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38.傾国の魔女

 ライラ様にティルミナと呼ばれた女性は不敵に笑いながら私を見ます。

 値踏みされているような嫌な視線です。


「ふーん。私の魔力の痕跡を見抜くなんて~。ノーマン家のご令嬢は噂どおり優秀なんですね~。特に妹の方が……。ニックさんの言うとおりです」


「なんですって! もう一度、言ってご覧なさい!」


 イザベラお姉様の方に視線を送りながら、挑発的な言動を放つティルミナに対して、お姉様はムッとした顔で反発しました。


 お姉様の負けず嫌いなところが出ています。そうやって、冷静さを失わせようとするのはティルミナの作戦なのかもしれません。


「知ってるわよ~~。そこの王女様の婚約者にキスして投獄されていたんでしょう? おバカさんよね~。妹ちゃんもそう思っているでしょう?」


「……ええーっと、身内としてそれは答えにくいというか」

「うるさいですね! ライラ様が許してくれたのですから良いでしょう!」

「私は許してないぞ。ナチュラルに図々しい奴だな、貴様は……」


 ティルミナの質問に返答を窮するとお姉様は不機嫌になります。

 だって、アルヴィン様とキスしたのはあまりにも軽率というか、本来なら許されない行為ですし。

 

 ……ライラ様ももちろん未だにお姉様に対してお怒りみたいです。

 それはそうですよね。何一つとして、許されることをしていないのですから。


「うふふふ。醜く争う姿ってなんて美しいのかしら~。ライラ殿下~、義弟によろしくお伝え願いまーす。この国、滅ぼしちゃうぞって」


「ふざけるな!」

「ダメですよ! ライラ様、危険です!」

「――っ!?」


 尚も、挑発的な言動を繰り返すティルミナにライラ様はサーベルを片手に切りつけようとします。

 私はティルミナが魔法を使う気配を察知して、ライラ様に飛びつきました。


 その瞬間、魔法陣が形成され……そこから岩石が飛び出して壁にぶつかり砕け散ります。

 当たっていたら、痛いでは済まなかったでしょう。


「やっぱり、妹ちゃんの方が優秀ですね~。それでは、また。ご機嫌よう~~」


 今度は窓に向かって岩をぶつけて、笑みを浮かべながら外へと出て行きました。

 何でしょう。あの方、笑っているのに、怒りのような感情しか感じられませんでした……。

 

 ニックとはまた別の恐ろしさがあるように見えます。

 

 

「で、あの女はなんですの? 無礼にも程がありますわ」


「無礼さ加減は貴様に通ずるところがあるが、情報は共有しておいてやろう。ニックの仲間であることも確定したしな」


 イザベラお姉様の質問にライラ様は答えると仰せになりました。

 どうやら、ティルミナという人間。この国ではかなりの問題人物みたいです。


「ティルミナは現国王の兄の妻、つまり先代国王の側室で私の叔母だった女だ」


「「――っ!?」」


「それだけじゃない。三十年前に滅びたジルバニア王国の王妃、五十年前に解体したバーミリア帝国の将軍の妻、姿形を変えているが、この大陸の要人たちに取り入り、ことごとく国を滅ぼしてきた。それがティルミナという魔女なんだ」


 ええーっと、数年前にこの国で内乱があって、国王が代わったことは知っていましたが、まさかそんな背景があったとは……。


 それにジルバニアとバーミリアの噂も聞いたことがあります。

 一人の魔女が好き勝手にした結果、国が乱れて滅ぼされた――そんなお話を。


「では、ティルミナはいわゆる傾国の魔女ということですか。あのいけ好かない感じも納得ですわ」


「この国を滅ぼすと仰ってましたが、その為にニックと組んだということでしょうか……」


「おそらく、な。ノルアーニを滅ぼしたいニックとナルトリアを滅ぼしたいというティルミナ。お互いに利害が一致したのだろう」


 これは私たちだけでは手に負えない問題に発展したような気がします。

 グズグズしていると、大変なことになりそうです――。



傾国の魔女という言葉が使いたかっただけのお話。


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