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18.王女と王子、そして辺境伯

 その赤毛の王女、ライラ様は腰を抜かした私たちの国の王子であるアルヴィン様に近付いて、怯えきったその顔をジィーっと睨んでいます。

 アルヴィン様、なんで私をチラチラ見るんですか。

 やめてくださいよ、仲間だと思われるじゃないですか。いや、正確には仲間なんですけども。

 だって、ライラ様、噂で聞いているより何倍も怖いんですもの。

 

「シルヴィア! シルヴィア! ぼ、僕を助けろ! おいっ! ワーウルフのときみたいに!」


 いやいやいやいや、王女様とワーウルフを一緒にしないでくださいよ。

 ていうか、何気に失礼じゃないですか、それ。

 ほら、ライラ様の怒りのオーラがさらに強くなっていますよ。


 えっ? わ、私のこと睨んでませんか? こっちに近付いて来ているのですが……。


「貴様がアルヴィンと幾度も接吻したという浮気女か!? 随分と熱烈だったそうじゃないか! 私の前に姿を見せるとは良い度胸だな!」


「ち、違います! あ、アルヴィン様とキスしたのは、私の姉です!」


「あ、姉だとぉ?」


 それこそ、キスしそうなくらいの距離まで顔を近付けられて、凄まれた私は必死で浮気相手じゃないことを主張します。

 割とノー天気だと言われる私も、このときばかりは怖かったです。


「なんで浮気女の妹がこの国に来たんだ?」


「えっと、謝りに来ました。シルヴィア・ノーマンと申します。私の姉、イザベラ・ノーマンがこの度は本当にとんでもないことを。申し訳ありませんでした!」


「いや、妹に謝られたとて、納得できるはずなかろう」


「で、ですよね……」


 本当に何しに来たんでしょう。

 これだけの気性の王女殿下に私みたいな小娘が頭を下げても何の効果もありませんよね。

 許してもらえるはずがありませんでした……。


「ライラ殿下、ご無沙汰していました。フェルナンド・マークランドです。この度は、お忙しいにも関わらず、出迎えていただけるなんて。殿下のお心遣い、痛み入ります」


 爽やかな笑顔と白い歯を見せつけて、そのよく通る低い声でライラに声をかけるフェルナンド様。

 さすがはフェルナンド様です。この状況にもまったく動じていません。


「辺境伯か。そういえば、貴様はアルヴィンの友人らしいな。この男の浮気性は知っていたのか?」


「いえ、まさか。存じていたのならば、真っ先にライラ殿下に忠告差し上げましたよ。私とて、命は惜しいですから。あはは」


 笑いながら、フェルナンド様はライラ様とコミュニケーションを取ろうとしていますね。

 何だか、殺伐とした雰囲気がさっきよりも大分マシになってきたような気がします。


「まったく貴様はいつもそうやって煙に巻く態度を取りおって。まぁいい。これからゆっくりと時間をかけて、そこのバカ者から事情を聞いてやる」


「ひ、ひぃぃぃぃ! お、おい! フェルナンド! もっと、僕を擁護しろ!」


 フェルナンド様が穏やかな物腰を崩さずに応対していると、ライラ様は私たちに背を向けてついてこい、というような仕草を取ります。

 そのやり取りを見ていたアルヴィン様はただ一人、自分の身の危険を感じたらしく、恐怖に引きつった顔をしていました。

 

 擁護しろ、と言われても路上ではしないでしょう。

 私たちはそもそもナルトリア王宮を目指していたのですから。


「どうぞ、どうぞ。ライラ殿下のご自由に煮るなり焼くなり、好きなだけ追及して下さいませ。私はそうして頂くために参上したのですから」


「な、なんだとぉ!? こら! 裏切り者! 主の目の前で寝返るな!」


「ふっ、では、お言葉に甘えて……そう、させてもらおう」


 フェルナンド様の言葉を聞いて、ほんの少しだけ機嫌を良くされたライラ様は私たちを王宮へと案内してくれました。

 一触即発だと思われたのですが、辺境伯という存在は外交の要と言われるだけあって、修羅場慣れしております。

 仕事モードなフェルナンド様のそのお姿は私の目には輝いて見えていました――。

ということで、国家間の友好関係を保つための謝罪と交渉の開始です。


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