最強の剣豪
武戦学園の生徒初登場です。
「ごめんなさい。彼女に関してはあまりよく知らなくて・・・」
リーシェはクラスメイトであるミリーに頼まれた、行方不明になっている友人のマリーに関する情報を得るために、あちこちで聞き込みをしていた。
今は、マリー同じ回復魔術科の女子生徒に何か心当たりはないか昼休みのカフェで尋ねていた。
ちなみに、べリアルには別の所を当たってもらっている。
「どんな些細なことでもいいので、何か心当たりはないかな?」
「ん~。と、言ってもなぁ・・・」
女子生徒は困ったように頭を抱える。
「ない。かな、やっぱり・・・」
「ん~。あ!!でも、これ、心当たりって言っていいのかわからないけど・・・」
頭を抱えていた女子生徒がハッと何かを思い出したような様子でリーシェを見た。
「うん。」
「実は、マリーさんってさ、亜人の・・・じゃなくて、兎人族の友達がいるらしいんだけどね。」
兎人族とは、兎の耳と尻尾を持つ亜人の種族の一種である。
女子生徒が亜人と言いかけて兎人族だと言いなおしたのはこの学園島のルールとして、身分や種族による差別を禁止しているため、○○族の○○さん、と言うように亜人と言う呼び方は差別用語となるため種族名で呼ぶのが推奨されている。
「確か、サリルって名前の子だったと思うけど、行方不明になった日に、マリーさんと一緒に昼ごはん食べてたらしいし、放課後も一緒に部活動していたらしいから、その子に聞いた方が何か知っているかも知れないよ。」
それでもリーシェにとっては有用な情報であった。
依頼人であり、クラスメイトでもあるミリーからはサリルと言う兎人族の生徒の情報はなかったなので素直にありがたいと思ったのだった。
「兎人のサリルさんね・・・」
持ち歩いていたメモ帳に書き込む。
「因みにだけど、サリルさんのクラスは知ってたり―――」
「確か・・・風嵐魔術科の生徒だったような。」
「なるほど・・・風嵐魔術科っと・・・」
「確証はないから、他の兎人族の子に聞いたら何か知ってるかも知れないよ。」
「うん、分かったよ。有益な情報をありがとう。」
「いや、こんな情報で役に立ったのならよかったよ。」
「いえ、わざわざ時間取ってくれてありがとう。」
回復魔術科の女子生徒にお礼を言って、1枚の赤色の券を差し出した。
「ここの飲食代は私が払っておくよ。それからこの券、1枚だけど情報で提供のお礼です。券は島内の全てのお店で使えるから活用して。」
「マジかよ・・・特待優良券じゃん!!!」
女子生徒は赤い券を見た瞬間とても興奮した様子でリーシェの手から奪うように取った。
「すげぇ・・・マジで本物じゃん。ただの噂だと思ってたけどほんとにあったんだ・・・」
女子生徒は貰った赤い券をまだ興奮冷めやらぬ様子で眺めていた。
それもそのはずだ。この金色で縁取りされて、真ん中に特待優良券と金色の文字が印刷された赤い券は、島内の全てのお店で使用でき、飲食店や家具や生活雑貨や武器や防具、魔導具など、どれだけ高価な物を大量に買おうが、食べようが、この券一枚でそのお店では全て無料になるという、とんでもない券だからである。
その大型店ですら空っぽにできるあまりに無茶苦茶な券に、かつて学園島の財政が危うくなりかけたことがことがあり、学園島の200年の歴史の中で僅か2枚しか使われなかったとされる都市伝説みたいななんでも券である。
なぜリーシェがそんな凄まじい券を持ってたのかと言うと、今回の大量の行方不明事件を重く見た学園側が、事件の手掛かりになるような情報を提供した生徒に、報酬として渡す許可を出し、魔戦学園と武戦学園の十二将24人に一人に付き、5枚ずつ計120枚を委ねた。つまり、学園側もそれほど本気であるという証拠である。
リーシェは、ミナト、ルクシリア、アールの3人から捜査関係者という扱いで、1枚ずつ貰っていて「リーシェちゃんの裁量で役に立つ情報だと思ったら渡していいからと」言われていたのでその内の1枚を渡した訳である。
「ほんとに貰っていいのこれ?!」
「うん。いいよ、十二将の先輩方にそういった目的でもらってるから、気にしないでいいよ。」
「リーシェさんは十二将に知り合いいるのか・・・凄いな。私なんて近づくだけでも無理そうだもん。」
「そうかな。案外話しかけたら、気さくに答えてくれると思うけど。」
「そう言えるだけでも羨ましいよ・・・」
「それじゃあ。私は、これからサリルさんを探しに行くね。」
「そっか。またなんかあったら相談に乗るよ~」
「うん。その時はまたよろしくね。」
そう言って女子生徒にお礼を言うと、席を立って、レジで二人分の会計を済ませてカフェを後にした。
(サリルさんに直接話を聞いてみる必要がありそうだけど、とりあえず、ミリーさんにサリルさんのことを聞いてみた方が良さそうかな。)
とりあえず、依頼人であるミリーに報告とサリルについて聞いてみようと思ったリーシェは学園に戻ることにした。
(そうだ、いつもは使わないけど、最短ルートで行こう。)
大通りを早歩きで向かいながら、ふと、普段は使わないけど学園に向かう近道があるのを思いだして、大通りから裏路地に入った。
人が5人程しか通れないような狭い通路を通り抜けると、住宅に囲まれた昼間でも薄暗いある小さな噴水のある広場に出た。
しかし、薄暗いせいか人は誰も居なかった。
「ええと。確か、広場に出て・・・そう、右の通路だ。」
3本見える通路の右側に向かって歩きだした。
「いや。お前が行くのは、監獄だ。」
なんの前触れもなく、いきなり後ろから男性の気配が現れたかと思うと殺気の籠った低い声を掛けられた。
「―――ッ!?」
突然現れた男性の殺気にリーシェは、振り返ろうとして―――
「なに―――」
リーシェの右脇腹に回し蹴りされた足がめり込む。
「ぐうッッッ―――」
脇腹を蹴られ重く鋭い痛みと共に体が浮き上がり3、4mほど飛ばされ背中から住宅の壁に叩きつけられた。
「ごふッッッッ―――」
壁叩きつけられた衝撃で、痛みと肺から無理矢理押し出された空気と一緒に血を吐き出した。
「なんだ、こいつ。聞いていた以上に貧弱じゃないか。この程度攻撃も回避できないとか、こりゃあ、ボーナス確定だわぁー。」
男は地面に倒れ込んだリーシェを馬鹿にしたように嘲笑ながらリーシェの向かって歩きだす。
「げほ・・・げほ・・・なん・・・で、こんな・・・こと・・・」
壁を支えにしながらヨロヨロと起き上がり、男を見据えた。
男は全身黒ずくめのローブに深くフードを被り、顔のは白を基調とした目の部分に穴が二つ空いていて、赤い十字架のマークが中心に描かれた仮面をしていた。
「なんでだと?貴様ふざけているのか?この、背信者がぁッッ!!」
仮面の男はリーシェ向かって踏み込み真っ直ぐ突っ込んできた。
「ッ!?だったら。」
どうやら、話を聞く気ははなっからなさそうだと感じたリーシェは両手の人指し指に嵌めていた指輪に魔力を流すと指輪は一瞬でガントレットに変形した。
「戦うしかない!!!」
拳を構えて向かってくる男に向かって走り出した。
人間相手の戦いなど全くしたことがないうえに、相手は自分大きく、強く、速い、明らかに勝ち目などないが、でも、やるしかないとたかをくくった。
「はあぁぁぁぁぁぁぁッッッ―――」
リーシェは腰をはいった右スレートパンチを放つ。
「おいおい。なんだよそのパンチは、遅くてあくびがでるぞ。」
意図も容易くかわされて、リーシェもお腹に仮面の男の放った拳がめり込む。
「がはぁッッッッ―――」
もろに喰らったリーシェは、床に落ちる人形のように力なく地面に横向きに倒れ込んだ。弾みで、ガントレットが解除され指輪に戻った。
「おぇぇぇぇ―――」
お腹を抑えながら、与えられた衝撃によって胃から吐き出されるように昼に食べた物を嘔吐した。
「ゴホ・・・ゴホ・・・あっ・・・くぅ、ふぅ・・・あぁぁぁ・・・うぅッッ・・・」
腹部の痛みが酷く上手く満足に言葉を発することすらできなかった。
「おおぉ。あの程度の攻撃しか出来ない癖に、大層なガントレットなんて装備しやがって。」
リーシェはこの場から這って逃げようと右手を伸ばした。
「おっと。逃がさないよ。」
リーシェを伸ばした右手の甲をスパイクのついた靴で踏みつけられる。
「ひぎぃッッ―――」
手の甲に無数に突き刺さったスパイクの鋭い痛みに耐えきれず短く悲鳴を上げた。
「なに、逃げようとしてんだよ。この悪魔崇拝者がぁ!!」
仮面の男がリーシェを怒鳴り散らす。
「そん・・・な・・・の・・・しら・・・ない・・・」
「知らないだと、ふざけるなぁぁぁ!!!」
リーシェの一言に激昂した仮面の男は足を大きく振り上げて力一杯にリーシェの手を踏みつけた。
「いぎぃぃぁぁぁぁぁぁぁッッッ―――」
悲鳴を上げ、骨を裂き砕かれるような激痛で手足が強ばる。
「悪魔を呼び出した癖にしらばっくれやがって、俺は見たんだぞ!!お前が悪魔を召喚し、契約するところをな!!」
「そん・・・な・・・」
まさか、あの公開召喚儀式を理由にこんなことになっているとは思いもよらないリーシェであった。
「あれだけで証拠としては十分なんだよ。」
仮面の男のはしゃがんで、リーシェの髪の毛を掴み無理矢理状態を起こす。
「安心しろ。お前はこれからしかるべき裁きを受けたのちに断罪される。他のお仲間と一緒になぁ。」
仮面の男の言葉にリーシェは目を最悪可能性が頭をよぎり顔をまじまじとみた。
「ま・・・さか・・・みんな・・・を・・・誘拐した・・・のは―――」
「ああ、そうだ。俺達だ。でもそんなことどうでもいいだろう。どうせお前も同じところいくんだからよぉ。」
仮面の男はそう言ってリーシェを乱暴に担ぎ上げた。
「さーて。行こうか悪魔崇は―――」
「その子を担いで何処に行くつもりですか。」
(なっ!?馬鹿な―――)
唐突に後ろから凛とした鈴のような少女の声がして男は咄嗟に振り返ろうとしたした瞬間、刀の鞘の先端が右斜め下45度から顔面に迫っていた。しかし―――
(速す―――)
ぎる。という言葉を言い終わることなく、右斜め下から45度からの鞘先端が下顎に食い込みバキバキと音を立てながら顎の骨が砕け、脳震盪を起こして地面に引っ張られるように倒れ込む。宙に投げ出されたリーシェを少女がお姫様抱っこでキャッチした。
「あな・・・た・・・は?」
朦朧とした視界には、長い美しい風になびく黒髪に、整った顔立ちであったが、彼女は目を瞑っていた。
「私は、カエデと言います。貴方を助けに来ました。」
カエデと名乗った少女はリーシェに優しく微笑んだ。
「か・・・えで・・・さん・・・」
「はい、そうです。」
「わた・・・し・・・は・・・」
もうほとんど見えなくなった視界の中で、リーシェは仮面の男のことを伝えようとした。
「貴方はよく頑張りました。ですから、今は、お休みください。」
そう優しく告げられてリーシェは意識を手放した。
これがリーシェと学園島最強の剣豪と言われる武戦学園序列一位〝幻雨の剣聖〟の二つ名をもつカエデ・ナガシマとの出会いだった。
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