殲滅―④
次回からは、主人公サイドの話に戻ります
「さぁ。楽しもうぜぇ。殺し合いを!!!」
ルースは処刑大剣を振り上げると、地面に叩きつけた。
「来るッッ!!」
先程と同様の攻撃が飛んで来ると予想したアルスは、1節詠唱で身体強化魔術を掛けて全力で左に飛んで回避すると、また一瞬だけ視界がモノクロになり、立っていた場所に黒い風が通り過ぎ、地面を抉り、溶岩のようにドロドロに黒く溶け、酷い腐臭を発していた。
「なんつー威力だよ・・・」
ルースの放った一撃の惨状に、アルスは戦慄した。
「こんなもん。かすりでもしたら―――」
まず間違いなく死ぬ。ただ斬撃を飛ばしただけならば、かすり傷ぐらいなら死なないだろうが今の黒い風は石畳をどころかその下の土ごと抉り溶かしていた。いや、溶かすというのが恐らく結果だけの話だろう。実際は、超質量級の呪いの塊で、触れたものは風化を通り越し、一瞬で腐り、液状化したのだとアルスは考えていた。
「間違いなく、死ぬ・・・」
恐らく、ほんの僅かでも掠ると、そこから全身に呪いが周りを地面のようにドロドロに溶けるだろう。
そう考えると全身から嫌な汗がダラダラと流れだし、体がガタガタと震えた。
「オラッッ。まだまだ行くぞ。」
続けざまに、右下からの切り上げ、右の横凪ぎを放ち、右上からの上段の一撃に、左下からの切り上げを四連続で放つ。
「ふぅッッッ―――」
アルスは一撃目を左に飛んで回避し、二撃目を地面に伏せて回避するも、はためいたローブは黒い風を受け、ジュッと音を立てて溶け始めたため、引き千切るように脱ぎ捨て、三撃目は伏せた状態から右手足に力を籠めてバネのようにして左に転がりそう回避し、四撃目を飛び起きて、右後ろにバックステップを踏み回避する。
「へぇ~。上手く避けるじゃねーか。」
ルースは感心するように笑った。
「はぁ・・・はぁ・・・」
しかし、アルスには、その言葉に答えるほどの余裕はなかった。肩で息をしながら、油断なく、ルースの次の攻撃に備えていた。
どうにか全ての攻撃を回避出来たものの、実際は全てギリギリで、後1mmでもずれていれば掠っていた。
かなりの修羅場を潜り抜けたアルスではあったが、今回ほど肝が冷えたのは始めてであった。
(くそ・・・回避が手一杯で、攻撃をする余裕がねぇ・・・だが―――)
腰に差していたダガーナイフを抜いて構える。
「ほぅ。今度はそっちから来てくれるってか?」
「ああ。そうさせてもらうぞ。」
ダガーナイフを構え、ルースに向かって走りだした。
(しかし、どのみち、俺の得意とする風魔術も殆ど効果はないだろうな。)
アルスが得意とする風魔術は遠距離からではなく近距離で無数の風の刃を纏い敵を攻撃する近接タイプで、射程は精々2~3mほどしかないが、ショートレンジでは無類の強さを誇り、死角からの不可視の複数の刃を操り一瞬で切り刻む。その攻撃を前にすれば、敵は何が起こったのか分からない一瞬の内に絶命するのだ。
しかし、ルースのように広範囲を無差別に巻き込むような力にはそもそも刃が届かないので、この攻撃手段は効かないのである。
(しかし、無抵抗で死ぬぐらいなら・・・戦って死のうじゃねーかよ。)
アルスは姿勢を低くし、加速する。
「いいね、いいね、だが、簡単に近づいてこれるかねぇ~。」
ルースはこちらに向かって迫ってくるアルスに、無数の黒い風の斬撃を放つ。
しかし、アルスは先程のようなオーバーな回避はせず、最小限のステップでまるでバレーのように舞うかのごとくに回避する。
(ギリギリだが、避けられなくはない―――)
最後の黒い風を回避し、風魔術の射程範囲に入った。
ダガーナイフの先をルースに向け呪文を詠唱する。
「我が敵を切り裂け、〝不可風刃〟!!!」
ダガーナイフの先に風が集まり鞭のように8本の見えない刃を形成し、1本ずつ別の角度からルースに迫るが、ルースの体から黒い風が吹き出し、風魔術がかき消された。
「だと思ったぜ・・・」
防がれるのは予想したとうりだったが、不可風刃を防ぐために0.3秒ほど、大剣の動きが止まった。
「そこだぁぁぁッッッ―――」
しかし、それだけあれば充分だった。
石畳が砕き、加速しルースの懐に潜りこんだ。
「へぇ・・・やるじゃんお前―――」
「そりゃどうもッ!!」
そのままダガーナイフをルースの胸に突き立てた。
しかし、人体を刺したときの肉を穿つような感触は訪れなかった。
「なッ!?」
驚愕の表情浮かべるアルスにルース不敵な笑みを浮かべた。
「刃を突き立てたのは、久しぶりだなぁ。去年の試合でカエデとやり合ったとき以来だ。」
「嘘だろおい・・・心臓を貫いたのに・・・なぜ・・・」
確かに心臓を穿ったはずのダガーナイフは、刺さってはいたが、まるで粘土でも刺しているような感触だった。
「俺を傷つけたいなら、聖剣か神剣でも持ってくるんだったなぁ。」
刺さっていたナイフが朽ちて崩れ、傷がみるみる内に塞がった。
「この、化け物が・・・」
アルスはルースを睨みながら吐き捨てるように呟いた。
「ご生憎だがなぁ、人間は当の昔にやめたんでなぁ。」
「そうかよ・・・最後だ・・・冥土の土産にお前の名前を教えてくれよ。」
アルスは名前を訊ねた。
「いいぜ。俺は、ルース・グラハムだ。」
「そうか・・・おれは、アルス・ユーズだ。」
「アルス・ユーズか。その名前、覚えておくぜ。」
そう呟き、ルースはアルスの首を跳ねた。アルスの身体は、灰になって崩れ落ち頭蓋骨と服だけ残し跡形もなくなってしまった。
「いい素材が手に入ったじゃねーか。」
落ちているアルスの頭蓋骨を持ち上げ、左腕に近づけると吸い込まれて、左腕の頭蓋骨の一部になった。
「さぁて、あとは―――」
黒いローブを着た姉妹を見る。
「ひぃッッッ―――」
ルースと目があった姉の方は、身震いをした。
「皆殺しだからなぁ。お前らも殺さなきゃいけねーんだわ。」
大剣を担いで、姉妹を元に歩き始める。
「いや・・・いやぁッッ・・・来ないでッッ、待って、せめて妹だけでも―――」
最早腰が抜けて動けない姉妹の姉はせめて、妹だけでも殺さないで欲しいと、涙を流しながら懇願する。
「おやおや。随分と綺麗な姉妹愛を見せつけてくれるじゃねーかよ。」
そう言いながら、大剣を振り上げる。
「でも、駄目だねぇ。死にな。」
姉は妹を庇うように覆い被さり目を瞑った。
大剣を姉妹目掛けて振り下ろされたが、姉妹の体に来るはずだった刃の感触は訪れることはかった。
ガキィィィン―――
「おい。てめぇ。」
けたたましい金属が音とルースの疑問の声が聞こえ、恐る恐る姉は目を開けると、そこには、一人の男の背が見え、その男はルースの大剣を片手に持った柄の先端に丸い飾りのついた直刀〝闘技剣〟で受け止めていた。
「どういうつもりだ。ケー。」
上半身裸で、背中に大きな睡蓮の花を上から見たような模様の中心に魔方陣が描かれた刺青がみえ、制服のブレザーを腰に巻いた、黒髪の男子生徒〝超人〟の二つ名を持つ武戦学園序列七位のケーは、顔をしかめる。
「やりすぎだ、ルース。」
「やり過ぎだぁ。な~に言ってんだぁ。学園長から敵は皆殺しにしろって言われただろうが。」
「敵は、皆殺しにしろと言われたが、戦意もないし、敵意もない子供を殺して良いとは言われてねーよ。」
ケーは闘技剣で処刑大剣を弾き返した。
「はぁ?寝ぼけてんじゃねーぞ。お前、敵意や戦意がない振りををして襲ってくるかもしれねーだろうが。」
「この子達に限ってはそれはないな。」
「あ?なんで、言い切れんだよ。」
ケーは姉妹の首を指差した。
「首を見ろ。あれは奴隷の首輪だ。おおかた、無理矢理連れて来られたんだろう。この子達の主がいるなら、勝てないと分かっても命令をして戦わせるはずだろ。でも、戦わない。それは、この子達の主が死んでいるからだ。」
「そうだろう?」
ケーは首だけを動かして姉妹に訊ねた。
「・・・は、はい・・・そこに・・・倒れて・・・います・・・」
震える声で姉は倒れている男の一人を指差しながらケーの質問に答えた。
「ほらな。」
「嘘かもしれねーだろ。」
「この状況で嘘をつくメリットはないだろ。」
ケーの切り返しにルースは呆れた顔をした。
「やれやれ、やけに奴隷のガキを庇うなぁお前。もしかして、あれかぁ~、自分達も元奴隷だから庇うのかぁ?」
「違う、そうなんじゃない。」
「じゃ、どけよ」
「話を聞いてないのか、お前。断る。この子達は学園で保護すべきだ。」
「ちっ。面倒くせーな。だったらてめぇをぶっ倒して、そいつらの頭蓋骨を貰うぜ。」
「はん。それが本音か屑野郎がッ!!」
お互いに剣を構え、斬り結ぼうとした直後。
「あい、待たれよ。」
なんの前触れもなくルースとケーの前に飛び出し、二人の剣を
片手にで難なく止められる。
「なんで、てめぇまで、邪魔すんだよ。リー」
リーと呼ばれた黒髪のオールバックの男子生徒で〝武神〟の二つ名を持つ武戦学園序列二位のリー・エイセンであった。
「今は仲間割れしている場合ではなかろう。」
「ちっ。わーかったよ。」
「そうだな。」
お互いに剣を引いた。
「ん?なんだ。何かあったのか?」
そこに、殲滅を完了して、合流した黒髪ショートヘアの女子生徒〝炎竜〟の二つ名を持つ、武戦学園序列六位のマルティ・ネルガスが、3人を交互に見ながら訊ねる。
「いや、何も。そちらは無事終ったようだな。」
「あぁ。そうだな。5件中3件はハズレで、しかもどいつもこいつも骨が無かったが、まあ、早い者勝ちみたいな所はあったからな。」
不完全燃焼だと言わんばかりの、溜め息を着いた。
「で、そこの子達は、どういうことなんだ?」
マルティは、いきなり人が増えてオロオロしている姉妹を見て、3人にたずねる。
「敵に囚われていた、奴隷の子達だ。主がそこで死んでるから、害はない。学園で保護するつもりだ。」
ケーが姉妹を見ながら答えた。
「なるほどな。魔戦十二将もじきに揃うようだし、あたしたちは、この後の仕事がまだ残ってるから、騎士団に任せようじゃないか。」
マルティの発言にケーとリーは頷くが、ルースだけは不機嫌そうな顔をしていた。
作品の感想・意見などあれば気軽にコメントしてくださるとありがたいです。
可能な限り返したいと思います




