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2、目の前に、異形が三十人

オハヨウゴザイマス。


口をついて出た言葉。

ワタシは一体何を言っているのか。

いや、初めて会った人…、人なのだろうか?よく分からないが、とりあえず人に向かって言う言葉としてはギリギリ間違ってはいない……と思う。

駄目だ。頭が混乱してよく分からない。


扉の向こうから現れた人は、私の知っている人という生き物ではなかった。

ただ、それだけの事。

しかし、それが蔵の中から見えた限りだと十人を越えた数だとすると流石に動揺する。


ワタシと同じ異形の見た目。

この人?達も忌み子なのだろうか。


ワタシ以外にもいたのかと純粋に驚く。

そして、同時に理解しえなかった。


どうして異形の存在がこんなに沢山、蔵の周りにいるのか。

家の…親族たちはどうしたのか。

そして、なぜ彼らの背景の景色がワタシの知らないものなのか…と。

分からないことだらけだ。


ワタシが挨拶をした異形は黙ったまま、目を限界まで見開きワタシを見つめている。


ワタシはこの異形達からしても、異端な存在なのだろうか。

人だけでなく、異形からも見放されるのだろうか。

やはり、ワタシの存在自体が異端なのだろう。


久しぶりに見る強い光に目を瞑る。

蔵の中には、弱い光しか入ってこない。こんなに強い光を浴びたのはいつぶりだろうか。

肌が焼かれる錯覚に陥る。


ジリジリと肌をやく光に、逃げるように後退する。

そして、それは目の前の異形からも距離をとろうとする行動でもあった。


ぱしっ。


「ぇ?」


当然、捕まえられる腕。

しかし、戸惑った様な声を出したのは目の前の異形の方だった。


なん…なのだろう、か。


ワタシの腕を掴み、戸惑った様子の異形。

ワタシに触れてしまったということへの戸惑いよりも、ワタシの腕の細さに戸惑っているようにも見える。


ワタシの体は今、肉はほとんど落ち、骨と皮だけのようだと言っても過言ではない。

成長する為に必要だった食べ物すらもここ数年は与えられず、体も小さい。

蔵に閉じ込められ、陽の光にあまり当たらなかったため、肌も白い。


それに引き換え、目の前の異形は健康そうな肌の色をして服の上からも分かるほど筋肉がついている。

体も大きく、ワタシの約二倍の身長があることは間違いないと思う。


ワタシから見たら異形の存在、ならば、異形から見て逆にワタシも異形の存在とも言える。


そんな生き物へと触れる彼のココロは理解できない。


黙ったまま、振り払うこともせず…、できずに彼を見上げる。

彼もワタシを見ていた。


「お前は何者だ?」


ワタシにも聞き取れる言語。

しかし、ワタシが一体何者か…か。


そんなもの、ワタシの方が知りたい。


だから、言えるとしたらその質問への答えではなく、


「ココハ、ドコ、デスカ?」


という疑問だけだった。


◆◇◆◇◆◇


「ここは、鬼族が治める国。鬼ノ邦と呼ぶ。鬼族だけでなく、人族や獣人…亜人族と呼ばれる者達が共存している数少ない国の一つだ」


質問へと答えなかったワタシを責めることなく、疑問に答えてくれた異形の彼。

人以外の種族?そんなもの、聞いたことがない。

いや、幼い時から蔵へ閉じ込められていたワタシには知りえなかった情報なだけかもしれない。


一つ、分かるとしたら、ワタシはワタシの知らないうちに、ワタシの知らない場所へとやって来てしまったと言うことだけだ。


「ドウ、シテ、アナタタチハ、コノ、クラヲ、カコ、ム?」


長年人と会話することがなかったことで、ワタシは上手く言葉を発せない。

どうしても、目の前の異形と同じように話すことが出来ない。


しかし、そんなワタシの言葉をきちんと最後まで聞いてくれる異形。


彼は少し、考えるような素振りを見せた後、答える。


「先程も言った通り、ここは鬼ノ邦。君がいるこの蔵は昨夜、突然この国に現れた。何が言いたいのか分かるか?」


「キケン?カ、ドウカノ、カクニン?」


「その通りなんだが…、君は本当に何も知らないのか?親は、家族は?なぜこんな蔵に一人でいる?そんなに痩せた体で」


「ワカラ、ナイ。ワタシハ、イミゴ……オヤ、ヤ、カゾク、ハ、イナイ。ワタシハ、イラナイ、シヲノゾマレタ、コ」


話すうちにポロポロと目から零れだした雫。


コレは、ナニ?


「あーっ、隊長が子ども泣かした!しかも、女の子を!」

「はぁ!?」

「えぇ?それは、ちぃとばっかし最低じゃねぇか?」

「おいっ!」

「ちょっと、そこをお退きなさい!」

「まっ!はっ!?おい、待てって!」


目から落ちる雫に戸惑っていると、目の前の異形を押し退けるようにして現れた、先程まで後ろでこちらの様子を黙って見ていた女性に抱きしめられた。


「エ?」


「大丈夫よ。貴女が嘘を言っていないのは分かるわ。恐らく、貴女は異世界から来たのでしょう。それも、貴女や私達のような人とは少し異なる姿の種族が迫害される世界から」


彼女はいったい何を言っているのだろう。

そして、どうして私を抱きしめているのだろうか。


「い、異世界だって!?」

「ほら、隊長や他の皆だって一度は聞いたことくらいあるでしょ?異界から現れ、この国を建国した初代国王の話を」

「だが、それとこれとになんの関係が……」

「これだから筋肉バカは…。いい?初代国王は、異界から現れた人なの。一度、異界から人が現れた前例があるなら、それが例えばこの蔵だったりしてもおかしくないんじゃないかしら?」


「ドウイウ、コト?」


上手く理解できない。ワタシの知る知識にはないこと。

しかし、目の前の異形達には理解出来たようだ。


「あー、わかった。何処からか突然現れる魔物達と似たようなもんってことだな」

「間違ってはないけど、この子を魔物と同列にはして欲しくないわね」

「じゃあ、他にどう例えろと!?」


「アノ、ツマリ、ココハ、ワタシノシルセカイ、トハ、チガウトイウコト?」


言い争いをする彼らを見ながら、ジブンなりに出した答えを言う。


「そう言うことよ」

「ってことは、この蔵やこの子がこの国に危害を加えるために来たってことじゃねぇわけだな」

「えぇ」


「じゃあ、この子どうするんだ?」


オニノクニ?に、危害を加える気は毛頭ない。

でも、彼らからしたらワタシが危ないものを持っているのかどうかすら分からない。


ワタシの処遇はどうなるのか。


仮に再び閉じ込められる事になったとしても構わないと思いながら、異形の女性の言葉を待っていると、ワタシを抱きしめる力を少し強めた彼女は、


「どうするって、勿論、連れて帰るに決まってるでしょ?」

「「「はぁ!?」」」


隊長と呼ばれた異形と、他二人。……だけでなく、聞き耳を立てていたこの場にいた全員を驚かす言葉を言い放ったのだった。

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