28.最悪の姉妹関係 その2
ナルトリア王国でイザベラお姉様と再会した私ですが、いきなり険悪なムードです。
やはり私への怒りというか恨みは根が深そうで、ギスギスしています。
「シルヴィア、今は諦めるんだ。ライラ様の命をお守りすることだけに集中しよう」
フェルナンド様は今は姉妹関係を改善することを諦めるようにと言われました。
そうですね。ここでお姉様との関係をさらに悪化させて守れるものも守れなかったら目も当てられません。
「イザベラ、お前はナルトリア王国に謝罪に来た身だろう。これ以上、騒いでライラ殿下の護衛もおぼつかぬ状況になってみろ。責任は取れんぞ」
「分かっていますわ。ちょっと文句を言っただけではありませんか。大袈裟ですわね」
イザベラお姉様はお父様の言葉を受けて、プイッとそっぽを向いてしまわれました。
お姉様は、お姉様で、今度何かをやらかせば本当に処刑される可能性があることを承知しているでしょうし、変なことはしないでしょうけど、ちょっと不安です。
「ノルアーニから国王陛下の命を受けてここに来た私たちは、これよりライラ様の護衛として暗殺者捕獲のために動く」
「黒魔術師ニックは非常に殺傷能力の高い魔術を使う危険な存在だ。ワシらノーマン家の人間は魔法で対抗出来るが、他の者は深追いするな。あくまでも、ライラ様の安全を最優先するのだ」
フェルナンド様とお父様の言葉を受けて、私たちノルアーニの人間もライラ様の護衛に加わることとなりました。
イザベラお姉様、また凄い表情でこちらを睨んでいますね……。
「では、イザベラよ。ライラ殿下に言われたとおり、シルヴィアの下につき……指示をきちんと聞くのだぞ」
「ちっ……!」
「イザベラお姉様が下に……?」
「ああ、ライラ殿下の命でな。イザベラはシルヴィアの部下として護衛に携わることを許されたのだ」
「はぁ……」
なんてお人の悪いことを――。
お父様の言葉を受けて、私はライラ様がイザベラお姉様に軽い罰を与えていることに気付きました。
ライラ様はイザベラお姉様と話しているうちに、彼女の高いプライドがどうやったら傷付くのか知ったのでしょう。
お姉様は妹の下の立場など甘受出来るわけではないのだから。
「あ、あのう。お姉様、ライラ様に何と言われようとも、私はお姉様のことを――」
「良いですわ。好きに使えばよろしいではありませんか。お茶でも注ぎましょうか?」
「いえ、そんなこと」
「あら、また良い子ちゃんぶるのですか? シルヴィア様は天才で優等生ですからねー」
そうきましたか。
イザベラお姉様でなかったら腹が立つのですが、何故かお姉様がこういう態度をとっても可愛いとしか思えない私がやはり駄目なのでしょうね……。
いつもこうやって流していたからいつの間にか本気で嫌われていたのでしょう。
「お姉様、いい加減にしてください。今はこんなことをしている場合ではないです」
「ようやく命令してくれましたね。あなたが上司ですから、従いますわよ。それで満足ですか? 満足ですよね?」
そう言いつつ、怒りの形相で右手に魔力を集中するイザベラお姉様。
……まったく、お姉様ったら。こんなときでも、こんなことを――。
私も左手に魔力を集中して高めます……。
「まさか、シルヴィア様とイザベラ様、こんなところで姉妹喧嘩をするおつもりでは――」
「「魔氷ッ!」」
私とイザベラお姉様が同時に放った氷魔法。
それらは、城に飾られていた大きなツボに直撃して――。
「この方がニックさんですか?」
「いえ、赤い瞳でもないですし、不細工ですから別人でしょう。恐らく彼に雇われたサポート役……」
「「…………」」
私とイザベラお姉様はツボの中で氷漬けになっている男の人を観察して、ニックではないことを確認します。
本命ではありませんが、怪しい侵入者はもう城内に入ってきているみたいですね――。
イザベラとシルヴィア、性格はアレですけど魔術師としては優秀な二人です。
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