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40.辺境伯として、友として

 幾つもの国に混乱を招き、このナルトリア王国の内乱の原因にもなっていたという、通称“傾国の魔女”ティルミナ。

 

 どういう訳か、彼女は私たちの故郷であるノルアーニ王国の国家転覆を企んだニック・ノルアーニと手を組んでいるみたいです。


「なぬぅっ!? あのティルミナが現れただとっ!? あの女生きておったのか!」


 玉座から立ち上がり、大きな声を上げたのは……ナルトリア王国の国王、レオンハルト陛下です。

 その血管が浮き出ていて、今にも弾けそうなくらいの形相で怒りに打ち震えている様子から察するに、ティルミナという女性がかつて如何にしてこの国を掻き回したかが伺い知れます。


「伯父上を狂わせた元凶がいつの間にかメイドと入れ替わっていたようなのです。ノーマン姉妹がそれを看破していなければ、さらなる混乱もあり得たでしょう」


「ぐぬぬっ! あの女狐、また我が国を壊しに来たのではあるまいな……! 至急! 全兵士たちに伝達せよ! 魔女、ティルミナを見つけ次第、殺すようにと!」


 ライラ様からの報告を聞いたレオンハルト陛下からは先程の豪快さは見受けられなくなっていました。

 とにかく、問答無用で殺せという命令を全兵士に最優先事項として告げたのです。

 

「恐れながら陛下。もう一つ報告があります」


「フェルナンドか。悪いが有事である。手短に話せ……!」


 フェルナンド様は一通りの話が終わるのを待って、前に一歩出ます。

 そう、私たちノルアーニの人間にとってはティルミナ以上に大きな問題が浮上していました。

 彼はそれを陛下に伝えるのでしょう。


「我が国の第二王子、アルヴィン・ノルアーニが自害しました。軟禁されていた部屋で……」


「なっ――!?」


「自ら首を吊って……! 目撃してそれを兵士やライラ殿下に伝えた女が例のティルミナだったのです」


 フェルナンド様はアルヴィン殿下が亡くなり、そして遺体をニックがどこかに運んでしまったことを話しました。

 そして、ティルミナとニックがそこで繋がっているということも。


「陛下、アルヴィン殿下は亡くなりました。殿下の友人として、王室より外交を任された身として、私はこの件について責任を取らねばなりません。アルヴィン殿下のご遺体の確保、ティルミナとニックによる陰謀の阻止のために、ノルアーニ本国より援軍を出すことをお許し下さい」


 最後に……フェルナンド様は辺境伯として外交を任された責任を取ることを強調しました。

 すなわち、ノルアーニ王国側からも兵士などを派遣して問題解決のために全力で動きたいと希望を出したのです。


 アルヴィン殿下とイザベラお姉様の浮気を謝罪しに来ただけでしたのに、それどころではない問題に発展して、私は混乱しているだけなのですが、フェルナンド様はそれでも毅然と事実と向き合っていました。


「アルヴィン殿は仮にも彼は義理の息子になる予定の人物だった。……よかろう。アルヴィン殿の遺体を回収するまでの間、ノルアーニ王国の介入を許そう……! 我々も遺体の捜索を最優先する!」


 過ちを犯したアルヴィン殿下はお姉様と同様に簡単には許されないと思います。

 しかし、亡くなってしまった方を更に貶めるようなことを陛下は選択しませんでした。

 あくまでも、娘の婚約者として敬意を払い、殿下の死を弔うために手助けしてくれることを約束してくれたのです。


「軽率な馬鹿者だと思っていたが、あれでも私の婚約者。死後、冒涜することは許さん」


「はぁ、ライラ様もほとほと甘い方ですわね。てっきり絶対に許さないと決めているのかと思いましたわ」


「貴様は絶対に許さん」


 ライラ様もイザベラお姉様もアルヴィン殿下の遺体を優先することには異論を挟みません。  

 私も持てる力を最大限に活用させて必ず殿下を――。


「陛下ーーーっ! 陛下ーーーーっ! た、大変です! 陛下ーーーーっ!」


「なんだ!? 騒々しい!」


 そんなとき、慌ただしく大声を出しながらレオンハルト陛下の元に兵士が走ってきました。

 なんでしょう。幽霊でも見たような顔をしていますが……。


「アルヴィン殿下が見つかりました!」


「「――っ!?」」


 意外というか、驚きました。

 ニックとティルミナがわざわざ偽装までして遺体を運んだのです。

 何か争いごとに火付けに利用するのとばかり思っていましたから。


「ふむ。遺体だけでも見つかったのなら何よりだ。それで、アルヴィン殿の遺体はどこに?」


「いえ、それが。アルヴィン殿は健在でして、空腹を訴えられましたので、食事を摂っております」


「「――っ!?」」

アルヴィン、死んでいた方が団結できたかもしれません。


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