罪過の処女
前回投稿から一週間近くも開けてすみませんでした。
先の展開をどうやって書こうかかなり悩み、なかなか進みませんでした。
「さぁ。これからが本番だよぉ。だから―――」
黒死の王は、左拳を握り大きく振りかぶる。
「死なないようにがんばってねぇ。」
「Guaaaaaaaaaaaaaaaaaa―――」
ゴオッッッッッ―――
黒死の王は雄叫びを上げながら、放った一撃はもはや小さな山がそのまま降ってくるようであった。
それが凄まじい勢いで大気を振動させ、全てを蹂躙し破壊せんと、宙に停滞していたべリアルに迫り来る。
「これは、さながら山だね・・・」
圧倒的質量を誇るその拳は、大気を振動させ、森の中心に降り下ろされ、凄まじい轟音と振動が大地と空気を震わせ、大地はその衝撃で、土煙を上げながら激しく捲れ上がって、波紋のように広がり、大地を蹂躙し、巨大なクレーターを作り上げた。
「ん~ん。すばらしいぃぃぃぃよッ!!!」
巨大な噴煙を上げ、巻き上げられた樹木や大地の塊が雨のように降り注ぐ中、デルミアは満足げにその惨状を見下ろし、笑みを浮かべた。
黒死の王の一撃は、森と草原を跡形もなく吹き飛ばし、それを囲む山々すらも削り取り、標高が低くなっていた。
その一撃は文字通り、地図を書き換える程の一撃であった。
「しかし、やっぱり君は回避したみたいだねぇ。王の一撃を―――」
巻き上げられた噴煙が徐々に晴れてくると削り取られ標高がダウンした山の頂上には、べリアルの姿があった。
だが―――
「ッ―――」
左膝をつき、前屈みになっていた。
「無傷とはいかなかったようだねぇ。」
そう、べリアルは先程の一撃で、右の半身を吹き飛ばされ、頭部以外は真っ二つにでもされたかのように、なくなっていた。
(やれやれ・・・咄嗟に転移で回避したつもりだったが、やはり完全には回避出来なかったねぇ・・・しかも―――)
徐々に再生はしているものの、いつもより遅いことに気づいた。
(再生が・・・遅い・・・これは、ただの細菌じゃあないね・・・)
「再生が遅いでしょう?黒死の王は、ただの細菌の集合体ではないよぉ。私が持つあらゆる猛毒の特性を有し、あらゆる生命を殺すために作られた特殊な細菌のなんだよぉ。」
「対象者の表皮から体内に浸入し、魔力運動を阻害し、再生や魔術が使えなくなり、10秒程で内蔵の活動が停止し始め、30秒で肉体の崩壊が始まり、1分で形状崩壊し、溶けて粘液状になる。」
大地や山のあちらこちらで、植物や動物や魔物が腐敗臭よりも酷い悪臭を放ちながら黄色い湯気をたてて、粘液状に溶けていた。
「しかし、君には、再生の遅延しか機能していないみたいだねぇ。不思議だねぇ、君の身体は。高等儀式浄化魔術やエリクサーでも効かないように綿密に作ったはずなんだけどねぇ?」
顎に手を当てて不思議そうな表情のするも直ぐに笑みを浮かべる。
「決めたよ。君は殺さない。生かしたまま、私の研究の実験体にするよ。まずは、その余分な手足を潰して、再生を阻害して上げるよッッ!!!」
黒死の王は左腕をもたげ、べリアルを捕まえようとべリアルのいる山より巨大な手が伸びる。
「第五宝具〝罪過の処女〟 起動。」
右半身が再生が完了して、立ち上がり、宝具の起動申告すると両腕が肩から千切れ、宙で混じり合い変形し、赤黒い鎖が幾重にも巻かれた、赤錆色の巨大なアイアンメイデンが姿をあらわした。
「本来の用途ではないが、使うしか無さそうだ。」
「へぇ。でも、それで、王の一撃がふせげるのかなぁ!!!」
そう、べリアルの罪過の処女は巨大ではあるが、全長10000mの黒死の王と比較すると、十分の一にも満たないサイズで、とても王の一撃を防げそうなサイズではなかった。
「確かに・・・私の本来の力が使えれば、罪過の処女でも、容易に黒死の王は倒せるだろうね・・・しかし、能力の9割を制限されている今の私では、黒死の王は倒せない―――」
「だが、防ぐことはできる。」
巻かれた鎖がバキバキと砕け、金属が軋むような音と共にアイアンメイデンの扉がゆっくりと開く。
「言ってくれるねぇ。お~け~。そのまま握り潰してあげるよぉッッッ!!!」
山のように黒く巨大な王の一撃が、隕石の如く高速で、大気を揺らしながら、罪過の処女を握り潰そうと迫っていた。
「これより、汝の罪過の裁く―――」
無数の針が並んでいた罪過の処女の内部がまるで宇宙のようなほの暗い暗黒が広がっていった。そして、王の一撃が罪過の処女に達し、そのまま握り潰して、終わりだ。
バスンッッッッッ―――
「んん?」
本来の聞こえる筈だった金属を握り潰すような音はせず、何かが千切れたような音が虚しく響き、デルミアは顔をしかめ、左手の罪過の処女を掴んでいた指先を見た。
「え?」
しかし、そこには予想外の光景が広がっていた。確かに掴んだと思っていた王の左手は、親指以外の4本の指が綺麗に無くなっていた。
「は?え?・・・一体何が―――」
何が起こったのか分からず、指が無くなった王の左手の見つめデルミアは目を白黒させた。そして、ゆっくりと罪過の処女を見下ろすと、開いていた筈の扉が閉まっていた。
「ま、まさか―――」
「そのまさかだよ。」
デルミアの動揺にべリアルはほくそ笑んだ。
「ありえないよ・・・聖剣ですら破壊する程のパワーと侵食能力を持つ王の体を破壊するなんて・・・しかも、無傷って・・・一体なんなんだい、それは・・・」
「当然の結果だよ。この〝罪過の処女〟は、この世界には存在しない、神聖金属で出来ているからね。たかだかこの次元で最高級程度の金属と違い、傷すらつけられないよ。」
「この世界には・・・ない・・・神聖金属・・・君は一体・・・何者なんだい・・・」
この世界の最高級の金属はオリハルコンである。
文字通り聖剣にも使われる金属で世界もっとも硬い金属と言われている。黒死の王の身体は、そのオリハルコンすらも侵食し、ボロボロにする特殊合成魔術細菌なのだ。
黒死の王の攻撃を防ぐ手段は、同じ同化体による同質量の攻撃か、超大規模殲滅魔術ぐらいしかない。
しかし、べリアルはどうだ。そんな黒死の王ですらも掠り傷すらもつけることすらも出来ない物を所持し、白い仮面に赤い翼の対立する男にデルミアは得体の知れない不気味さを感じていた。だが、それ以上に―――
(ますます、興味が湧いてきたよぉ。)
「君には色々聞きたい事が出来てしまったようだねぇ。」
「ふむ。私としては、君が我々の仲間になるのであれば、教えないでもないがね?」
「え?」
べリアルからの予想外の言葉にデルミアは一瞬動きが止まった。
「十三使徒である私に教団を裏切れと?」
「まぁ。そうなるね。」
デルミアは少しだけ考えるように眉を潜める素振りを見せた。
「・・・条件次第だね。」
「ほう。意外だね。真っ向面から断ると思っていたのだがね。」
「私個人は正直、教団にそこまで思い入れはないからねぇ。」
「ふむ。では、どうかね?」
「私の組織についての話でもしようかね?」
「そうだねぇ。聞くだけなら面白ろそうだ。」
お互いの視線が交差し、どちらとなく薄く笑った。
「でも―――」
「あぁ。やめるつもりはないだろう?」
「もちろんだよぉ。」
べリアルが腰を低くし、臨戦体勢を取るのとほぼ同時にべリアルの立っていた山を黒死の王の巨大な左腕が、降り下ろされ、山だったものは轟音と共に砕け散り、舞い上がり、岩石の雨となり、大地に降り注ぐ。
バスンッッッッ―――
「Guaaaaa?!」
引きちぎるような音がし、黒死の王の左腕を肘部分が抉り取られ、腕が力無くぶら下がった。
その近くには、転移で移動し肘を破壊したであろうべリアルが罪過の処女と共に空中いた。
「Guaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
黒死の王はそんなべリアルを握り潰そうと豪速で右手が迫る。
べリアルは、扉の開いた罪過の処女を背中から伸びる8本の鎖を魔力で操作し、迫り来る右手の小指根元から、手首までの間に目掛け、蓋の内側が引っ掛かるように飛ばし、鎖を魔力で2本引くとべリアルの身体は振り子のように振られ、黒死の王の顔の高さを目指して飛びながら、また1本の鎖を引くと、引っ掛かっていた蓋の内側を軸に、まるでワニが口を閉じるかのように、勢いよく閉まり、右手の小指根元から手首までの部分を引きちぎり、引っ張られるかのようにべリアルの飛んで行った方向に高速で飛行し、黒死の王の顔の高さにまで到達したべリアルに少し遅れて、ジャラジャラと鎖が擦れるような金属音と共にべリアルの頭上10m程にまで飛ぶと急停止して、罪過の処女の蓋が開く。
「正面からとくるとはねッ!!」
「Guaaaaaaaaaaaaaaaaaa―――」
左肘を再生させた黒死の王は、雄叫びを上げ、左腕を大きく振りかぶり、鎖を魔力で操りデルミア目掛けて飛ばしてくる罪過の処女を迎撃すべく、拳を豪速で放つ。
ガギィィィィッッッッッッッッッ―――
山ほどある黒死の王の拳と罪過の処女がぶつかり合う重厚金属音が鳴り響き、衝突の衝撃波で大地に亀裂が走り、地表が捲れ上がる。
「ッ―――」
が、いくら黒死の王では、罪過の処女を傷をつける事が出来ないとは言え、倍以上の質量の王の一撃を受けてめられるはずもなく、押し負けて吹き飛ばしされる。
べリアルは罪過の処女を背に回し、クッション代わりにして地面への衝突しクレーターを造る。
(さて、あまり時間がないな。)
全身を使って器用に起き上がるり、横目で罪過の処女を見ると背から伸びる鎖が薄くなり始めていた。
(今の私の魔力量では〝罪過の処女〟の維持は精々あと5分程度と言うところかな。転移に使う魔力を計算に入れると3分)
(ならば―――)
赤い翼を広げ、罪過の処女を抱えて、再び飛び上がる。
(時間切れまで、殴り続けるのみ。)
転移魔術を使い、黒死の王の後ろに転移し、左脇腹を砕く。
「Guaaaaaaaa!!!」
べリアルを捕まえようと右手を伸ばすと再び転移し、今度は右足の健を砕き、続け様に、左の足の膝裏部分を砕く。
「Gua!?」
左膝の裏と、左足の健を破壊された黒死の王の身体は、バランスを崩し、大きく傾いた。
「おっと・・・なるほどの動きを封じる為に、足を破壊したみたいだねぇ。」
「だけど直ぐに―――」
それに続く言葉は、デルミアは、出なかった。否、出せなかったのだ。
べリアルは黒死の王の再生が追い付かない0,1秒単位で転移を繰り返し、胸部、腹部、脇腹、腕、太股、肘、膝、指、などを目に留まる速さで黒死の王の体を破壊し始めた。
「速い。再生が追い付かない。」
捕まえようと手を振り回すが、べリアルには、掠りもせず腕を破壊される。
(不味いねぇ・・・再生が追い付かず、欠損を補う為に、身体の一部をずらして補修を行っているいるから、どんどん、王のサイズが小さくなっていく―――)
欠損部位の修復に身体の一部をあててしまっている為、欠損を塞ぐごとに黒死の王は少しづつ、少しづつ、サイズがダウンし始めていることにべリアルは気づいた。
(よし、このまま―――ッう)
実に94回目の転移を使おうした瞬間、視界が激しく歪み判断能力が低下して3秒程の隙が出来てしまった。
「隙ありッッッ!!!」
そして、その隙をデルミアは見逃さなかった。黒死の王は右の拳がべリアルに直撃し、拳ごと大地に叩きつけられ、衝撃で地を割り砕き、大地片と土煙を巻き上げ、巨大なクレーターを作り上げた。
「フフフ。間一髪回避できたようだね。」
黒死の王の一撃が落ちた場所から1km程の場所に立っていた。べリアルは地面に叩きつけられる直前で転移することに成功し、何とか回避に成功していた。しかし―――
「ごふッ―――がはッ―――」
全身から血が吹き出しており、足元には血の水溜まりが出来ていた。
「全く・・・これだから肉の身体は不便だねぇ・・・」
最早べリアルは一歩も動くことは出来なかった。精神体では無く、堕天使として受肉した肉体には負荷が掛かりすぎたのだ。しかも、再生しようにも黒死の王に触れてしまったが為に、再生の効果も戦闘を継続するには、絶望的であった。
「いやいや、まさか、あの状態から回避するなんてね。正直驚いたよ。」
「でも、君はその身体ではもう転移は使えないんだろう?」
「さて、どうかな。」
「まぁ、いいわ。なら、これで最後にしましょうかねぇ。」
足を破壊された黒死の王は、両手を大地につき、口を大きく開けた。
「最大、最高の、この一撃を君の手向けとしよう。」
黒死の王の開いた口の中に巨大な魔力が集まり、渦巻く。
「〝黒死天来〟」
デルミアが高らかに告げると、黒死の王の口から黒い超質量級の極太光線が放たれた。
「最早転移は使えない。ならば、正面から耐えるのみ。」
罪過の処女を盾のように構えながら、衝撃に備える。
直後、黒い極太光線が直撃し、飲み込んだ。
大地を深く削り取りながら、凄まじい轟音と破壊を振り撒きながら直線状にある全てを蹂躙し、地平線の彼方にまでその一撃は達していた。
「さぁ。どうだ・・・」
土煙が収まるとそこにはべリアルが血塗れのボロボロで辛うじて立っていた。
「ごふっ―――」
血を吐き、膝をつくと、地面に刺さるように立っていた罪過の処女は霧散し赤い霧となり、べリアルに集まり、両腕になった。
「ふぅ。まさか防がれるとは思わなかったよ。」
デルミアが呆れたように呟くと、黒死の王は砂の城のように崩れ落ち、地面に降り立ったデルミアの足元の影に吸い込まれ消えていった。
「君も戦えないだろうけど。私も黒死の王で黒死天来まで使っていしまったから、私は暫く一切の魔術を行使することも出来ない。」
「どうかな?ここは引き分けと言うことで、終わりにしないかねぇ?」
「そうだね。私も君に聞きたい事がいくつかあるからね。」
お互いどちらとも無く満足げな笑みを浮かべていた。
次回は主人公サイドの話になります。
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