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52.力の責任

 岩巨人の鉄槌(ゴーレムハンド)、巨大な大理石で出来た拳でニックを叩き潰します。

 同じ手に二度と引っかからないと言っていたのに簡単に引っかかったのは意外でした。

 案外、うっかり者なのでしょうか……。


「無駄だと言っている! そんな単調な攻撃で“黒魔術師”を――」

岩巨人の蹴撃(ゴーレムキック)……!」

「ばむっ……!?」


 今度は下方から大理石で出来た足でニックを蹴り上げました。

 痛そうな顔をしていますけど、また完全再生魔法で治していますね。

 死者をも蘇生させ、どんな致命傷も一瞬で治し、そして自らの体を若返らせることを可能とする魔法。

 

 古代人は最初、不老不死の研究の末にこの魔法を作ったとされています。

 しかしながら、人間に使うことを禁じようと制限をかけた。

 それはこの世の摂理を覆せば、滅びのときが早まるだけだと分かったからだそうです。


 凄く便利だと思います。大事な人が死んだり、大怪我を負ったり、そんな状況でこの魔法があったなら、縋ってでも使って欲しいと頼む人もいるはずです。


 だけど、禁忌とされたのは人の無限の欲望は歪めると悪意に飲まれることが分かっていたからだと、お祖父様は言っていました。


『シルヴィア、力を過信してはいけません。飲まれず、欲せず、加減することを覚えなさい』


 自らの器量を超える力を持つと、力に動かされるようになってしまう。

 なるべく、手のひらに収まるように、加減して、自分の制御可能な範囲で小さくまとめなさいという祖父の最期の教え。

 

 そうしないと自分を見失うことになるから。

 

 ニックは強大な力に溺れていて、それを持て余して、暴走しているように見えます。


「加減するとはやはり二流だな。本当の殺意というものを見せてやる。大魔炎(ギガフレア)ッ!」


終焉の魔炎(レクイエム・フレア)――!」


「はぁっ!?」


 空中でニックが魔法陣を展開させて炎を放ったので、私も魔法陣を空中に向けて展開し、それよりも大きな炎を纏った岩石を放ちました。

 岩石はニックの放った炎を飲み込んで、彼の方に飛んでいきます。

 ニックは私が反撃したのが予想外だったのか、びっくりしたような表情を見せました。


「だが、私にはそんなもの効かない! 破壊魔法(ブレイク)ッ!」


 しかしながら、ニックは破壊魔法でそれを消滅させながら、私の方に猛スピードで距離を詰めてきます。

 一気に勝負を決めるつもりみたいですね……。

 

雷神の鎚(トールハンマー)!!」

「なっ――!? 破壊魔法(ブレイク)!!」


 ニックを十分に引きつけて、私は彼に向かって雷神の鎚(トールハンマー)を放ちました。

 彼はまたしても驚いた表情をした上で、破壊魔法でそれを消滅させようと抑え込みます。

 

 それでも雷神の鎚(トールハンマー)は照射され続けますので、私とニックは膠着状態となりました。


 ニックを捕まえる方法。

 実は一つだけありました。

 完全再生魔法も破壊魔法も魔力を使って発動させています。

 それならば、彼の魔力を空っぽにさえすれば、彼を無力化させることが可能なのです。

 魔法の使用を封じる枷さえ付けてしまえば、その後、彼の魔力が戻っても何も出来ません。


 お父様が最初に雷神の鎚(トールハンマー)を放ったとき、彼が撤退したのもそうなることを恐れて……、でしたから。

 その時分かったのです。体力や寿命すら元に戻してしまう完全再生魔法も、唯一“魔力”だけは元に戻せないということが。

 魔力を使って魔力を戻すという矛盾だけは解消出来なかったみたいです。


 そして、あの時から今まで、まだ数時間しか経っていません。

 つまり、ニックの魔力量はピーク時よりも少ないのではと、予想出来ます。


 それならば、彼に魔法を使わせ続ければ魔力を枯渇させることはそれほど難しくないと、私はその可能性に賭けてみました。


「分かったぞ、お前の狙いが。私の魔力切れを狙っているのだな。しかし、雷神の鎚(トールハンマー)など、未熟者のお前が使ったとてそう長く保たんだろう」


「かもしれませんね。でも、あなたを殺さずに捕まえることが出来るなら、私はこんなリスクくらい背負います。お祖父様が加減することの方が難しいと言われたのはこういったことなのでしょう」


 魔術同士のぶつかり合い。

 お互いに自身の魔力が尽きるまで、魔法を放ち続ける覚悟で挑んでいます。


 ノーマン家に伝わる秘術、雷神の鎚(トールハンマー)

 確かにまだ、私には荷が重かったのかもしれません。


 申し訳ありません。お父様、イザベラお姉様、そして、フェルナンド様……。

 あと一歩のところで私は――。


「何という娘だ。間違いなく、才能だけなら私やアーヴァインをも凌駕する。だが、私の勝ちだ! ここで死ぬが良い!」


 雷神の鎚(トールハンマー)という魔法によって奪われる体力は想像以上でした。

 魔力には若干余裕があっても立っていることが出来なくなってしまったのです。


 目を閉じて、私は死を覚悟しました。

 でも、そのときは一向にやって来ません。

 それに今、誰かに抱きかかえられているような……。


「ぐはっ――!? き、貴様〜〜!」

「まったく、君は無茶ばかりする。私たちが到着するまで時間を稼ごうという発想は無かったのかい?」


「フェルナンド様……」


 気が付くと私はフェルナンド様の腕の中にいて、ニックは腹を剣で刺されて苦しそうな表情を浮かべています。

 すぐに完全再生魔法を使わない? まさか、魔力が切れかけている?


「よく頑張ったね。君が居てくれて本当に良かった」


 優しく頭を撫でられて、私は安心してしまいました。

 こんなときですが、頑張ったご褒美としてもう少し甘えても良いでしょうか?


次回くらいでニックとの戦いも一段落つけそうです。


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