戦力の引き抜き
更新遅くてなってすみません。
「素晴らしい。素晴らしいよ。」
背の高い本棚が立ち並ぶ薄暗い部屋の中、資料や本、何かの実験器具などが無造作に置かれた机の前で、第九使徒デルミアは、試験管を片手に食い入るように見つめながら恍惚な表情を浮かべていた。
「やはりこちらに付いて正解だったよ。私の知らない細菌、ウイルス、薬物どれもこれも素晴らしい。異世界の医学には興味が尽きないよ。しかし、ベリアルが言っていた異世界では、魔術はおろか魔力すら存在せず、細胞活性薬液もなければ、完全再生神聖水もないとはねぇ。」
デルミアは試験管を振りながらドイツ語で書かれた医学書の肺腺癌に関する項目を流し読みして不思議そうな顔をした。
「癌・・・なんてあるんだねぇ。しかし、症状を見る限り末期であっても上級細胞活性薬液1本あれば治りそうなものだが・・・魔術がない世界は、こんな事でも死んでしまうのか・・・」
この世界では、医学は殆ど普及していない。
その理由は、デルミアが言うように大抵の怪我や病気は、ポーションを、致死率の高い病や呪いは、ハイポーションを、肉体欠損や半日内であれば死者の蘇生も可能なエリクサー、無論ポーション以外はかなりの値がはり、エリクサーに至っては、世界樹の葉からしか生成出来ず、一度に取れる量は非常に少なく入手難度も極めて高い為に市場には、出回る事はまず無く、仮に出たとしても金貨500枚(日本円で約50億円)でとても買える額ではないが、それでも成功するか分からない手術や長期的薬剤投与よりも遥かに負担も時間も掛からない。
「あぁ・・・私の毒学もこの世界であればきっと認められただろうに・・・」
そう呟くデルミアの表情は、憎悪に満ちていた。
「だが、今暫くは、私の欲求を満たしてくれる。足りなくなれば、ベリアルが幾らでも追加するといっていたしねぇ。まぁ。そもそも、そう言う契約でこちら側に付いた訳だから現状に不安はないけどねぇ。高賃金、多休暇、3食と研究室付き、変な薬物を延々と作るように命令するクソ幹部も、やたらマウントを取ってくる使徒や信仰心をしつこく迫る司祭も居ないから、清々するね。」
溜息をつき、真なる神の嫌な事はもう忘れようと思考を隅に押しやり、試験管に入ったサンプルに視線を戻す。
「さてさて、お楽しみと行きましょうかねぇ。」
机の端にある注射器を手に取り、試験管の中に入った液体を注入していると、後ろの扉が音もなく開き、足音を殺しひとつの影が部屋に侵入していた。しかし、作業に没頭しているようでデルミアは侵入者には見向きもしていなかった。
侵入者はニヤリと笑い、そのままゆっくりと近づきながら両手を広げ倒れ込むように覆い被さった。
「あのさ・・・来てくれるのは嬉しけども、今繊細な作業してるから音を殺して後ろから抱きつくのはよしてくれないかなぁ、アスティ?」
溜息をつきながらやや困った顔で、後ろ抱きついて白く透き通る肌を猫のようにしきりに頬ずりをしてくる金色の瞳に金髪セミロングの美少女であった。
「でも、嫌じゃないでしょ。こういうの?」
砂糖のように甘い声を耳元で囁く。
「・・・まぁ・・・そうだけど・・・」
僅かに照れながら、デルミアは目線をそらす。
「それにしても、本当に良かったのかい?」
「何が?」
「アスティまでこちら側に来てよかったのかい?君は第四使徒だから、私よりは待遇いいと思うけど?」
「待遇とかそんなのどうでもいいの。私には、デミちゃんが居れば他には何も要らないもの。デミちゃんが教団を裏切るなら私もそれについて行くだけ。それに理由なんて必要ないでしょう?」
「・・・まぁ、そう言うとおもってたよ。まったくアスティは私の事好きすぎないかね?」
「好きじゃない。大好きだから。」
「はいはい。」
そして、二人は軽く口づけを交わした。
真なる神の最高戦力である十三使徒の中でも上位五名が推定又は準魔王クラスに分類される。アスティこと、アスティール・リベラルタもその一人であり、第四使徒である。
〝鋼鉄の嬢王〟の二つ名で恐れられており、過去には聖剣や魔剣を素手で受け止めただけで破壊したり、対城魔術相当の攻撃を受けても全くの無傷だったりと、あまりに異常な身体硬度誇り、魔術こそ身体強化しか使えないものの、ただ殴るだけでも城壁ぐらいは吹き飛ばせるため、武器として自身の3倍はある巨大な戦斧を所持しているが殆ど使用することは無く、破壊力と耐久力に置いては、世界でも最強の一角に入ると言っても過言ではない程の化け物である。
「で、デミちゃんは、今何してたの?」
「これはねぇ。ベリアルから貰った異世界の毒物の試しに投与して効果を見てみようと思ってね。」
「あぁ、いつものやつね。」
「そうそう。体内で毒物の分析、分解し、そこから抗体や、薬を生成する事が出来るようになるからね。」
洋服の袖を捲り右手に持った注射器を左手首に打ち込むとそこら腕全体がみるみるうちに紫色に変色し始める。脳に直接電流を流し込んだかのような強烈な刺激が全身に走り、手足が痺れ、目の前に火花が散る。
「ふ、ふふふふ・・・来た来た来たァァァッッッ!」
常人なら失神していてもおかしくないはずなのだが、デルミア全身を痙攣させながら恍惚な表情を浮かべていた。
「見える・・・見えるぞ!この毒の構造、性質、効果、最適な環境・・・ほうほう、なるほど・・・これはこのような構造式か―――」
虚空見つめ、暫くうわ言のようにブツブツと呟くと、近くにあった小瓶を手に取り、左の人差し指を振るとソフトボールサイズの透明な液状の球体が出現し、小瓶に注れると、また瓶を取り、今度は薄い桃色の液状球体を作り、小瓶に注がれた。この動作が15回ほど自動で繰り返し、球体は消滅した。
「ふむ、こんなものかな。この毒、いや、細菌を液化したものと、その解毒剤、15本ずつで、30本と・・・」
「いつ見ても便利な身体ね。毒の類いは一切効かないどころか、それらを体内に取込んで構造や性質の解析、それらを元に有毒性を強化した新種や抗生剤、そして量産も出来んるだから、もはや歩く薬品工場ね。」
「人を生産工場みたいに言わないで欲しいね。毒が効かない点では君も同じだろうに。」
「私のは効かないんじゃなくて、耐性があるだけだから。」
「よく言うよ・・・致死率80%の私の黒死の王のブレスを涼しい顔で受ける奴の何処が耐性だよ。無効と変わらんだろう。私の渾身の攻撃を喰らってあれじゃあねぇ・・・正直ショックなんだが。」
ベリアルですら死を想起させた渾身の毒はアスティには全く効かない事に、いつもの事ながら、ため息をついた。
「まぁ、いいや。来たついで、頼みたい事があるんだけれど。」
「ん?なに?」
「うちの組織は今、着々と手を広げつつある。しかし、うちの戦闘員達は、ベリアルの眷属契約でAランク冒険者相当の能力があるとはいえ、元奴隷で戦闘経験が少ない者が多い。したがって戦力の増強を図りたいんだ。具体的に言うと、新たな戦力を組織に勧誘してきて欲しいんだよ。そう、例えば・・・死期楼とか赤柩」
「えぇ・・・」
デルミアの提案にアスティは、あからさまに嫌そうな顔をした。
「前半の話は理解できる。組織的には戦力増強の為に人が欲しいのも分かる。ラフィを呼ぶのも分かるよ。あの子強いし、私も仲いいから・・・でも、なんで赤柩、もとい、ガドウィンなの?」
アスティの言葉の端には僅かに怒気が篭っていた。
「そりゃあ、引き込み易いからね。」
「私、あいつ嫌いなんだけど。いちいち五月蝿いし、デミちゃんとのイチャイチャを邪魔するし、私の戦闘の足引っ張るし、正直顔も見たくない。」
「まぁ、理由としては、死期楼は、利益がより得られる方を取るから此方に来るとおもうし、赤柩は、最近の教団のやり方に不信感を抱いているみたいでね。根が真面目だから丸め込み安いんだよ。」
「まぁ・・・確かに最近は、教団の様子がおかしいね。特にあの色欲とか言う女が教団を出入りするようになってから、教祖のクラウヌスの爺ちゃんが取り憑かれたみたいに、なんでも言うこと聞いてるみたいだし、なんか、魔王を滅ぼすとか、リーシェとか言う少女を殺せとか言い出すし、なんか滅茶苦茶だよね。」
「でも、此方としてはいい機会だ。今の教団のやり方に不満のある奴らを一斉に取り込めるチャンスだからね。なんなら、無限剣と歪曲も取り込みたいねぇ。」
「十三使徒から、あと4人も引き抜くのは流石にバレると思う。」
「そうかね?私は可能だと思うけどね。今の教団は足並みが揃ってないから、付け入る隙はあると思うよ。それに、私もアスティも、形式上、十三使徒の一員だからね。十三使徒として教団の情報を組織に流しつつ、他の十三使徒を懐柔し、教団の戦力を削げば、教団の弱体化と組織の戦力の大幅向上で一石二鳥だ。」
デルミアは、物凄く邪悪な笑みを浮かべていた。
「とても悪い事を考えてるね。」
「あぁ。今年はきっと世界中が荒れるよ。」
まだ見ぬ未来の様子を夢想しながら、デルミアは愉悦に浸っていた。
「果たして、どう転ぶか、楽しみだねぇ。」
今後も不定期更新になるかも知れませんが、よろしくお願いいたします。




