４３.違和感の正体
銀光の枷でライラ様をナイフで刺そうとしたアルヴィン様を拘束した私。
アルヴィン様は物凄い表情で私を睨みます。
「この無礼者！ シルヴィア、お前！ この拘束を解け！ 僕は王子だぞ！」
「アルヴィン様、質問に答えてください。ライラ様をナイフで刺そうとしましたね？」
「知るか！ ナイフなど知らない！ 僕は連中の目的を話してやろうとしただけだ！」
この状況でもとぼけるつもりですか。
何でしょう。やはり、違和感しかありません。
そもそも、ライラ様をナイフで刺すような気概があればもっと最初から彼女に怯えたりしないはずですし。
「アルヴィン、貴様！ この私を殺す気だったのか！？ この状況でナルトリア王国に喧嘩を売るとはいい度胸だな！」
「だから知らないって言ってるだろ！？ 言いがかりだ！」
「では、お前が握りしめていたこのナイフは何が目的なんだ！？ 言ってみろ！？」
「だから、それは……！ うぐぐぐぐぐっ！ があああああああああっ！」
「「――っ！？」」
アルヴィン様が私の魔法での拘束を力で引きちぎりました。
この銀光の枷は魔獣と呼ばれる力の強い獣型の魔物すら動きを封じることが出来ますのに。
彼の膂力はそれを遥かに超えているとでもいうのでしょうか……。
「アルヴィン殿下！ お止めください！ ぐっ……！？」
「があああああああっ！」
フェルナンド様が慌ててアルヴィン様を抑え込もうとするも、突き飛ばされて倒されてしまいます。
そして、彼は落ちているナイフを拾って再びライラ様に突撃しようとしました。
「……まったく、シルヴィアの甘さには反吐が出ますわ。魔雷ッ――！」
「うがっ……！？」
イザベラお姉様の得意の雷属性の魔法がアルヴィン様の体を穿ちます。
いやいやいやいや、人間の何倍もの大きさの魔獣を昏倒させる威力ですよ。それは……。
私が甘いのは認めますが、容赦なさすぎではありませんか。
「貴様、あの男のこと……。いや、何でもない……」
プスプスと少しだけ煙を出して、気絶しているアルヴィン様を見て……さすがのライラ様も引いてしまったみたいです。
イザベラお姉様の凄いところは即断即決で動けるところだと思います。安易にキスして失敗もしているのですが……。
「あなた方、何を日和っていますの？ 銀光の枷を自力で破るくらいの力を持っていますのよ。魔獣を相手にするくらいの気概で丁度いいですわ。きっと、変な薬か何かを飲まされたのでしょう」
「薬……でしょうか？ 何か、もっと恐ろしいものというか、厄介な感じがしますが……」
「薬じゃなきゃなんですか？ まぁ、どっちにしろ、気絶しているうちに――」
「があああああああっ！！」
「「――っ！？」」
お姉様が気絶しているうちにアルヴィン様を拘束した方が良いと提案する前に彼はムクッと起き上がり、再びライラ様に向かっていきます。
言葉にならない声を上げて、ナイフを握りしめて、真っ直ぐに――。
「まさか、わたくしの魔法を受けて平気だったとでも――！？」
「いえ、意識は失ったままです。そこから導き出される結論は一つ……！」
「「アルヴィン様は何者かに魔法で操られている……」」
傀儡魔法というものがあることは知識として知っています。禁術なのですが、遺体を自在に操る魔法です。
生きているアルヴィン様を操っていることは解せませんが、一度死んでいる人間ですし或いは私たちが知らないだけでそういうことも可能なのかもしれません。
「お姉様！ 合わせてください！ 銀光の枷！」
「わたくしに指図しないで下さる？ 金輝の鎖ッ！」
私の放った銀色の錠がアルヴィン様の手足の自由を再び奪うのと同時に、イザベラお姉様の放つ金色の鎖が彼の体に巻き付いて更に拘束力を強めます。
これくらい頑張ればドラゴンすら身動き一つ取れなくなるはずですから、さすがにアルヴィン様も動きを止めざるを得ないみたいです。
「あらぁ？ アルヴィン殿下ったら、思った以上に役立たずじゃないですか〜」
「所詮は使えぬ愚図だからな……」
「ティルミナ！ そして、ニック……！」
アルヴィン様が暴れだすという騒動がやっと一段落ついたと思っていたら、黒幕の登場ですか……。
しかし、先程は逃げ隠れしたのに、堂々と現れるなんて――。
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