第1話:外狩と赤ずきん①
むかしむかしあるところに、ひとりのおんなのこがいました。
おんなのこはいつもあかいずきんをかぶっていたので、みんなからはあかずきんとよばれていました。
あるひあかずきんはおみまいに、おばあさんのいえへむかいましたが、いえについてみるとおばあさんのようすがどこかへんでした……。
「お婆ちゃん、お婆ちゃん。私よ、赤ずきんよ」
私は「いつも通り」、然るべきセリフを然るべき相手に投げかけた。
何千回、何万回、いいえ、例えなんかじゃなくて星の数ほど繰り返してきたシーンなんだから、淀みなんてあるワケもないけれど。
「おお、赤ずきんかい?そう遠くに居ちゃ顔がよく見えない。もっと近くに来ておくれ」
部屋の奥にあるベッドの中から聞こえてくるセリフも「いつも通り」。
そうして私はこの後、耳が大きいだとか、目が大きいだとか、口が裂けてるだとか、実はお婆ちゃんになりすましてる狼さんとの問答に入っていく……ハズだったのだが。
ここで私は気づいた、この一幕に紛れ込んだ「いつも通り」ではない決定的な異常に。
まあ、ここで気づかないようなら「主人公」の役職を剥奪されるレベルの異常だったのだから、鼻にかけたりする気は毛頭ないわ。
今回、ふがいなかったのはお婆ちゃんと狼さんね。
何をどう油断すればこんな奴に出し抜かれるのかしら?
赤ずきんを前にして「狼さんの声色を真似しようともしない」お間抜けさんなのに。
ともあれ、こうなってしまっては是非もない。「赤ずきん」は中止して、緊急対応を取らなくちゃね。
「ねえお婆ちゃん、どうしてお婆ちゃんのお耳はそんなに大きいの?」
「お前のかわいい声を聴くためだよ」
表向きは台本通りの進行をすることで、気取られないようにジリジリと近づいていく。「有効射程」まで後3歩、2歩……。
「ねえお婆ちゃん、どうしてお婆ちゃんのおめめはそんなに大きいの?」
「お前のかわいい姿を眺めるためだよ」
後1歩……今!
「あらそう、それならたんと眺めてちょうだいな――但し、私じゃなくてこの『対メアリースー用ゴム弾』を、ね!」
私は右手に抱えた仕掛けバケットのからくりを解放し、ワインボトル型ソードオフの一撃を「お見舞い」した。
「ある海賊さんから貰った素材を練りこんだ特注品よ。何でも実体を捉える力があるんだとか……アンタたちの十八番、攻撃を無効化する概念装甲・『正体不明』も形無しってワケ」
*
【――現代日本】
突然の話でワリィが、俺は夜が嫌いだ。
火を灯したみてーな、光が嫌いだ。
星がうるさいくらいにピカピカ光ってるのが、両の目ン玉でバッチリ見えるような夜空が大ッ嫌いだ。
ちょうど今日みたいに、流れ星でも降り注ごうものならサブいぼが立つね。
そういや流れ星ってやつは、目に見えるうちに3べん願い事を唱えきりゃあそれを叶えてやるとかいう、何ともご機嫌で御大層なチカラを持ってるんだっけか?
そんじゃ後生だ、俺の願いを聞いてくれ、お星さまよ。
何?
流れる前に願い事を唱え切れてない、だと?
いいだろケチケチすんな、どうせオメーは明日の朝まで空を埋め尽くすハラなんだろ??
ああ、ニュースでやってたもんな!
ン十年に1度の何ちゃら流星群だか何だか知らねーが、そんな上等キメてる夜に「お友達」からダンスのお誘いが来やがったんだ(どれすこーどはヘルメット、サングラス、マスクに釘バットだとよ、古風だねえ。)、こりゃあもうアレだろ?
何なら願いを口に出す必要もねーよな??
ツーとカーってヤツだ。
「ハッ、マジで来たのかよ外狩。そのクソ度胸だけは褒めて――」
「あー……今日はどうにもお空がさんざめくもんで、外狩君ったら中々寝つけなくてなぁ?」
俺は数人の取り巻きを連れた名前も知らねぇ大男が垂れる、古臭くてクッソ陳腐な能書きをテメーの口上でぶった切ると、さらに早口でまくし立てた。
「眠くて眠くてトサカにきてるっつーわけだ!そしたら都合よくサンドバッグ共が雁首揃えて出て来やがるからよぉ、ブチのめしてスッキリしたいって思うのは当然だよな!?」
と、ここで鉄パイプを持った取り巻きのチビが負けじと吠えた。
「サンドバッグはテメーだろうが!」
すると他の取り巻きもチビに続いた。
「よくも俺らのヘッドを!」
「五体満足で帰れると思うなよ?」
「とりま血だるまになるまでボコ決定なw」
「囲んでフクロに――」
だが、最後の一人はセリフを最後まで吐き出しきれなかったらしい。
「で、囲んでなんつった?」
何故かって、俺の飛び膝蹴りがソイツの顔面にクリーンヒットしたから。
何かが折れるような小気味いい音と共にもんどりうって倒れたサンドバッグ一号を尻目に、俺は次の攻撃動作に入った。
着地した足を軸に180度身体を捻り、その勢い全てをもう片方の足に乗っける。
果たしてこの後ろ回し蹴りは、背後で棒立ちになってたサンドバッグ二号のみぞおちへ吸い込まれる形になった。
「おら、どーしたよ?まだ夜はなげーんだぜぇ??」
じぇすちゃーまで使って挑発するも、このチンピラだか半グレだかの連中は、すっかり戦意喪失しているようだった。
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