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2.田舎暮らしは嫌です

 フェルナンド・マークランド――16歳という若さで、亡くなった父から辺境伯の地位を継いだイザベラお姉様の婚約者です。

 そもそも彼が辺境伯の地位を継ぐ前からお姉様は彼の許嫁でしたから、今さら嫌になったでは済まない相手でした。


 そんなことは分かっているというのに――。


「別にあなただろうが、わたくしだろうが、辺境伯様としてはノーマン家の女が嫁いだという構図は変わらないでしょう? 田舎は虫も多いと聞いたので、嫌なのです」


 虫が多いくらいで、ノーマン家とマークランド家の将来の関係を壊しかねないような事を言わないでいただけませんか?


 ですが、この目をしているお姉様は絶対に意見を曲げないのです。


 嫌なものは絶対にイヤ。

 飽きたものは要らない。

 壊れたものは捨てる。


 イザベラお姉様はそういう方でした。


「一応、話し合ってみます。フェルナンド様と……。お姉様も同席してくださいね」


「えーっ! 嫌ですよ、気まずいじゃないですか。あと、お父様にも内緒ですよ。バレたら怒られてしまいますから」


 いや、バレるも何も、仮に私がフェルナンド様のもとに嫁ぐことになったら、隠すなんて無理じゃないですか。

 お姉様の仰る意味が分かりません。分かりませんが、このままイザベラお姉様を暴走させる訳にもいきませんから、話だけはしてみようと思います。

 あくまでも、相談という体裁で――。




「イザベラが田舎暮らしを嫌がっているから、君を私の婚約者に? うーん、困ったな。急にそんなことを言われるとは思わなかったよ」


 フェルナンド様がこちらに来られたときに相談をしますと当然の反応をされました。


 相変わらず、女性の私が羨むくらい美しい金髪をしていらっしゃる――。


 なんせ、何年も前から決まっていた結婚を田舎暮らしは嫌とか虫が多いから嫌とか、そんな理由で反故にしようと言っているのですから。

 困ったな、くらいの反応で済んでいるのはフェルナンド様の人徳のおかげでしょう。


「そうですよね。ご無理を申し上げたことは承知していました。では、私はこれで――」


 これ以上、食い下がるのは心象をいたずらに下げるだけ。

 そもそも無理なお話なのです。

 お姉様をもう一度説得して駄目ならば、放っておくしかないでしょう。

 お父様は結局のところお姉様に甘いですから、婚約を出来るだけ平和的に解消してマークランド家と縁を切ることを選びそうです。


「ちょっと待って!」


「フェルナンド……様?」


 私が立ち上がって帰ろうとすると、フェルナンド様は呼び止めます。

 サファイアのような瞳をこちらに向けて、何かを訴えようとされていますが、なんでしょう?


「シルヴィア、君はあの“再生魔法”を使うことが出来るって聞いたけど。本当なのかい? ここに父の形見の壊れた万年筆があるんだけど、直せる?」


「はい。直せますよ。触ってもよろしいですか?」


 フェルナンド様がかばんから取り出したのは、かなり年代物の高そうな万年筆。確かにところどころ欠けてしまっていて、微細なヒビも入っており、完全に壊れています。

 彼が頷いたのを確認して、私は万年筆に触れました――。


再生魔法(リ・ワインド)――!」


 壊れた万年筆は黄金の光に包まれて徐々にその形が新品の状態に戻っていきます。

 この再生魔法は創った人間による制約によって死者蘇生だけは出来ないのですが、あらゆるモノを元に戻すことが可能。

 壊れて長い時間が経ったものほど元に戻すのに時間と魔力がかかりますが、これくらいなら直すことは容易です。

 

「す、すごい! すごいよ、シルヴィア……。――そうだな、イザベラの心変わりは残念だけど、シルヴィアさえ良ければ私と婚約をして欲しい。君の力を貸してもらいたいことがあるんだ」


「えっ……?」


 フェルナンド様は立ち上がり、私の手を握りながら、再生魔法を褒めてくれました。

 そして、私と婚約しても良いと仰せになってくれたのです――。

 ほ、本当に私がお姉様の代わりで良いのですか……?

再生魔法は割とチートです。


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