小手調べ
神の領域と呼ばれる真っ白な空間に、大量のタチバナ商会の社員達が整列している。
その数、実に255万人以上。
その全てが超越者及び準超越者であり、一切の例外なく一騎当千の猛者だ。
素手で禁足地の主を引き裂き、その武技は空間は切り裂き、その魔法は街を灰燼に帰す。
また、その身に刻まれた橘の花の紋章のスキルにより、255万人がまるで1個の生物の様に、完璧な連携を取る事が出来る。まさに史上最強の軍隊だ。
最強の戦闘集団を呼び出したタチバナは、どこからともなくフラウが取り出した革張りの椅子に足を組んでふんぞり返りニヤニヤと笑う。
「さて。アフラーダよ。俺を抹消したいならウチの社員達を倒してからにしてもらおうか?」
ギラリと虚空を睨みつける社員達。
彼等にとってタチバナの為に命を掛けるのは当然の義務だ。
『ど、どうしてここに!?ふ、不可能です!ここは神の領域!次元の隙間にある不可視の領域をどうやって·····!?』
創造神アフラーダは意識を確立してから初めてと言って良いほど狼狽していた。
説明してやれ、とタチバナがフラウに言うと、キビキビとフラウがアフラーダに告げる。
「社長がお倒れになった際、社長から彼方への微弱な魔力のラインを感知しました。これを敵性存在からの攻撃と判断し、早急にここの位置を特定。全社員総出でここへの空間歪曲をしておりました。」
「社長からの魔力供給がありましたので、非常に助かりましたわぁ。私達社員全員の魔力総量を超えるあの大量の魔力。凄かったですわぁ。」
悩ましげにタチバナにしなだれかかるフローラ。
タチバナの魔力に当てられたのか、頬を赤くし悶えていた。
コホン、と咳払いをして姉を引き剥がして説明を続けるフラウ。
「その過程で、この神の領域とやらが物質世界と精神世界の狭間にある事も、この領域その物が貴方の本体である事も判明致しました。恐らく、貴方はこの惑星自身の意思。この星そのものが貴方の正体ですね?」
地球にガイア仮説、と言う理論がある。
惑星とそこに住む生物を、恒常性や自己調整システムを持つ1つの生命体と見なす理論である。
この異世界ではその理論を飛び越え、まさに星そのものが意志を持っている。
それこそが創造神アフラーダの原型。
まさに全ての母であり、世界の管理者と呼べる存在である。
『だからどうしたと言うのだ?この星の発展を望んだのは私だが、貴様達は、この男はやり過ぎたのだ!この惑星の為に、間違いは正さねばならん!』
アフラーダがそう言うやいなや、神の領域が震え、突如として虚空に巨大な魔法陣が現れ、魔力の光が降り注いだ。
「社長をお守りしろ!!」
セレスタの掛け声でタチバナの前に大量の社員が殺到し、
魔力障壁を張る。
雨の様な細い魔力レーザーが防御が間に合わなかった社員達を貫いて行く。
『いかに大量の超越者がいようとも、私はこの星そのものの意志!貴様達も含んだ、ありとあらゆる力の総合が私なのだ!貴様達に万に1つも勝機などない!!!』
数十分にも及ぶ魔力レーザーの豪雨がようやく終わった後には、社員の数は3分の1にまで減っていた。
生き残った3分の2の社員達も満身創痍だ。
しかし――。
「貴方達!立ちなさい!!社長の御前で見苦しい!!」
タチバナを守りきり、半死半生のセレスタが一括した瞬間。
ぞりゅっ!!ぐちゅ!スズっ!
耳障りな音を立て、倒れた社員達が立ち上がる。
千切れた体から肉が盛り上がり腕や足を形成し、身体に空いた穴か塞がる。
完全に見た目ゾンビである。
「この程度の怪我で働けなくなる奴なんざ、社員にはいねぇ!」
半分吹っ飛ばされた頭を再生しながらログが叫ぶ。
『ば、化物共め·····!!!』
姿こそ見えないが、アフラーダは確実に怯え混じりに驚愕している。
つまりドン引きである。
そしてタチバナは――。
革張りの椅子に座ったまま、ニヤリと笑う。
「おいおい?創造神様ぁ?なに狼狽えてるんだ?」
『思いっきり手足を震わせながらなにをドヤ顔しているんですか·····。――それにズボン、ちょっと濡れてません?』
アフラーダの言う通り、タチバナの手と足は産まれたての子鹿のように震えており、少し粗相もしていた。
「さぁ、社長!ご安心して見ていて下さい!今から我々の本領を発揮致します!」
『「まだ本領じゃないの!?」』
神と社長の叫びを他所に、社員達の魔力が膨れ上がった。