6.辺境の聖女
これは、どうしたものですか。
別に私は立派な人間じゃないですし、貧乏性でもったいないからという感覚で再生魔法を覚えただけなので、こんなことになるとは思ってもみませんでした。
こんなことっていうのはつまり――。
「やぁ、辺境伯のところの聖女様! 今日はどこにおでかけですか?」
「せ、聖女? ああ、私のこと……、ですか。あはは……。ちょっと麦畑に用事がありまして」
荒れ果てた大地を再生魔法でいっぱいの草原に戻してみせた話はフェルナンド様の領地中に一瞬で広まりました。
そして、皆さんが口々にやれ奇跡だの、やれ神の使いだの、と私の魔法を褒め称えだした所から変な風向きになったのです。
ついでに申しますと、再生魔法は死者蘇生に使えない制約から人に対して使うことは出来ませんが治癒魔法と原理が似ています。
ですから、私は再生魔法を覚える前に治癒魔法を極めたのですが、これもいけませんでした。
何かの事故で腕を骨折したフェルナンド様のご友人を一瞬で治療したことを皮切りに、次々と大怪我をされた方が私を訪ねるようになり、無下に扱えなかった私は全員を治したのです。
それからというもの誰が呼び始めたのか、「辺境の聖女」とか「再生の女神」とか、どう考えても柄じゃない渾名が定着してしまい、辺境の土地という特性なのでしょうか、一瞬でそれも領地中に広まってしまいました。
フェルナンド様の屋敷に来てからまだ一週間しか経っていませんのに、私はすれ違った見知らぬお婆さんにも手を合わせられるようになってしまったのです。
あんまりです。私に聖女なんてキャラクターは合うとはとても思えません。
枕に顔をうずめて、足をバタバタさせたいほど恥ずかしいです。
「聖女様がいらっしゃったぞー!」
「ありがたい。ありがたい」
「領主様は、素晴らしい娘さんを手に入れたものだ」
到着して三十秒、私の顔は真っ赤になっていたと思います。聖女と呼ぶの止めてください、手を合わせるのも勘弁してください。
フェルナンド様の手配した護衛の方々と共に麦畑に訪れた私。
なんでも収穫しようとしたら、昨日の夜に大型の魔物が防壁魔法を破壊して荒らして行ったみたいなのです。
「再生魔法……!」
「「おおおおおおーーーっ!!」」
麦畑を昨日の状態に戻すと歓声が上がりました。
これは農家の方々だけでなく、私たちにとっても死活問題ですから、いつもよりも力が入りました。
「そして、光の守護陣!」
「「うおおおおおおおーーーーーーっ!!」」
「あれがノーマン家の結界技術か!」
「最高難度の光の守護陣をこうも容易く!」
魔術師の家系としても知られるノーマン家は取り分け、結界を作る光属性の魔法が得意でした。
お姉様が辺境伯であるフェルナンド様と婚約したのは、恐らくこのためだと思われます。
辺境は魔物の数が多いので、結界を張れる魔術師が重宝されていると聞いたので。
でも、すごく見られて恥ずかしいです。
穴があったら、入りたい……。
「グオオオオオオオオンッッ!」
「光の大剣」
ついでに空からまた麦畑を襲おうとしていた飛竜に巨大な光の刃を突き刺して、撃退しておきました。
これでいいんですよね? 帰りますよ。帰って、枕に顔を――。
「「聖女様~~~~!!」」
お姉様、身代わりになったこと、少しばかり後悔していますが、シルヴィアは元気です。
王都はどんな感じでしょうか?
という、内容の手紙を送ろうとした矢先、なんとこちらにアルヴィン様が来られました。
第二王子が辺境の地に何の用事でしょうか……。
アルヴィン襲来です。
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