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60.相変わらずのお姉様

「あー、美味しかった。また来たいです」


「気に入ってくれて良かった。外食する時間くらいはもう少し作れるように努力するよ」


「ありがとうございます。はっ!? す、すみません。わがままを言ってしまって」


 とても楽しい食事が終わって私とフェルナンド様は店外に出ました。

 ですが、あれだけ危険になるかもしれないという可能性について論じられたのに図々しいことを言ってしまいました。


「いいよ、それくらい。国の都合で軟禁に近いことをされているんだ。外食する間くらいの安全は確保するように頑張ってもらうさ」


「でも、ここはノルアーニ王国ではなくてナルトリア王国ですよ。私のわがままなんて――」


「聞いてもらえるよ。君はナルトリア王国の英雄だ。国家転覆の危機を救ったのだからな。陛下もライラ殿下も、国家の威信にかけて君を守るだろう」


 ――ナルトリア王国の英雄ですか。

 私などより余程イザベラお姉様の方がその言葉が合っていると思います。

 あのとき、私はニックの憎しみに飲まれそうになりました。飲まれてしまったら、心が乱されてあっという間に負けていたでしょう。

 お姉様が喝を入れてくれなかったらどうなっていたことか……。


「イザベラお姉様にもフェルナンド様にも助けられて、どうにか生き延びられましたので、私は大したことはしていないと思います」


「イザベラが君に張り手をして励ましたという話か? うーん。叩かれたことを嬉々として語るのはどうなんだ?」


「だって、お姉様が私のために怒ってくれたんですよ。妹として喜ばしく思うのは普通です」


 あの頬の熱さは生涯忘れることはないでしょう。

 あれだけ毛嫌いしていたのに、私を想って助け船を出してくれたお姉様。倒れられる最後の最後まで気位の高さを失わなかった彼女を私は誇りに思っていました。


「君がイザベラを尊敬しているのは分かったよ。彼女は彼女なりに君のことを――」


「あら、フェルナンド様にシルヴィアじゃないですか。ご機嫌よう」


「お姉様……!」


 噂をすればなんとやらと言いますが、ちょうど馬車に乗る手前でイザベラお姉様と遭遇しました。

 

「お二人ともどうしてこのお店に? もしやお食事にいらしたのですか?」


「そうだが、それがどうした?」


「どうした?ではありません。ここはわたくしのような下賤な平民がお料理をいただく場所でございます。下賤なる者の食事をご覧になる趣味があるのでしたら別ですが」


「そんな趣味あるわけがなかろう」


 さっそくお姉様は毒舌を放ったのでフェルナンド様は呆れ顔です。


 なんというか普通は勘当されて異国で平民になって生活するようになると覇気が衰えるはずなんですが、お姉様は逆に怖い者知らずになっていますよね。


 いつ会っても開き直っていらしてイキイキとされています。


「このお店、とてもお料理が美味しいですし、誰が食べに来ても楽しめると思いますよ。お姉様」


「そうですか。まぁ、あなたみたいな何を食べても変わらず美味しい、美味しいとしか言えない貧弱な舌の持ち主を相手に商売するお店かもしれませんね」


「ああ、そういえば何でも美味しいって言っているような気がします。言われてみれば」


 お姉様は色々と私のことが気に入らないみたいでしたが、よく私を見ていらっしゃいます。


 そうなんですよね。いつでもどこでも、何か食べては美味しいと言っていました。


 逆にお姉様は中々そうは仰っていなかった気がします。


「大体、あなたは――」

「イザベラ、もうその辺でいいだろう。シルヴィアは料理評論家になるわけではないんだ。なんでも美味しく感じられた方が幸せじゃないか」


「ええ、フェルナンド様の仰るとおりですわね。わたくしが嫁ぐよりも食費が安くて助かるのではありませんか?」


「そうかもしれないね。それがどうした? 君が破棄した婚約に未練があるんじゃないだろう?」


 嫌味が止まらないイザベラお姉様に対してフェルナンド様は淡々とした口調で返します。


 喧嘩はしてほしくないのですが、今日のお姉様は機嫌があまりよろしくないみたいです。


「まさか、ご冗談を。どこぞの誰かに狙われている婚約者を不用心に連れ出すような殿方など、わたくしは欲しくありませんの」


「シルヴィアが狙われていることは知っているよ。警戒も十分にしている」


 私の再生魔法が誰かに狙われていることはお姉様もご存じだったのですね。

 宮廷魔術師としてライラ様の下で働いているので、そういった情報は入っているのでしょう。


「これは失礼をいたしましたわ。ノルアーニ国王からも信頼の厚い、若き辺境伯フェルナンド・マークランド様が警戒しているんですから、どんな状況でも安心ですよねぇ」


「随分と含みのある言い方をするじゃないか。何か知っているのか?」


 髪をかきあげて、不敵に笑うお姉様を見てフェルナンド様は彼女が何かしらの情報をお持ちだと思ったみたいです。


 私もそう感じました。イザベラお姉様は私たちの不用心に対して警告しようとされている、と。


「ふふ、お知りになりたいですか?」


「いや、いい。君に借りを作るよりライラ殿下に聞いた方が早そうだ。行こうか、シルヴィア」


「あっ! フェルナンド様!?」


 イザベラお姉様の助言は不要だと言わんばかりに、フェルナンド様は私の手を引いて馬車に乗ろうとされます。


 ライラ様はお姉様の上司ですからね。確かにその辺りの事情はご存じかもしれません。


「お待ちなさい! ちょっと、待つのです! お待ちなさいって!」


「なんだ? まだ何かあるのかい?」


 そんな私たちを大きな声を出して止めようとするお姉様。

 顔を赤くして必死に呼び止めていますが、どうされたのでしょう。


「ライラ様は何も知りませんわ。わたくしが今日仕入れた情報ですもの」


「そうか、では明日にでも聞こう」


「だから危機感がないと申しているのです! いいですか? 今日、あなたたちを尾行している影を複数見つけました。監視されているんですよ。得体のしれない何者かに」


 イザベラお姉様は私たちに不審者の情報を伝えられます。

 もしかしたら、フェルナンド様の言っていたよりも状況は深刻なのかもしれません。


「やはりそうか。妙な視線を感じていたが、尾行されていたのか」


「ご存じでしたの?」


「あまりにもバレバレだったからね。罠を警戒したんだよ。少数だったし、こちらが反応するのを期待しているような気がしたんだ。シルヴィアにも伝えなかった。演技させる方が難しいだろうから」


「あはは、確かに知っていたら変な顔をしてしまいそうです」


 なんと、尾行に気付いていたのに素知らぬ顔をしてお出かけしていたのですか。フェルナンド様も豪胆です。


「で、その連中の正体は掴んだのか?」


「いいえ。追跡しましたが、撒かれました」


「ふむ。君から逃れられる程とは思わなかったな」


「一人でしたので深入りしなかっただけですの。無理をして仲間に囲まれ、わたくしが万が一捕まっては本末転倒ではありませんか」


 一流の魔術師であるお姉様から逃げられるとは普通の方ではない気がしますが……。


 深入りしなかったということは、お姉様も直感的に得体のしれないものを感じ取ったのではないでしょうか。


「とにかく、今度の賊も変な連中の可能性が高いですから。出歩くのを控えてくださいまし。ライラ様もそう仰るはずですわ」


「ああ、君の警告に従うよ。それを伝えるために、わざわざ私たちが食事を終えるまで待ってくれていたんだからね」


「――っ!? な、なにを勝手なことを仰っていますの? わ、わたくしは偶然ここに――」


 まぁ、イザベラお姉様は私たちを心配して待ってくださっていたのですか。


 やっぱりお姉様はお優しい方です。

 私はお姉様の心遣いに感動しました……。


「お姉様、私たちのためにありがとうございます。今度は一緒にお食事をしましょう」


「だーかーらー、わたくしは偶然ここであなた方を見つけただけですわ!」


「それでは、イザベラ。ライラ殿下にはプライベートの時間も削ってよく働いていると報告しておくよ」


「もう! 好きになさってくださいな!」


 フェルナンド様の言葉にプイッとそっぽを向いて返事をするお姉様。

 頬を赤くして反論するイザベラお姉様は珍しく、可愛らしいと思ってしまいました。

 それにしても不穏ですね。そう、不穏としか言えません。


 帰りの馬車に乗った私は再び面倒に巻き込まれる気配を感じずにはいられませんでした。

皆様の応援のおかげで書籍2巻発売決定です!

ありがとうございます……!


さらにコミカライズ企画も進行しております……!

漫画のネームを拝見させてもらっていますが、はっきり言ってめちゃめちゃ面白いです。

小説も負けじと楽しめるように頑張ります!

詳しい情報はまたお許しを頂いた後に……!

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