19.言いがかりですわ(イザベラ視点)
相変わらず、寒いし、臭いし、狭いし、このわたくしをいつまでこのような場所に閉じ込めておくつもりなのでしょう。
アルヴィン様はライラ様に謝りに行ったとのことですが、わたくしはどうなりますの。
きっちり、無罪放免で出してくれるんでしょうね。
「しかし、ライラ殿下はアルヴィン殿下を許してくれるのだろうか」
「どうだろうな。裏切りに厳しい御方らしいから。もしかして、アルヴィン殿下を殺してしまうかもしれん」
「うへぇ~。そうなったら戦争じゃないか」
「まぁ、そうならん為にフェルナンド様が同行しているのだろうが」
なっ!? 「アルヴィン様を殺す」ですって。看守たちの話し声を聞いてわたくしは耳を疑います。
ライラ様はそんなに野蛮な方ですの?
た、大変です。アルヴィン様が殺されたら、わたくしがここから出られないではありませんか。
しかも、アルヴィン様たちにはあのシルヴィアが同行しています。
あの薄情な女は自分の命が危うくなると……きっと、ヘラヘラ笑いながらアルヴィン様を差し出して切り捨てるでしょう。
くっ、シルヴィアが向こうに居るってだけで、わたくしの運命がお先真っ暗ではありませんか……。
「あーあ、戦争になったら、ノーマン家のお嬢様も……」
「責任は取らされるだろうな。なんせ元凶なんだから」
「まったく馬鹿なことをしてくれた」
わ、わたくしの責任……ですって。
好き勝手なことを言ってくれるじゃありませんか。
でも、ライラ様がアルヴィン様を殺してしまったら――。
「ライラ王女を殺してしまったら良いのですよ。イザベラ様……」
「えっ? あ、あなた――誰ですか?」
「魔力を封じる手錠に、足枷……。あなたのような美しいお嬢様が可哀想に。こんなものすぐに壊して差し上げましょう。破壊魔法――」
黒いフードを被ったルビーのように赤色に輝く瞳をした男は音もなく、独房に入ってきて、私の魔力を封じていた手錠と足枷に触れると――手錠も足枷も砕けてしまいました。
破壊魔法は大賢者と言われたお祖父様しか使えないと言われた高等魔法。
この男は、何者なのでしょう? ただならぬ魔力を感じますが。
「イザベラ様、共にアルヴィン様を助けに行きましょう。危機に晒されているアルヴィン様を助け出して、ノルアーニの英雄となるのです」
低い声で英雄になれると囁く黒いフードの男。
アルヴィン様を助け出しに行くですって?
こんなところに閉じ込められるよりはマシですけど……。
「どうやって、アルヴィン様を助け出すのですか?」
「くっくっくっ、それはもちろん……知れたこと。ライラ王女を殺すのですよ」
「へぇ、ライラ様を暗殺。それで、わたくしを利用して……。素敵なお話ですわね」
なるほど、すべての元凶であるライラ様を殺して、アルヴィン様を救出するという作戦ですか。
それでわたくしの力を借りたいと……。
破壊魔法を使うところをみると、侵入などは楽に行えるでしょうね。
「あなたも腹に据えかねているでしょう。こんな目に遭わせたライラ王女が許せないのでは? 彼女を殺して英雄になれば、あなたの罪も晴れて無罪放免となるでしょう」
「ふふふ、ライラ様を殺せば無罪放免ですか。分かりました。ただ、一つだけ質問があるのですが――」
「何なりとご質問をしてください」
「魔炎ッ!」
「――っ!?」
あらあら、外してしまいましたの。
ふーん。至近距離からの不意打ちを躱しますか。
フードも燃えないところを見ると特殊な繊維で編み込まれているみたいですわね。
「わたくしをバカな女だと勘違いしていませんこと? 他国の王女を暗殺? そんなことをして英雄など笑わせないでくださいな」
「ライラ王女を恨んでいないのですか?」
「わたくしが恨んでいるのはシルヴィアただ一人。あの女以外はどうでもいいのです」
ああ、この方はわたくしがライラ様を恨んでいると思い込んでいたのですね。
会ったこともない方を恨めるはずがありません。
そりゃあ、面倒な方だとは思っていますが、殺すなど馬鹿馬鹿しい。
「騒がしいぞ! な、なんだ!? これは……!? イザベラ・ノーマン! 貴様、何をした!?」
「ち、違いますわ! あれは、フードの男が!」
「フードの男? そんな者はいないではないか!」
騒ぎを聞きつけて、こっちに走って来られた看守の方々。
気付けば、黒フードの男は消えていました。
ど、どうしてそんなに怖い顔をしていますの? わ、わたくし、脱獄なんてしようとしていませんわ――!
本当に言いがかりだったというお話。日頃の行いのせいですね。
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