殲滅―①
十二将の戦闘シーンが後3~4話ほど続く予定です。
今回はアールの戦闘シーンオンリーです。
次からは何人かまとめて書きます。
「皆、集まったな。」
セルジアの執務室に、両学園の十二将が横並びで揃っていた。
「では、これより、生徒、教員及び学園関係者、住民や従業員の救出と保護、そして、一連の行方不明事件の実行組織である〝黒薔薇〟と首謀者である大手奴隷商会グランド・ロアの殲滅作戦を開始する。今回、君達は十二将の役割は、敵の殲滅である。行方不明者の保護は騎士団総出で行う。」
「ようは、俺達は敵を好きにぶっ殺して良い。後の事は騎士団が全部やるってことで良いんだろう?」
ルースは獰猛な笑みを浮かべる。
「そうだ。好きに暴れろ。但し、絶好に敵以外は殺すなよ。」
「はっ。そんなへまはしねーよ。」
「人質は。取らせない。ひと拠点。五分で制圧する。」
黒い革のグローブを嵌めたアールは、光のない無機質な瞳で学園長を見ながら答える。
「そうですね。早々に済ませて、島外に連れ出された方の救出に向かうのが先決かと思います。」
黒い鞘に収まった刀を肩に担ぎながらカエデは答える。
「ええ。では、我々も行動を開始しましょう。」
ニーベルが踵を返し、扉に向かって歩き始めると、それが合図とでもいうように、十二将全員がニーベルに続くように扉に向かって歩き始めた。
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「あぁ。しっかし、楽な仕事だよなぁ~。」
学園島内でも山が連なる麓の森の中にひっそりとある、廃墟の洋館の入口で見張りをする黒いローブに、男があくびをしながら呟いた。
「確かに楽な仕事だとは思うがな・・・警戒は怠るなよ。」
入り口の門にもたれ掛かり眠そうな男に対してもう一人の男は、油断なく答えた。
「そうは言うがなぁ。このローブのおかげで、学園側にはばれてねぇようだし、他の連中と合わせて100人以上、楽に誘拐できたし、ここの連中は学園島の中だからか、完全に油断しきってたからな。チョロいもんだ。後は、明日の朝に船に乗せて本部に送り届けるだけだ。」
「だとしてもだ。明日の受け渡しまでは、油断するな。」
「でもよ。現に、ここには、俺たち以外に誰一人きてないんだぜぇ。それに、ここには、最高幹部の―――」
「最高幹部。誰がいるの?」
「なっ!?」
突然音も無く、赤い逆三角形の模様が入った白い仮面に黒いポンチョを羽織った格好のアールが裸足で草を踏みしめ歩きまながら門番をする男達に接近していた。
「なんだ、お前。何故ここにいる?」
「どうやって、ここまで来た?」
突如現れたアールに、一瞬驚きはしたものの、男二人は直ぐに剣を構えた。
「ここにたどり着く前に、大量のトラップがあったはずだ。」
そう。この洋館がある周辺の森には、侵入者の対策の為に様々なトラップを用意していた。その中には当然侵入者を感知する物があったはずなのだが、何故か一切反応はしていなかった。
「無駄。そう言うの。私には。効かないから。」
「なんだと・・・そんな訳が―――」
男言い終わるのを待たずに、アールは一瞬で門番の剣構えた男二人の間に瞬間移動したかのように現れた。
「トラップが、あったということは。ここで、確定。用済み。だから―――」
アールの両腕が二人の男の胸を貫通ではなく、すり抜けていた。しかし、アールの両手には二人の心臓が握られていた。
「死んで。」
冷たく呟きながら、グシャと心臓をにぎり潰すと男二人は糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。
「最高幹部がいる。少しは期待できそう。」
洋館を見上げながら鉄の門をすり抜けて、玄関前の庭に入ると、門番の男の声が聞こえたのか、扉や窓から黒いローブを羽織った人が次々と現れ、20人ほどになり武器や構えてアールに向かって走り出した。
「雑魚に用はない。」
アールの足元にある影が円状に広がり目にも止まらぬ速さで庭全体に広がったかと思うと、ローブを羽織った人達の体が影に沈み始めた。
「な、なんだこれは!?」
「体が沈む!!」
「くそッ、くそォォッッ。どうなってるんだ。」
「嫌だ。嫌だよぉぉ―――」
ローブの人達は、影から抜け出そうともがくも、影はもがけばもがくほど、底なし沼のように沈み飲み込んでいく。中には10歳にも満たないような女の子もいたが、アールは沈んでいくローブの人達のことなど見向きせず、玄関の扉をすり抜け、洋館の中に入った。
「くそ!!なんなんだ。お前・・・」
「その体、どうなってやがる・・・」
鉄のかんぬきを差した重厚な木製の扉をすり抜けて現れたアールの姿にローブを羽織った人達が武器を構えながら、後ずさる。
「よせよせ。お前らみたいな雑魚じゃ、相手にならねーよ。下がれ。」
アールが声のした方を見ると、二階の階段からゆっくりと降りてくる赤いローブを羽織った右顔面に刺青の入った男がゆっくりと降りてきた。
「ザ、ザグドさま!!」
「俺がやる。お前らは、そこで見てろ。」
「〝影操〟のザグド。黒薔薇の最高幹部の一人。Aランク上位の冒険者クラスの戦闘力を持つ、影魔術の使い手。懸賞金3000万ぺリス(金貨3枚相当)の賞金首。」
アールは無機質な声で、ザグドの知る限りの素性を明かした。
「ん?お前どっかで見たことあるな。特にその髪・・・まぁいい。俺のこと知ってんだな。だったら、お前はもう終わりだ。」
歩きだそうとしたアールは突然体が動かなくなり、足元を見ると影にナイフが刺さっていた。
「お前の影を止めた。これでお前はもう動けない。」
ザグドはアールの対面に立つと手を挙げる。
「じゃあな。学園の犬。」
ザグドが指を鳴らすと、アールの影が揺めき、針となりアールの全身を貫いた。
「よし。お前ら、死体を片付けを―――」
「それで、終わり?」
背中を向けて歩きだしていたザグドは、聞こえるはずのない声が聞こえて、振り返った。
そこには、全身影の針で貫かれたはずの、アールが何事もなかったかのように、いや、そもそも、始めから刺さっていなかったようにすらみえた。
「バカな・・・」
「私に。物理攻撃は効かない。拘束能力事態は、なかなかのモノだと思う。でも―――」
アールを貫いている影の針がパリンッと音を立てて砕け散り、影を刺していたナイフは、影の中に沈んでいった。
「私を拘束するには、足りない。」
先程と同様に、影がフロア一面に広がった。
「ッ!?」
危険を察知したザグドは、階段の手すりの上に飛んで、回避した。
反応できなかった、フロアにいた12人程の黒いローブの部下たちは皆、体が影の中に沈み始め、助けを求めながら、もがいていた。
「おいおい。一体なんなんだよ・・・その、魔術は・・・」
ザグドは目の前で起こっている地獄のような状況が理解できず、戦慄していた。
「固有魔術。」
「固有魔術だと!?」
ザグドは目を見開いた。固有魔術と言えば1000万に1人ぐらいの確率でしか生まれない通常の魔術は一切扱えないが、その代わりに、唯一無二のオリジナル魔術を持つ希少な存在で、世界でも確認されているだけでも、僅か30人程しかいないとされる。
「私の魔術は、透過魔術。ありとあらゆる物質や生物、魔術を透過できる。貴方の部下は、私の影を通して。地面に透過した。今は地中5mほどの所で全員生き埋めになっている。」
「なんだよそれ・・・最早ただのチートじゃねーかよ・・・ん?待てよ・・・透過・・・臙脂色の髪・・・まさか・・・」
ザグドは最悪の可能性に行き着き、全身から、冷や汗が吹き出した。
「スルーベル戦争の臙脂色の悪魔・・・」
それは、今から3年ほど前に起こった、カルディニア帝国と南の大陸の国家ラーレス民国のスルーベル高原での戦いの際に、突然乱入した臙脂色の髪の猫人族の少女がカルディニア軍の兵士をたった一人、僅か三日間で70万人以上の兵士を殺し、カルディニア帝国軍は南の大陸から撤退を余儀無くされたのである。
その戦いを目撃した兵士はこう言った。「攻撃がことごとくすり抜けて全く当たらない。」「でも、あっちの攻撃通るんだよ。」「仲間が次々と地面に消えていった。」とそのあまりのも一方的で残虐な少女をカルディニア帝国軍は恐怖と畏怖を込めて〝臙脂色の悪魔〟と呼び、恐れられていた。
「そうだと。言ったら?」
「ハハハハ―――」
乾いた笑いを浮かべ、背を向けて二階の窓に向かって全力疾走する。
「冗談じゃない!!あんな化け物に勝てるかよ!!!」
臙脂色の悪魔は弱く見積もっても、Sランク冒険者クラスの戦闘能力を持つと言われている、いわば、一人軍隊である。そんな化け物と戦うほど、ザグドは命知らずでも、愚かでもなかった。
窓にめがけてジャンプしようとした時、急に足が上がらなくなり前のめりに倒れた。
「ああ・・・そんな・・・嘘だろ・・・」
ザグドの左足首が階段に埋まっていた。
「逃がすと思う?」
アールが手でクイッと動かすとザグドの体がアールのいる方に強い力で引っ張られる。
「あぁぁぁぁぁぁッッッ―――嫌だぁぁッッ―――死にたくな―――」
涙と涎を撒き散らしながら、命乞いをするザグドの背中を透過して心臓を抜きとられ、アールの体を透過して地面に転がった。
「やっぱり弱い。がっかり。」
そう呟いて、心臓を握り潰した。
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