ、出てこい! でないと、大切な者たちが死ぬことになるぞ」


 家族を人質にして私が自害などするのを封じたということでしょうか。


 フェルナンド様、そしてお父様とお姉様。みんな私の大事な人です。


 傷つけさせるなどあり得ません。しかし、この方々の要求を飲むというのも……。


「まったく、無礼な方ですわ。このわたくしに刃物を向けるとは」


「ワシらを人質にするとは忌々しい……!」


 イザベラお姉様とお父様は憤慨していました。


 刃物を突きつけられて憤慨できるのですから、お二人とも常人離れした胆力を持たれています。


「フェルナンド様、どうしましょう」


 冷静な表情で腕組みされているフェルナンド様に私はどうするべきか尋ねました。


 彼はそのアイスブルーの瞳を向けて、静かに声を発します。 


「決まっているだろう。こういう状況になったときの対策をとるんだ。この状況は想定済、だろう?」


「えっ? あっ! はい!」


 元々はこの国から馬車でノルアーニ王国に戻ろうと考えていました。


 私たちとて、自分たちが襲われないというような甘い想定はしていません。


「どうした!? 早く出てこい!」


「一人くらい殺しておくか?」


「はっはっはっ、それはいい!」


 覆面の数は全部で五人。いえ、馬車を引いていた馬を妖者だと想定すると七人ですか。


 昨日やってきたイムロスという人はいなさそうです。


岩巨人の両腕(ゴーレムダブル)!」

「「――っ!?」


 私の得意な土魔法で大きな腕を地面に生やして、馬車をグイッと持ち上げます。


 馬車に刺さっていた剣はその勢いによって振り落とされました。


 御神木に比べたら馬車と私たちの体重は軽い。簡単に持ち上がります。


「な、なんだ! あの腕は!?」

「馬鹿野郎! 魔法に決まっている! 相手は魔術師だぞ!」

「切り落とす! か、硬い! 剣で切り落とすのは無理か!」


 窓から見下ろすと覆面の男たちが動揺しながら、巨人の腕を切り落とそうとしますが、それは無理です。


 私の土魔法で作られたこの腕は鉄よりも硬いのですから。


「人間共、どきな。ったく、魔法も使えぬ者を雇うとはイムロス様にも困ったものだ」


「イムロス様の悪口は許しません。殺しますよ」


「悪口じゃない。苦情だ」


「同じこと。あの方への批判は一切許しません」 


 う、馬が……、さっきまで馬だったはずの方々が、人間になりました。彼らはやはり妖者だったということですね。


 まるで彫刻のように整った顔立ちの色白で銀髪の男が二人。同じ顔をしていますが、双子でしょうか。 


「あんなの馬車を燃やしたら燻し出されるだろ」


 無表情で銀髪の男のうちの一人がこちらに手をかざしますと、大きな魔法陣が展開されました。

 あれは炎魔法。この馬車を燃やすつもりですか!


「待ちなさい! シルヴィア・ノーマンは殺すな、とイムロス様が――」

「あれ~? そうだったっけ? ごめん、もう遅いわ」


 ズドンと放たれる巨大な炎の塊。ティルミナやイムロスと同様に妖者は魔法に長けている者が多いようです。


 あれが馬車に直撃すれば灰になるまで炎上するでしょう。


「このうつけ者! 焼死体になってしまったじゃないですか! ああ、イムロス様にどう謝ったらよいのか!」


「燃えちまったものはしゃーないだろ。俺も頭下げるから、謝るしかないな」


「あなたがメインで謝るのです! なぜ、この私の失態になるのですか!?」


「監督不行届ってやつだ。責任者の罪が重いのは当然だろ?」


 メラメラと燃える馬車を見ながら、双子であろう銀髪の美丈夫たちは言い争いをしていました。


 完全に私たちが死んだと思っていますね。魔法が当たる直前に飛び降りて無事なのですが。その上――。


「君たちの主の居所、あとでじっくりと教えてもらうよ」


「ぐあっ……!」


「い、いつの間に! ぐぅぅぅ……!」


 フェルナンド様は一番最後に馬車から飛び降りたにも関わらず、得意の剣捌きで覆面たちを一瞬で切り伏せて行動不能にしていました。


 私も以前にアルヴィンが操られていたときに動きを封じた魔法の鎖を出現させて彼らを拘束しています。


 つまり、彼らは言い争いに夢中になっており、私たちが脱出したどころか覆面の男たちを制圧したことにも気付いていなかったというわけです。


「お前ら生きていたのか!?」

「ふぅ、これでイムロス様からお叱りを受けることはなさそうですね」


 私を捕まえに来ておいて容赦なく丸焦げにしようとした危険な人たち。うーん、やはり一見見分けは付きませんが魔法を使った方は険しい顔つきをしている気がします。


「じゃあ、今度こそ俺が……」

「お待ちなさい。あなたがやるとまた傷付けます。ここは私が」

「手柄を独り占めするってか。そうはさせるか」

「このうつけ者! いきなりターゲットを燃やそうとする馬鹿に任せられるはずがありません!」


 随分と仲が悪い双子?ですね。


 この人たち、作戦が失敗したのにもかかわらず、平然とされています。撤退などは考えるつもりはないのでしょうか。


「妖者だかなんだか知りませんが、わたくしに魔法で狼藉を働こうとした罪は重いですわ!」

「うるせぇ。死んどけ、売女が!」


「「魔炎(フレア)ッ!」


 お姉様と双子?の一人が同時に互いに手をかざして魔法陣を展開させ炎を発します。 


 同時に同じ魔法ですか。妖者は魔法に長けている者が多いと聞きます。


 ティルミナもかなりの使い手で、イムロスはさらに大きな魔力を持っていました。このお二人も同様に大きな魔力を感じます。


「熱っ! あちちちいいい! に、人間が俺よりも強い魔力を!?」


 炎を放った妖者は端正な顔を歪ませて、イザベラお姉様を睨みました。


 そんな態度を取るのも致し方ないでしょう。お姉様の炎が彼の炎を貫き霧散させて、彼の右手を燃やしたのですから。


「あなた、修行が足りていませんことよ。魔力を一点集中すれば洗練されて貫通力が増すのです」


 ノーマン家の魔術の真髄。それは魔力の一点集中です。


 我が家を背負う魔術師になる予定だったお姉様はその技術面において並ぶものはいないとお父様からお墨付きをいただいております。


 イザベラ・ノーマンよりも濃密な修行を長期間に渡って行った者はノーマン家の長い歴史にはいないでしょう。


 巧みな魔法捌きは私などでは及ぶべくもなく、間違いなくノルアーニ王国で一番だと言い切れます。


「修行が足りないだとぉ!? 人間風情が! 今度はもっと大きい……――っ!?」


岩巨人の腕(ゴーレムハンド)!」


「くそっ! いつの間に!? 離せ! 離せ!」


 私は岩巨人の腕(ゴーレムハンド)を動かして背後から双子?の妖者の一人を掴む私。


 うう、凄い力です。ですが、イムロスみたいに砕くような真似は出来ないみたいですね。


「だからうつけ者なんですよ、あなたは。……ここは退くべきみたいですね」

「お、おい! まさか、俺を見捨てる気か! ベルジュ!」

「お黙りなさい、シーザー! あなたが醜態を晒すからこんなことになったのです!」


 あっ!? ベルジュと呼ばれた双子?の片割れが馬に変身しました。


 まさか仲間を置いて逃亡する気ですか。そうはさせません。


岩巨人の腕(ゴーレムハンド)!」


 私はもう一つの岩巨人の腕(ゴーレムハンド)を伸ばしてベルジュを捕獲しようとします。


 このまま逃したら親玉であるイムロスと良からぬことを考えると思ったからです。


大魔氷(ダイアモンドダスト)!」

「あっ――!?」


 ベルジュ背を向けましたが、それと同時に巨大な魔法陣を出現させ、幾百もの氷の刃を岩巨人の腕(ゴーレムハンド)に向かって放ちました。


 きれいに凍ってしまいましたね……。もう一人(シーザー)を掴むのに魔力を割きすぎてしまったのが原因でしょうか。


「ふふふ、それではノーマン家の皆様。今度会ったときにはリベンジさせていただきますので。悪しからず」


 チラッとこちらを一瞥するとベルジュは並の馬を遥かに凌ぐ脚力で、一気にこの場から離れてしまいます。


 このままだと逃げられて――。


「シルヴィアよ。なんだ? 今の魔法は」


「お、お父様。ええーっと、すみません」


「集中力が足らん! 雷鳥の爪(ターミガン)!」

「――っ!?」


 その雷鳥は以前、お姉様がティルミナに放ったものよりも大きかったです。


 お父様の最も得意な魔法である雷鳥の爪(ターミガン)。そのスピードは馬などとは比較になりません。


 必死で逃げるベルジュですが、その距離をグングン詰められて――。


「うぐっ……」

「お父様!?」


 しかしながら、雷鳥はベルジュに届く前に消えてしまいます。


 足が変な方向に曲がっているような気がするのですが。まさかお父様は脱出した際に着地に失敗して……。


「大丈夫ですか?」

「ぬぅぅ、問題ないわい。賊は!? 賊はどうした!?」


 足を押さえて痛がっているお父様はちっとも問題ないように見えませんでした。

 とにかく治療をしなくては。ですが私は双子?のうちの一人を捕まえたままです。


治癒魔法(ヒール)……!」


「い、イザベラ、何をしている!?」


「治療に決まっているでしょう? 何が“集中力が足らん!”ですか。格好つけずにわたくしに任せればよろしかったものを」


「う、ううむ。面目ない」


 イザベラお姉様がお父様の治療をしてくれました。

 彼女が率先して動いて魔法を使っていることにお父様は驚いていますが、当然です。勘当されたからといって、彼女にとってお父様はたった一人の親なのですから。


 イザベラお姉様はお父様のせいで逃げられたというような言い方をしていますが、そもそも私が腑抜けたような魔法を使わなければ、こんなことにはならなかったはず。これは私の失態です。


「シルヴィア、一人は取り逃がしたが一人捕まえたのだ、お手柄だよ」


「フェルナンド様……」


「ライラ殿下に報告しよう。これからの対策を考えるために」


 とにかく私を狙う人たちを捕まえることが出来ました。


 イムロスにこんなに部下がいたとは知りませんでしたが、あの二人以外は普通の人間みたいです。


 どんな繋がりがあるのか調べれば今後の対策も考えられるかもしれませんね。私たちは王宮へと引き返しました。

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