57.こんな私でもずっと一緒にいてくれますか?
ナルトリア王国に来て、まだ一ヶ月も経っていませんのに、もう随分と長く居るような気がします。
辺境に嫁いだつもりが、アルヴィン様に怒られて、そのアルヴィン様がイザベラお姉様と浮気をして、ライラ様にその件に対して謝罪に訪れたのですが、結局何をしに来たのか分からなくなるくらいトラブルに巻き込まれました。
「お姉様の代わりに謝罪なんて、思い上がっていました。イザベラお姉様は自分の責任はきちんと自分でお取りになり、私は何も出来ていません」
大好きなイザベラお姉様の一大事だということで、何とか彼女を助けられないかと頑張ってみたのですが、お姉様は自ら功績を上げて、勘当される道を選びライラ様を納得させるだけの責任を取ります。
なんせ、そのライラ様がお姉様を王宮で雇うと言い出したのですから。
謝罪相手にそこまで言わせるなんて、自分にはとても無理です。
「それで、何か落ち込むことがあるのかい? イザベラが自分の責任を取るなんて当たり前のことじゃないか」
「そうかもしれませんが、格好悪いです。私が」
「ははは、シルヴィアは素直に本心をさらけ出すんだな。格好悪くなんてないよ、ティルミナ、ニックという歴戦の魔術師を相手にして、それを退けるのに一役買ったんだから」
フェルナンド様は笑いながら私の肩を抱いて慰めてくれます。がっしりとした腕の中は温かく、太陽のような匂いがしました。
ティルミナはお姉様が、ニックはフェルナンド様が倒されましたし、何よりこの国に来た目的とは関係ないのでその辺りは考えていなかったのですが。
「君は凄い力を持っている。昨日、ノーマン伯爵と話していてね。大賢者様はシルヴィアは自分を超える魔術師に必ずなると予言したそうだ」
「私がお祖父様を超える? あり得ません」
「そんなことはない。雷神の鎚を使って平気でいられるのは、お祖父様と君くらいだって言っていたよ。伯爵殿はようやく体力が回復したらしい」
お父様はニックとの戦いで疲労しており、ベッドの上でしばらく生活していたのですが、昨日は普通に歩いて談笑していました。
なので体力が回復したことは知っていましたけど、よく考えてみれば私はちょっと休んだだけで特に疲労は残っていません。
雷神の鎚を初めて使って、倒れて、そこから深く何も考えていませんでしたが、確かに変です。
余談ですがお父様はイザベラお姉様の意志を尊重しました。何となくそんなことを言い出しそうだと思っていたそうです。
私は全然想像していませんでしたが……。
「シルヴィア・ノーマン。君は特別な子だ。もしかしたら、いや、もしかしなくても、辺境の田舎で一生を終えて良い人間じゃないかもしれない」
どこか遠い目をしてフェルナンド様は私を特別な人間だと言います。
自分のことを特にそんなふうに考えたこともないので、彼の発言の意味が分かりませんでした。
だって、私なんて仮にここが小説の世界なら脇役、ひっそりとして生きている住人だと思っていましたから。
「イザベラは宮廷魔術師として、この国に仕えることになったが、国王陛下は君のことが欲しかったらしい。私の婚約者でなければ王族の誰かと結婚させてでもね。この国だけじゃない。噂が広まると大陸中の国が君に注目するだろう」
「そんな馬鹿なことって……」
「あるんだよ。大賢者様は大陸中で伝説を残している。君が大賢者アーヴァインを継ぐものとして、確かな実力を示したことが分かれば、それは近い将来現実になる」
お祖父様が家督を継ぐまでの間、世直しの旅をしていたことは存じています。
そして数々の逸話を残しており、大陸中の人間に知られていることも。
ですが、それはお祖父様の実績であって私の実績ではありません。
それなのに、まるで私が大賢者の後継者として扱われるなんて信じられません。
「そんな君を私が縛っても良いのかい? もしも、君が望めば、君はもっと――」
「フェルナンド様、何だか面倒ですね」
「えっ?」
私はくるりとフェルナンド様の正面に回って、彼の右手を両手で握りました。
何だか話が壮大になってきて照れ笑いが出てしまいます。
大賢者アーヴァインの孫ということについて、今日ほど考えさせられたことはありません。
「面倒ごとが増えるかもしれません。色々と予想もつかないことも。でも、私はフェルナンド様のお側にいると決めていますから」
「シルヴィア……」
「こんな私ですが、ずっと一緒にいてくれませんか?」
昔は大人っぽいお姉様の婚約者としてでしか見ていませんでした。当たり前なんですけど。
ですが、こうして共に過ごしていると安らぎますし、何よりも私のことを大事に考えていることも伝わります。
他の誰が私をどう思おうと関係ありません。
だって、私はこの方と共に人生を歩みたいって思っているのですから。
「退屈とは無縁の人生になりそうだ」
「ですが、そういうのは嫌いではないですよね?」
「よく知っているじゃないか。今、とても幸せだよ」
「私もです」
一難去ってまた一難という言葉が遥か東の国にはあるみたいです。
そんなのいくらでも乗り越えてみせます。
だって、私はフェルナンド様と迎える明日がとっても魅力的なんですから――。
◇ここで、第一部は完結です◇
シルヴィアとフェルナンドの物語がようやく一段落つきました。
とりあえず、ここまでの話をブラッシュアップして、加筆修正した上で番外編とか書いちゃったりして、何とか書籍に出来れば……、と思っています。
いくらなんでも、これをこのまま本にするなんて勇気ありませんし、ツッコミどころ満載ですし、めちゃめちゃ頑張らないと商業作品としての水準に達しないでしょう……。
ということで、今作品を加えて四作品が同時に書籍化作業進行中となっています。
それ自体は幸運なのですが、正直に申しまして、自分が作家として駆け出しなので自らのキャパシティを把握しきれておりません。
ですから、大変申し訳ありませんが、WEBでの投稿をしばらく休ませてもらいます。
余裕が出来次第、少しずつ投稿出来るように努力しますので、何卒ご理解の方をよろしくお願いしますm(_ _)m
厚かましいお願いですが――
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