46.良い子ちゃんの理屈
イザベラお姉様の提案で、まずはティルミナを討取ろうという話になりましたが。
彼女は人が死のうと、どうなろうとお構いなしという倫理観が壊れている人です。
ライラ様も近くに居ますし、彼女がなりふり構わなくなったとしたら、更に危険な状況になるやもしれません。
とすると、この場から引き離す他ないのですが――。
「さて、そろそろ私も動こうか。ナルトリア王国などどうなろうと知ったことではないが、ノーマン家には屈辱を与えられている。その血族を根絶やしにするのも一興だ」
「あら、随分と言ってくれますわね。わたくしのことを仲間に勧誘するほど余裕がなかった癖に」
「本当はお前にライラを殺させることで、ノーマン家の名誉を地に落としてやりたかったのだがな。まぁ、どこぞの軽率な馬鹿な娘のせいで既に評判は落ちていたが……」
「その軽率な馬鹿娘にあなた方は敗北するのです。残念でしたわね……」
イザベラお姉様、凄く開き直ってますね。とても良い顔つきで……。
この負けん気の強さがお姉様の心の強さだと私は勝手に思っています。
しかし、この場からティルミナを引き離すにあたって気がかりなのがニックの存在です。
私たちが彼女の相手をしている間にニックが動いたとしたら――。
「ええい! シルヴィア! イザベラ! 貴様らは我らに構わず、あの傾国の魔女の息の根を止めるのだ! ニック・ノルアーニは我が国の精鋭たちが食い止める!」
「「――っ!?」」
ライラ様の言葉で振り返ると操られていた方々はほとんど鎖で縛られていて、無力化されていました。
暴れていますが、あれでは動けないでしょう。
さすがは大国ナルトリア王国の精鋭たちです。
「我らにお任せあれ!」
「他の者が操られてしまう前に!」
「さっきの氷魔法は見事でした! こちらは我々が何とかします!」
「お姉様! 付いてきてください!」
「わたくしに指図しないでくださる!?」
ここは皆さんにお任せして、やはり分断策を取りましょう。
でないと、ティルミナに深手を負わせても立ちどころにニックに再生魔法をかけられてしまうでしょうし……。
そして、なるべく早く戻ってきて加勢しなくては――。
「ティルミナ、我らを分断させるつもりらしいぞ」
「別に構いませんよ〜〜。小娘の二人や三人、お相手して差し上げます〜〜。ニックさん、殺したら、傀儡にするのを手伝ってくださいね〜〜」
手をひらひらと振りながら背を向けるティルミナ。
どうやら、私たちの思惑を知った上でこの場を離れるみたいです。
「へぇ、大人しくこの場を離れるなんて、わたくしたちをまだ侮っているのですか?」
「嫌ですね〜〜。私は世の中の全てを侮っていますよ〜〜。生ける者は皆、私の玩具。知っていますか〜〜? 国が滅びる瞬間って最高の喜劇なんですよ〜〜。うふふふふ」
私はこのティルミナという魔女についてほとんど知りません。
幾つかの国がこの人のせいで滅びたと聞いています。
彼女曰くそれは自分の快楽のためみたいです。
「分かりません。そんなことが楽しいと感じることが私には。人が苦しんでいる様子を見て楽しいのですか?」
「あらあら〜〜。あなたは良い子ちゃんなんですね〜〜。よっぽど、これまでの人生が恵まれて来たんでしょう。優秀な魔術師ですから〜、お姉ちゃんと違って〜〜」
「…………」
「お姉様……?」
背を向けたまま、ティルミナもまた私のことを「良い子ちゃん」だと言います。
私が恵まれていたというのは事実です。貴族として生まれて、何一つ不自由はしていませんでしたから。
でも、お姉様だって――。
「お姉ちゃんは見るからに欲求不満な人生を歩んで来ていますね〜〜。卑屈さが滲み出ていますよ〜〜。妹へのコンプレックスが〜〜。私と同類の匂いがします〜〜。人の不幸が嬉しくなるような、悪い子ちゃん……」
「…………」
「妹ちゃん、私と手を組んだら上手く事故に見せかけて殺してあげられますよ〜〜。例えば、誰にも見つからない場所で――」
「魔炎ッ!」
「――っ!? 会話中に魔法を使うなんてお行儀が悪い子ですね〜〜」
ティルミナの言葉が言い終わらないうちに、イザベラお姉様は炎を手のひらから放ちました。
ティルミナは後ろを振り返りもせずに、それを避けます。
お姉様が私のことを恨んでいたことは知っていましたが、だからといって私を殺すなど……。
それに、さっきの雰囲気では姉妹仲も良好になって――。
「この子の鼻柱を折るのはわたくしの意志で成し遂げます。あなたみたいな年増女に乗せられて……なんて、そっちの方が気分が悪いですから」
姉妹仲は良好になっていませんでしたね。
それはそれで、お姉様らしいのですが――。
イザベラはやはり面倒臭いです。
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