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10.あれは浮気じゃない

 なんということでしょう。

 アルヴィン様はナルトニア王国の王女であるライラ様と婚約中にも関わらず、イザベラお姉様とキスをしていたらしいです。

 この人、よくそれで私のことを盗人呼ばわりできましたね。

 

 というより、これって大事件じゃないですか? 噂ではライラ様って浮気とか絶対に許さない人みたいですし……。

 裏切り者は軍隊を自ら率いて粛清しに行くみたいな冗談みたいな逸話もこちらに流れている人物なんですよ。

 そんな気性の荒い方が怒るとなるとアルヴィン様はもちろん、イザベラお姉様もタダでは済まないと思いますが。


 それに大国であるナルトニア王国と揉めたりしたら、非常に厄介なことになると思うのですが。



「アルヴィン殿下、見損ないましたよ。あなたは私たちを侮辱する前に、ご自分のされたことについて考えるべきではないのですか?」


 フェルナンド様は明らかにアルヴィン様に嫌悪感を持っています。

 それはそうでしょう。友人だと思っていた人が急に侮蔑の言葉を吐いたと思ったら、大変なスキャンダルを起こしていたのですから。


 文句を言いたいなら、鏡の中の自分に言えばよろしかったのに……。


「ち、違う! それは誤解だ! イザベラは落ち込んでいたのだ! お前らが裏切ったから! ぼ、僕は泣いている彼女を慰めただけだ! ぷ、プラトニックなキスなんだ! 断じて浮気ではない!」


 意味が分からなすぎて目眩がします。

 せめて嘘でも、キスは否定してください。

 慰めるためにキスって、なんかいやらしくて嫌です。

 しかも、何度もしていたって……。お姉様も何を考えているのでしょう。

 お姉様は私が婚約者を奪ったと嘘をついているので、本当に慰めて欲しいなんて思っていないはずですし。意味が本当に分かりません。


「アルヴィン様、その言い訳ってライラ様にも通じるとお思いですか? 公の立場にある方なのですから、弁えてもらいませんと、臣下の者たちに示しがつかないと思うのですが……」


「だ、黙れ! 盗人風情が聞いたような口を利くな! そもそも、お前らがイザベラを傷付けた事が原因じゃないか! 責任取れよ!」


 そんなの無茶苦茶な理屈ですよ。

 ご自分がだらしないことをしておいて、私たちのせいだとまくし立てるなんて。

 段々、アルヴィン様の相手をすることが疲れてきました。


 自分が窮地だというのに、私のことを盗人呼ばわりするなんて――この方、本当に私たちを構っているどころじゃない気がするのですが……。


「アルヴィン殿下、私の婚約者への無礼は慎んでもらいたい。そこまで、あなたが我々に対して尊厳を傷付けることを言うのであるならば、私も引けません。一度、陛下を交えて話し合いましょう」


 私への盗人呼ばわりが収まらないので、フェルナンド様は陛下を交えて話をしたいと口にしました。

 そうですね。父にも話し合いには参加してもらいましょう。

 イザベラお姉様が田舎は嫌だと仰っていたことはご存知ですし。


「ち、父上が何故出てくるのだ!? んっ? 父上……? そ、そういえば、父上はライラの一件、し、知っておるのか!?」    


「はっ! ご存知でいらっしゃいます! かなりお怒りのご様子で、至急帰って来なさいとのことです!」


「オェェェェェ! ち、ち、父上が怒っている? ウェェェェェェ!」


 き、汚いですね。フェルナンド様の屋敷を汚さないでくださいますか……。

 当たり前ですよ。陛下が知らないはずがないじゃありませんか。

 焦りすぎて、そんなことも失念していたのですか……。


「ちょうど良かった。シルヴィア、こっちに来たばかりですまないが、私たちも王都に行こう。私は辺境伯の立場としても物申さなくてはやりきれない」


「はい。私もフェルナンド様と同様にこのまま黙っていられません。姉とも話し合います」


 という訳で、私は辺境の地での生活にようやく慣れたというのに、王都に一度戻ることになりました。

 イザベラお姉様、真意はしっかりと聞かせてもらいますよ。アルヴィン様との件も含めて……。


「オェェェェェ!」

「掃除させるのが先のようだな」

「フェルナンド様はよく、アルヴィン殿下のお友達でいられましたね……」

アルヴィン、全てがバレてるみたいです。

次はイザベラ視点です。


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