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35.プライドだけは守らせて頂きます

 お父様は倒れてしまって、医務室のベッドで眠っています。

 多大な魔力の使用による反動による疲労なので、私の治癒魔術も気休め程度にしかなりません。

 魔力というものは毒なのです。自然界の摂理を歪める力――人体もまた自然の一部ですから、お父様は厄介な毒に冒されたのも同様なのでした。


「まったく、年甲斐もなく頑張りすぎですわ。雷神の鎚(トールハンマー)は本来なら三日は魔力を瞑想して練らなくては放てない大魔法ですのに」


「それだけ危険な相手だとお父様は判断したのでしょう。破壊魔法はともかく、完全再生魔法は神をも冒涜する恐ろしい力です」


 お父様は無理をしました。

 ニックが思った以上の危険人物だと察したからでしょう。

 死者蘇生をも可能とする完全再生魔法は放置するととんでもないことに悪用が可能なだけに……。


「……ですが、その雷神の鎚(トールハンマー)でもトドメは刺せなかった。お父様の頑張りは全くの無駄になりました。いえ、倒れてしまっててはマイナスです」


「イザベラお姉様、言って良いことと悪いことがあるのはご存知です? お父様は決して無駄なことなどしていません。ニックを撤退に追い込んだのですから」


「撤退と言えば聞こえは良いですが、結果だけ見れば取り逃がしただけですわ。あんなの」


 イザベラお姉様はお父様のしたことが無駄で意味のないことだと言われます。

 私はそれを否定しましたが、お姉様はその言葉を撤回しませんでした。


「シルヴィア、イザベラ、ここに来て喧嘩はよせ。ノーマン伯爵の離脱は痛い。これから、どうするか……建設的な話し合いをしなくては」


 私とイザベラお姉様が険悪な雰囲気になると、フェルナンド様が仲裁に入ります。

 いえ、別に喧嘩がしたいわけではないのですが、あまりにもな言い方をされたので……。


「これからどうするか? フェルナンド様も日和っていらっしゃるのですか? あのニックとかいうナルシストを見つけ出して燃やし尽くすに決まっているではありませんか」


「随分と過激だな。怒っているのか?」


「当たり前です。あの男はノーマン家の誇りを踏みにじったのですから。わたくし、プライドが傷付けられることが何よりも嫌いですの」


 意外にもイザベラお姉様はメラメラと闘志を燃やしていました。

 そこから感じられるのは彼女のプライドの高さ。

 待ってください。プライドが傷付けられるのが嫌いって――。


「も、もしかして、お姉様。私、もしかしてお姉様のプライドを傷付けています? だから私のことが嫌いになったのですか?」


「――っ!? ……そういう所が嫌いなんですよ。ニックはわたくしが仕留めます。あなたは指を咥えて見ていなさい」


 私の質問にお姉様はちゃんと答えてくれませんでした。

 そういえばイザベラお姉様って、ライラ様とどんな話をしたのでしょう。

 許してはもらっていないと思いますが、思った以上に自由ですよね。



「フェルナンド! アルヴィンのことについて聞きたい!」


 そんなことを考えていると、ライラ様が駆け足で医務室に入ってきました。

 アルヴィン様のことを聞きたいと仰っていますが、アルヴィン様本人に聞けばよろしのでは……?


「どうしました? ライラ殿下。アルヴィン殿下が何か?」


「アルヴィンが急に責任を取って自殺するとか言い出したのだ! あの男は本気なのか!?」


「「――っ!?」」


 アルヴィン様が自殺ですって……?

 そんなことするような人だと思っていませんでしたが……。

 意外とデリケートなのでしょうか。


「100パーセント、あり得ません。ライラ殿下への点数稼ぎでしょう」


「フェルナンド様、そんなにはっきりと仰らなくても!」


 あまりにも歯切れよく、アルヴィン様が自殺するふりをしていると断言しましたので、何だか彼が不憫になってきました。


「そ、そうか。そうだよ、な。自殺するふり――」

「ライラ殿下ーーーっ! アルヴィン殿下がロープで首を――!?」

アルヴィンが自殺を!?


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