44.傀儡にされた者たち
幾つもの国を破滅へと追いやった、通称“傾国の魔女”ティルミナ。
ノルアーニ国王の弟にして、国の乗っ取りを企み国家反逆罪で投獄されていた、通称“黒魔術師”ニック・ノルアーニ。
現在進行形でこの国を混乱の渦に巻き込もうとしている元凶が目の前に現れました。
ちょっと待ってください。この場所は王族やその賓客だけが食事を摂ることができるスペースです。
もちろん、兵士たちが厳重に守っていたと思うのですが――。
「貴様ら! 我が国の兵士たちをどうした!?」
「あらあら、ライラ様ったら、眉間にしわを寄せたら可愛い顔が台無しじゃないですか~~。勿体ないです~~」
「ふざけるな!」
質問に答えずに挑発的な言動をするティルミナにサーベルを抜いて怒りを顕にするライラ様。
さっきもこのシーン見ました。この挑発的な言動は彼女の手口なのでしょう。
冷静さを欠いた獲物を死地へとおびき寄せるための……。
「ライラ殿下、抑えてください。あなたの役目は怒ることではありません。この者たちの策略に嵌まらないことです」
手でライラ様を制止しながら、フェルナンド様は淡々とした口調で彼女の怒りを鎮めようとします。
そうです。ライラ様が……、いえ王族の誰かにもしものことがあればナルトリア王国だけでなく、ノルアーニ王国にとっても大いにまずい展開になります。
なんせ、ニックは元々ノルアーニ王家の人間なのですから。
両国間の友好関係を破壊するには十分すぎるほどの口実となるのです。
ティルミナ……いや、特にニックの目的はそこにあるのだと最初から予想されていました。
「むっ……! 分かっている。私が出ずとも、私には親衛隊がいる! ノコノコと出てきたことを後悔させてやれ!」
「「はっ――!」」
フェルナンド様の声を聞いて冷静さを取り戻したライラ様は自らの護衛の方々をティルミナとニックの討伐へと向かわせました。
完全再生魔法を操るニックには半端な怪我を負わせても意味がありませんから、彼らも殺気を込めて、剣を振り上げます。
「ティルミナ、例のアレを見せてやれ」
「リクエストにお答えしまーす」
「「おおおおおおっ!!」」
「「――っ!?」」
ニックの言葉を受けてティルミナは指をパチンと鳴らします。
すると、彼女の背後から怒号のような叫び声と共にこの国の兵士たちが幾人もこっちに向かって来るではありませんか。
先程のアルヴィン様みたいに自分の意志とは関係なく操られているようにも見えます。
「ライラ様! お命を頂戴します!」
「ライラ殿下にこの剣をねじ込む! ねじッ! ねじッ!」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!」
「お、お前ら、何を言っている!?」
「どうしたんだ!? 急に……!?」
「ぐぐっ……! すごい力だ……!」
ライラ様を守っている王族直属の親衛隊は兵士たちの中でも精鋭中の精鋭であり、一般の兵士たちよりも戦闘面において数段優れています。
ですが、ライラ様に襲いかかろうとする兵士たちはアルヴィン様と同様に人並外れた怪力を持っているので、苦戦されているみたいでした。
「殺しちゃった方が楽ですよ〜。うふふふ、それでも動きますけど〜」
「人間は常に自分の力をセーブしている。自らを傷付けぬようにな。だが、傀儡たちにはその楔がない。死ぬまで……、いや死んだとしても、踊り続ける人形」
「素敵でしょう〜? まさしく世界を統べる者に相応しい力です〜」
あの口ぶり、やはり傀儡魔法を生きた人間に使っているみたいです。
傀儡魔法を止めるためには――。
「ティルミナとやらの息の根を止めるしかないでしょう」
「もしくは彼女に術式を解除してもらうか、です。お姉様……!」
「あの女はそういうタイプじゃありませんわ。良い子ちゃんのあなたには理解できないかもしれませんが」
イザベラお姉様の目つきが変わりました。
先日、私に風魔法を放ったときよりも、殺気を撒き散らしています。
お姉様はティルミナのことを私よりも理解しているのでしょうか? その上で話が通じる人間ではないと――。
「わたくしは……シルヴィア、あなたのことが嫌いです」
「存じています。……残念ですが」
「……そして、わたくしは、そんなわたくしが大嫌いです。嫉妬と羨望の塊のようなものですから」
「お姉様……?」
「あの女はそんなわたくしを百倍嫌な感じにしたような屑ですわ。同族嫌悪というのでしょうか? 粉々にしてやりたい気分ですの……!」
なぜ、急にイザベラお姉様がそのようなことを仰るのか理解できませんでした。
しかし、この一瞬だけ私はお姉様と姉妹に戻ったような気がしました――。
傀儡魔法は厄介な魔法なのです。
↓にある広告下の【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】をタップまたはクリックして現時点での【評価】をしていただけると嬉しいです!




