7.姉の婚約者を奪うなんて最悪だ(アルヴィン視点)
親友である辺境伯、フェルナンドは若くして親の地位を継いだこともあって、どこか達観しているところがあるが気の良いやつだった。
だから麗しいイザベラ・ノーマンを婚約者だと紹介したときも、僕は素直に応援してやろうと思った。
こいつなら、イザベラを幸せにするだろうと信じたからだ。
イザベラには妹がいる。シルヴィア・ノーマン――ノーマン家始まって以来の天才魔術師だという噂が流れるほど才能豊かな女性らしい。
だが、それ以上に性格の悪い女だという噂が彼女にはあった。
――具体的には姉のものを何でも奪う妹という噂だ。
なんでも、イザベラのものを勝手に奪っては我が物のように使う図々しさがあるらしい。
その証拠に以前のパーティーで彼女を見たとき全身がイザベラが身につけていたものでコーディネートされていた。
ずっとイザベラを見守ってきた、この僕の目は誤魔化せない。あの女は薄汚い盗人だ。
そんな性悪女のシルヴィアが今度は姉の婚約者を奪ったというではないか。
僕は信じられなかった。
婚約者を奪ったということは、もちろんフェルナンドの意志も働いているからだ。
『フェルナンド様も薄情ですわ。わたくし、ずっとお慕いしていましたのに』
涙を目にためて、美しい瞳を僕に見せつけながら、イザベラはあのとき僕に元婚約者の愚痴を溢した。
このとき、僕の血は滾ったね。
こんなにも可愛いイザベラを泣かしたのだから、絶対にフェルナンドを許すわけにはいかないと。
『可哀想なイザベラ。うん、わかったよ。さっきも言ったが、僕が説教をしてやるから。何なら、王家の力を以てして辺境伯の地位も奪ってやっても良い』
『アルヴィン様……』
『イザベラ……』
いやー、婚約者がいる身でキスまでしてしまったが、セーフだよなぁ。結婚はまだしていないし。
あのときのイザベラは可憐で魅力的だった。
くぅーーー、僕が大国のナルトリア王国の王女であるライラと婚約さえしていなかったらなー。
イザベラは今頃、僕のモノだったのに。
ライラって、嫉妬深くて、拘束強そうだったし、下手に浮気なんかすると国際問題になるかもしれんから、諦める他ない。
あの女、マジで僕がイザベラに乗り換えるなんて言ったら、イザベラの方を殺しそうだもんな。
「僕の麗しきイザベラ。君のために僕は動くよ。真実の愛は君のもとに置いてきたから」
おっと、今のは良いセリフだな。メモっておこう。
今度、イザベラに聞いてもらうんだ。そして、もう一回だけキスしよっと。
ったく、それにしても辺境のクソ田舎に行くのも楽じゃない。
父上は、もう死んでしまった先代の辺境伯であるフェルナンドの父親と盟友で、彼を信頼して広大な領土を託したらしい。
そういえば、父上は昔……よくフェルナンドを見習えとか僕に言っていたな。
あいつは友人で確かに優秀だったが、なんかモヤモヤしていた。所詮、辺境伯の息子だし、王族の僕よりも偉くなるはずないのに、見習えっていうのはおかしいじゃないか。
頑張ってもたかが辺境伯の田舎男に、比べて僕は第二王子。格が違うんだよ、格が。
ふぅ、やっと着いたな。
こんな片田舎に来てやったんだ。
僕の説教をありがたく受け取れよな! フェルナンドよ!
「フェルナンド、僕がお前に会いに来た理由は分かっているな!?」
「アルヴィン殿下、遠いところまで、よく来てくれました。分かっていますよ。辺境の聖女の噂を聞きましたね? 耳が早いなぁ。もう王都まで噂が届いているなんて……」
「へ、辺境の聖女? なんだそれ?」
「えっ? シルヴィアの話を聞いたのではないのですか?」
盗人のシルヴィアが聖女だと?
何が起きたんだ? 一体、どういうことなんだ……。
ええい! そんなことはどうでもいい!
とにかく、説教だ! 説教! 言い訳を聞くつもりはない!
アルヴィンは普通に浮気するバカです。
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