33.完全再生魔法
お父様の雷神の鎚によって、ニックは倒されました。消えてしまったところを見ると、恐らく跡形もなく消し飛ばされてしまったのでしょう。
私やイザベラお姉様を制止して、お父様がニックを討とうとしたのは、私たちに業を背負わせたくなかったからかもしれません。
もちろん、お祖父様との因縁も関係あるでしょうけど……。
「再生魔法……!」
雷神の鎚によって壊された箇所を再生魔法で修復しました。
お父様も、私が直せるからって派手に壊したなぁ。
いや、これだけ本気じゃなきゃニックを倒すことが出来なかったと考えるべきなのか。
「ライラ殿下、申し訳ありません。確実にあの男を仕留めるにはこうするしか……」
「いや、それでいい。私もニック・ノルアーニという魔術師を侮っていた。……雷神の鎚か。もしも、ノルアーニ王国と戦争になったら警戒せざる得ないな」
「ご冗談は止めてください。そうならないために私は来たのです」
ライラ様が雷神の鎚を警戒して、戦争とか物騒なこと仰る……。
確かに大砲などよりも強力な兵器かもしれませんが、あれは術者に負担がかかり過ぎます。
長年、修行を積んだお父様でさえ、おそらく――。
「ううっ……、はぁ、はぁ、イザベラ……、シルヴィア……、ワシは少し休む。くれぐれも粗相のないようにな――」
ガクッと膝をついて、息を切らせるお父様。
そうなのです。雷神の鎚はそのあまりの威力の反動で術者の体力を著しく奪います。
下手をすると死の危険性も伴う、この魔術は私もイザベラお姉様も使用を禁じられていました。
「ご覧のとおりです。ライラ様、父は生涯で雷神の鎚を使ったのはこれで三回目。師匠である祖父に見せたとき、私と姉に教えたとき、そして今回。軽々に使える魔術ではありませんので、ご安心ください」
「むっ……、そのようだな。手の空いている者はノーマン伯爵を医務室へ連れていけ。くれぐれも丁重に、だ」
その場で横たわるお父様を見て、ライラ様は兵士に命じてお父様を医務室へと連れて行くように命じました。
どのような覚悟で術を使ったのか、どうやら通じたみたいです。
「ひぃぃぃぃぃ!! なんだ、これはーーーーっ!!」
「「――っ!?」」
その時です。私が補修した壁のさらに奥の方から大声がしました。
その声の方を咄嗟に見ると、窓の奥で血塗れで丸焦げのニックが青白い光に包まれて浮かび上がります。
そして、全身の汚れも消えたきれいな彼に戻ったのでした。
傷が癒えたニックはこちらを一瞥するとニヤリと笑って、空高く舞い上がり見えなくなりました。
「あ、あれを受けて無事だったのか……」
「そんなバカな!? わたくしの陽動は完璧。お父様の雷神の鎚はタイミング的にも絶対に当たっていました。まともに受けて無事でいられるはずがありません」
これにはライラ様もイザベラお姉様も目を丸くしてニックの無事を確認します。
お姉様の仰るとおり、私も雷神の鎚が命中したところは見ていました。
避けていないのは確実。それならば――。
「耐えたということになりますね……」
「あんなのを人間が受けて耐えられるはずないでしょう!」
私はお姉様にニックが雷神の鎚に耐えきったのでは、と仮説を述べると、大声で否定しました。
「常に再生魔法を自らにかけ続けていたら、どうでしょう?」
「はぁ……?」
「傷付いた先から、時間を傷付く前に巻き戻していけば、理屈の上では無傷でいられますから」
再生魔法をかけっぱなしにしておけば、雷神の鎚が身体を穿つ間も無傷でいられるかもしれないと、私は説明しました。
激痛には耐えなきゃならないと思いますけど……。
「だが、あいつは黒焦げの血塗れだったんだぞ。無傷ではなかった……」
「再生魔法は魔力の消耗が激しい魔法です。完全再生魔法はリミッター解除という明らかに無理をしています。多分、魔力が尽きかけたのでは?」
それならば、ニックが元に戻ったにも関わらず退散した理由も説明がつきます。
彼はギリギリの魔力で復活したのです。
しかし、お父様が雷神の鎚を使っても仕留めきれませんでしたか。
これは、かなり面倒なことになりました――。
ニックは仕留めきれずに逃亡。
討伐戦は第2ラウンド突入です。
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