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34.この僕を放置するとはいい度胸だ(アルヴィン視点)

 ふ、ざ、け、る、な! この僕を! この王子たる僕を! こんなところに閉じ込めて、どれだけ放置したと思っている!

 

 ライラの奴、イザベラがこちらにやって来ることを伝えたきり、簡素で小さい部屋にこの僕を閉じ込めやがった。

 イザベラの話と僕の話が一致していなかったら許さないと言い残して。

 

 言っとくがなぁ! 僕は本当に悪くないし、あれは浮気の範疇に入ってないぞ!


 泣いている女の子を、この王子たる僕の唇で慰めてあげただけだもん!

 それ以上は断じてしていない! 紳士たるもの、節度は守っている!

 

「いい加減にここから出せ! こちらが大人しいからって調子に乗るな!」


 ドンドンとドアを叩き、壁を蹴り、僕は暴れた。

 イザベラはきっと僕のことを庇うだろう。

 全面的に自分が悪かったと謝罪するのは間違いない。

 そうなれば、ライラも僕に悪意がなかったと気付くはずなのだが――遅い、遅すぎる。


 イザベラはとっくに到着したと聞いたのに、何が起こっていやがるのだ。


「アルヴィン殿下、あまり暴れない方が良いですよ~~。……イザベラさんがアルヴィン殿下にいきなりキスされたって供述したらしいですからね~~。ライラ殿下、相当お怒りみたいです~~」


「な、何~~っ!?」


 部屋で暴れていたらメイドのアリーナが入ってきて、暴れるなとか言い出す。

 どうやら、ライラは機嫌が悪いらしい。僕がイザベラにいきなりキスしたとかいう話を聞いたから。


「確か、アルヴィン殿下は~~。イザベラ様がキスをせがんで、せがんで仕方なかったから、やむを得ずしちゃったみたいなことを仰ってましたよね~~? どちらが本当なんでしょう?」


「お、王子たる僕が嘘などつくか! イザベラが嘘ついているに決まっておるだろう!」


 ふ、ふざけるな! あの女、ぼ、僕を売るような供述をしやがった!

 な、涙目で、すり寄ってきて、上目遣いをしてくれば――そ、それはキスをしてくれとせがんだのと同義だろう。

 だ、大体、そのあと何回もしたんだし。僕からやったなんて、ストレートな言い方をしないでも良いじゃないか。

 

 ボランティアのキスって説明しにくいし……。


「あはははは、アルヴィン殿下ったら。焦っちゃって面白いです~~。ライラ殿下、怒ったら怖いですよ~~。本当に他国の王子でも処刑しちゃったりして~~」


「うっ――!? な、なんだお前は!? こ、この僕に対して、失礼じゃないか!?」


 アリーナは黒髪をかきあげて、挑発的に僕を嘲笑う。

 たかが、メイドのくせにこの王子たる僕を笑うとはどういう了見だ!? この王宮は使用人の教育も満足に出来んのか!?


「ねぇ、殿下~~。もう、助かるには壊すしかありませんよ~~。この国を、ナルトリア王族を、全部壊してしまいましょうよ~~。憎くありませんか? ライラ殿下も、イザベラさんも……シルヴィアさんも」


 背筋に凍るような冷たさが走った。

 さっきまで明るかった、アリーナの声が低く威圧感のあるような感じに変わったのだ。この女、普通じゃない――。


「お、お前は何者だ……?」


「えへへ、私ですか~~? いいですよ、正体くらいは教えてあげます~~」


 アリーナは自分の顔に手をかざすと、黒髪はあっという間に色を失って銀色へと変化する。

 それと同時に彼女の顔つきも少女めいた見た目から、妖艶な魔女のような成熟した雰囲気を醸し出す。

 

 こ、これじゃあ別人じゃないか――。


「ティルミナ、この愚図な王子を誑かして何を企んでいる?」


「ニックさんこそ、勝手にライラ殿下に喧嘩売って返り討ちってざまぁないですよ〜〜」


 アリーナは赤い目をした男にティルミナと呼ばれる。

 誰が誰だって? ていうか、赤い目をしたニックって、確か父上の弟の……? いや、それにしちゃ若いか。


「ふん、まぁいい。私は私の目的を達成出来れば、それでいいのだから」


「アルヴィン殿下〜〜。助かりたいなら〜〜。私と協力しましょう〜〜」


 確かにこのままじゃライラに殺される。殺されるのならいっそのこと……。

 だが、しかし。こいつらも得体がしれないし……。

 いや、それでも、よく見たら。このティルミナって女、すっごく美人だな――。

新キャラ登場、これ以上は当分増やす予定はありません。

何故なら、自分が覚えられないから!


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