4.大地再生
ノルアーニ王国の最西端に位置する広大な領地。
マークランド家が代々治めており、フェルナンド様も若くして辺境伯の地位に就いてからはこの広い領地を如何に住みよい場所に開拓するかに力を注いでいたそうです。
「二百年近く前に干ばつが続いたらしいんだよ。この付近、一帯がね。それまでは青々とした草木が生えていて、土も良かったから農地にしようと計画していた、と書物には記されている。だが、今はご覧の有様だ」
フェルナンド様は私を彼の領地の中で死んだ土地――つまり荒地となった場所に案内しました。
なるほど。土からは水分が抜けてゴツゴツしていますし、見事に一握りの雑草すら生えていませんね。
しかも範囲が広い――これだけの場所が農地になっていたとしたら、フェルナンド様の領地の収穫量は跳ね上がるに違いありません。
「私をこの場所に連れてきた理由というのはまさか、再生魔法で――」
この有様を見てフェルナンド様が何を考えてここに私を連れてきたのか大体察しがつきました。
イザベラお姉様の身代わりに私がなるという暴挙が許された条件。
それは、私の力を貸してほしいというものでしたから。
ならば、このあとフェルナンド様が何を仰るのか大体察しがつきます。
「そのとおり。君にはこの土地を復活させてほしい。万年筆を新品同様に戻した再生魔法で」
予想どおり、フェルナンド様は荒地を豊かな土地だった二百年前の姿に戻してほしいと仰せになります。
なるほど。それが出来れば確かに凄いですね。
でも、出来るんでしょうか? これだけの規模に魔法をかけたことがありませんので自信はありません。
「やってみます。ですが、出来るとは言い切れません。……失敗したら、どうしましょう?」
「あはは、ごめん、ごめん。別に再生魔法はダメ元さ。出来なくても君の待遇を悪くするなんて思っていないから安心してくれ。姉上のために、家のために、怖いのを我慢して頑張った君の心意気を台無しにするつもりはないよ」
正直に自信がないことを告げると、フェルナンド様は失敗しても大丈夫だと告げました。
でも、私が身代わりになる条件ってそういうことでは無いのですか? 失敗したら、お役御免に――。
「失敗しても君が優秀な魔術師であることは間違いない。そもそも、この縁談はノーマン家が魔術的に優秀であるから成り立ったんだ。君からは、姉上にも劣らない素質は見させてもらったから。まぁ、これが出来たら、口うるさい年寄り連中をだまらせる材料になるんだけど。それだけだ」
「……そうですか。――では、自信はありませんが、やってみます!」
フェルナンド様は失敗したからといって、立場が悪くなることはないと、優しく告げてくれましたので……私は安心して荒地の再生にチャレンジしてみようと魔力を両手に集中しました。
「再生魔法――!」
効果範囲も元に戻す時間も、先日の万年筆とは桁違いです。
あっ!? よく考えてみれば、一度に広範囲で再生しなくてもちょっとずつでも良かったのでは?
見渡す限りの広い荒野に圧倒されて、つい大規模に術式を展開してしまいました。
「うっ……、さすがに……、少し疲れました」
額から落ちる汗を拭って、私がよろけるとフェルナンド様は抱き止めてくれます。
せっかくですから、このまま好意に甘えて支えてもらいましょう。
それくらいは許されるはずです。
「驚いたな。こんなにも早く、こんなに広範囲に渡って荒地を緑豊かな土地に再生させてしまうなんて――」
驚いて頂けて光栄です。
というより、自分でもびっくりです。
私って、なかなかやるじゃありませんか。
見渡す限りに広がる草原や木々から生命の息吹を感じて、私は自分の働きに満足しました――。
シルヴィアも割と変な性格かもしれません。
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