オープンセサミ
それはまさに地獄の様な光景だった。
12機の魔導戦闘機シトラスから次々と発射される空対地ミサイル。
1回の発射で1機8発の計96発。
空間魔法を利用した兵器庫には数百発のミサイルが搭載されている。
地球では最強を誇る戦闘機ラプターを圧倒的に上回る打撃力を持った魔鳥の群れが戦場を蹂躙する。
ノーザン帝国軍も健気にも、シトラスを撃ち落とそうと大砲を準備をするが、そもそも精錬技術が足りないので単なる滑空砲しか装備をしておらず、射程距離が足りない。
また、弾を込めるのに時間がかかり過ぎてもたついている間に部隊ごと炎に飲み込まれた。
「散開!散開しろ!!固まっていると纏めて焼かれるぞ!」
「何だあの爆弾!?こっちに飛んで来て爆発するぞ!」
「逃げろ!逃げろ!」
「ま、魔法だ!魔法で撃ち落とせ!!障壁は!?」
「あんな遠くを狙える訳ないだろ!!馬鹿言ってないで逃げろ!!障壁も持たない!!」
「せ、戦闘機はどうした!?あれがあれば·····」
「もう落とされた!!早く!逃げるんだよ!!」
「まさ·····。う、うわぁー!!!炎が、炎がここまで!!」
空間魔法を利用して数千発の爆弾を搭載したクラスター弾頭がノーザン帝国軍を襲う。
地球ではオスロ条約で禁止された弾頭だが、この世界では当然関係ない。
数千発の爆弾による炎が熱の上昇気流と共に巻き上げられる。
そしてそれをアシストする様に、爆弾に付与された魔法陣が浮かび上がり、風を炎に送り込む。
火災旋風である。
こうして、単独で突出していた大隊1000名は炎の竜巻に飲まれ、消え去った。
◆ ◆ ◆ ◆
「クラスター弾頭に付与された魔法陣の発動を確認。火災旋風形成されました。」
「敵飛行編隊及び大隊全滅を確認。」
「シトラス1から司令部に入電。敵殲滅完了。被害なし。継戦可能。以上です!」
「監視任務中の営業第2部8課7係より入電!敵本隊。240キロ付近で進軍停止。陣地構築の動きあり。以上です!」
目まぐるしく動く司令部をよそにズズっとフラウが入れた珈琲を啜る。
ふぅむ?メインモニターから敵のマークが幾つか消えたから、無事に倒せたらしい。
情報管制官は早口で戦況を報告してくれるが、今ひとつピンと来ていない。セレスタやフラウは理解出来ているのか、ニヤリと笑っている。
大隊とか飛行編隊とか言っていたからそれなりの戦果を出せたのだろう。従業員が無事ならそれで良いが、怪我とかはしていないのだろうか?
戦争だからと言って怪我や戦死などされたら労災がとんでもない事になる。いくらブラック企業とは言え、何もしない訳にはいかんだろう。
「セレスタ。敵に勝つのも良いが、被害は出すなよ?
怪我は元より、死ぬなんてのは論外だ。」
一応、釘だけは刺しておく。
まぁ戦争何だし、全員無事何てのは無理だろうが、掛かるコストは少なければ少ない方が良い。
「はい!承知しております!今回は全兵装の使用を許可されておりますし、あんな弱敵に傷付けられる事無く仕留めてご覧に入れます!」
やけに自信満々の返しが返って来た。
え?そうなの?
「あー、うん。まぁ、そこは皆に徹底してやってくれ。」
「はい!全部署に通達!これより先、戦闘にて毛先ほどの傷を負うことを禁ずる!いいな!?これは社長、いや。司令よりの厳命である!!」
「「「はっ!!」」」
セレスタの一喝により、弾かれた様に動き出すオペレーター達。
皆口々に今のセレスタの命令を伝えて行く。
「司令のご命令を鑑みて、作戦プランをG-37番へ移行する。ケース05を想定!装備は64号装備!作戦開始!!」
そう。俺はこの時思いもよらなかったのだ。
まさか俺の何気ないこの一言が地獄の門を開く合言葉だったなんて·····。