51.守るべき者たち
私たちの祖父、アーヴァイン・ノーマンはニックを投獄してすぐに、病に倒れて衰弱死したと聞いていました。
元々、体が良くないのに年甲斐もなく無理をしたのだとお父様は仰っていましたが。
ニックの言う「国に殺された」という発言の真意は分かりませんけれど、この人を止めないと大変なことになるのは明白です。
「ほほう。やる気満々という顔だな。だが、シルヴィア・ノーマンよ、お前一人では私を相手にするのは無理だ。ティルミナを殺ったのはお前の姉なのだろう?」
「なぜそれを……? それに私は一人では――」
イザベラお姉様が雷鳥の爪を使ったとき、まだニックはこの場には居ませんでした。
私とお姉様の会話から推測したにしては断定的ですし、何よりも気になるのはまるで私が一人でニックの相手をしなくてはならないという口ぶりです。
「観察力は鍛えたほうが良いぞ。なまじ優秀だから周りが見えないと言われていないか?
イザベラ・ノーマンは魔力が枯渇している。魔術師の余剰魔力は瞳の曇り加減から推測するのは常識だぞ」
「お、お姉様……?」
「うるさいですね。これくらい平気ですわ。うっ……」
そうでした。雷鳥の爪も大量の魔力を使う魔法ですが、その前に氷漬けにされていましたね。
恐らく、その時の生命維持にもかなりの魔力を消費したのでしょう。
それなのに、弱い私の代わりにイザベラお姉様はティルミナにあんな大掛かりな魔法を。
「シルヴィア・ノーマンよ。再生魔法が使えるほどの才気を見せているが、お前は所詮、一流の魔術師にはなれん紛い物だ。魔術師とは人から神へと一歩近付いた存在。人を殺す覚悟もないお前にはその自覚が欠けている!」
なんと傲慢な考えでしょう。
魔術師がそれほど上等な存在だとは思いません。
力に溺れて、その力を悪用して、人の命を簡単に奪ってしまう人間が偉いなんて間違っています。
しかしながら、この人を生かして拘束する手段も分かりません。
捕まえることが出来ないのなら、命を奪ってでも止めなくてはならない相手だということは分かっているのですが……。
私がお姉様の言うような「良い子ちゃん」だから、こんなにも窮地なのでしょうか……。
「追手も迫ってきているし、紛い物の相手をするのは面倒だ。長話をするのもな。私は一番厄介なお前たちの父親を殺してから、身を潜めるとしよう。医務室はあっちか……」
「……そうですね。このまま、あなたを放置する訳にはいきません。ましてや、父を殺害する予告をされて黙っているわけには……!」
ドス黒いものが心臓から吹き出るような気がしました。
これは嫌悪感ではありません。
悪意というのか、殺意というのか、憎悪というのか、言葉に出来ないような真っ黒な感情。
こんな気持ちにならないと止められないのですか。
こういった感情を持たないと本物の魔術師になれないのですか。
私には分かりません。ですが、ここでニックを――。
「飲まれてはなりません! シルヴィア!」
「――痛っ!? お、お姉様?」
その瞬間、私はイザベラお姉様に頬を打たれました。
彼女の目は虚ろで今にも倒れそうなのに、その平手打ちは熱くてとても痛いと感じます。
「あなたはそのまま“良い子ちゃん”でいなさい。じゃないと悪態がつけないじゃありませんか」
「…………」
「あんな男の言うことなんて薄っぺらい戯言ですわ。いい歳して恥ずかしくないのかっていうくらい。殺さない人間の方が上等に決まっているじゃありませ……ん……、か」
イザベラお姉様は私に声をかけた後に、倒れてしまいます。
当たり前のことを、当たり前だと感じられなくなっていた異常性をお姉様は正してくれました。
いつも冷たくあしらわれるのに、どうしてこんなにも温かいと感じることがあるのでしょう。
「なんだ、死合う気になったのではないのか……。煽ってみたが、つまら――」
「岩巨人の鉄槌……!」
「へぶぅっ!?」
もう私は迷いません。
私は、自分が正しいと信じた方向に真っ直ぐに進みます――。
そろそろ、クライマックスです。
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