1、おはようございます
逆ハーレム系ばかりで、多量に糖分を摂取し続け……、疲れたので少し違うのを書いてみようと思ってみました。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
『お前は必要のない存在だ』
そう言われ始めたのは何歳の頃からだったか……
『なんて醜い容姿なの』
自分の姿は異端なのだと理解出来たのは、いつ頃からだったか……
『お前など産まなければよかった』
憎悪と嫌悪に染まった表情をする人物はいったい誰だったか……
『死ね』
言葉だけでなく暴力までも振るわれ、心と体が傷つくことを何とも感じなくなったのはいつからだったか……
全て、思い出せない。
ワタシハ、イッタイナンナノカ。
誰もいない虚空に向かって尋ねたのは何回目だろう。
ゴハンッテナニ?
空腹すらも分からない。
痛みすらも理解できず、自分が何者かすらも理解できず、空腹すらも理解できない。
ただ、分かることがあるとしたら…
ワタシハ、イタンナソンザイ。
人という、親という生き物から捨てられた…否、この世界から見放された生き物だということだけ。
◆◇◆◇◆◇
ピチョン…ピチョン……
水の、零れ落ちる音がする。
昨夜から雨が降っているから、この蔵という建物の隙間から中へと入っているのだろう。
よろよろと立ち上がり、雨漏りする場所に置いてあった器の元へと移動する。
ワタシが予想していた通り、器の中は既に水が零れるほどに溜まっていた。
ゴクリ…。
ワタシは静かに、しかし、大きく唾を飲み込む。
いつぶりだろうか。水を口にしたのは、確か二日か三日?前だった気がする。
時間という感覚が分からないワタシからしたら、そんな事は些細なことだと思うが。
零さないように、慎重に器へ口をつける。
こく…こく……。
静かに、全身に染み渡るように水が体の中へと入ってくる。
全ては飲み干さず…、飲み干せず、一割程度飲んだところでワタシの胃は限界を迎える。
これでしばらくは大丈夫だろう。
また、器を元の位置へ戻す。
次溜まったら、別の器と交換する予定だ。そうやって、これまでも命を繋いできた。
今、ワタシがいる蔵には誰一人として来ない。
もしかしたら、ワタシという存在が本当に彼らの中から消えたのかもしれない。
ワタシが生まれ、ジブンの足で自由に立ち、動き回れるようになった頃。
ワタシよりも小さな人が生まれた。
しばらくして、ワタシは蔵へと閉じ込められた。
幸いなことに、この蔵は少し古い。
ワタシの命を繋ぐ水を手に入れることができる。
はたして、それに何の意味があるのかすら分からないが。
◆◇◆◇◆◇
ドンドンドンドンドンッ!
蔵の扉が叩かれる。
ワタシの存在を思い出した誰かが、ワタシを傷つけにやってきたのだろうか。
もう、いくら傷つけたとしても、痛みすら感じないというのに。死ぬことすら、できないというのに。
それとも、ワタシが死んだかどうかを確かめに来たのか?
このまま、放っておいたらどうなるのだろうか。
ワタシから外に出ることは叶わない。
この蔵の鍵は外から掛かっているのだ。
そして、その鍵はワタシが持っている。
つまり、この蔵は事実上、誰一人として開けることの出来ない建物となっている。
外の人はその事を知らないのだろうか。
もし、そうだったなら、外の人は何者なのか。
ワタシには分からない。何となくは分かる気もするが、それを言い表す、示す言葉をワタシは知らない。
だから、言えるとするならば、外にいる人は忌み子のワタシを知らない誰かだということ。
◆◇◆◇◆◇
扉が叩かれてしばらくして、蔵の周りが騒がしくなった。
一人、二人ではない。何十人もの人が蔵の周りを取り囲んでいる気配と声がする。
痩せ衰えた体を地面を這うようにして動かす。
近頃、体を動かすことが難しくなってきた。いよいよ、ワタシは死ぬのかもしれない。
別にそれでも構わない。
むしろ、その方がいいのかもしれない。
大丈夫、問題はない。恐らく、親族と呼ばれる人によって傷や痛みを与えられていたワタシは苦痛を感じることがなくなっていた。
だから、苦しまずに死ねることだろう。
これはきっと、シアワセなことなのだ。
ワタシの死ぬ覚悟ができた頃。再び扉が叩かれた。
ドンドンドンドンッ、ドガッ!
否、それだけでなく、扉が強い力によって叩かれたことで、破壊されてしまった。
扉自体が壊されてしまったのであれば、鍵の意味はない。いや、鍵の心配ではなく、忌み子を閉じこめた蔵の扉が破壊されてしまったことを心配すべきではないか。
ワタシにとっては死ぬ場所が変わるだけかもしれないが、親族と呼ばれる者達からしたら忌み子が外に出てくると発狂するかもしれない。
何故、扉は破壊されたのか。
誰が、扉を破壊したのか。
分からないことが多すぎる。
それだけでなく、破壊された扉の向こうから現れた人を見てワタシの頭は混乱をする。
そして、混乱したまま口を開いて出た言葉は…
「オハヨウゴザイマス」
という挨拶だった。
土日に、基本的に更新しようと思います。