変な本
修正しました。
〜召喚魔術〜
それは、触媒を用いた儀式魔術によって霊界と呼ばれるこの世界とは異なる世界に干渉し、聖獣や精霊などを召喚獣として呼び出して、主従契約を結ぶことにより召喚者が自由に使役することが出来る魔術である。しかし、召喚獣は、召喚者の魔力や性質、使用した触媒、魔法陣の描き方、そして魔力の込め方で何が召喚されるか変わってくる。また上位の召喚獣であればあるほど、召喚すのも契約するのも難しいとされている。 その為、例え上位の精霊やドラゴンなどの召喚に成功しても、召喚者の魔力や使役する能力が足りないと判断されれば、召喚者が殺されるケースもある。また、同じ触媒で同じ召喚獣は、二度と呼ぶことはできないため、触媒や魔力が無駄にしないために、自分の魔力や使役能力にあった召喚獣を召喚するのが一般的である。魔力が低い場合は、ゴブリンやスライムなどのFランク召喚獣から召喚練習をするのが好ましい。〜召喚魔術基礎 第一章・基礎知識3ページ〜
「自分の魔力や使役能力にあった召喚獣か・・・・じゃあ、Fランクの練習用召喚獣すら召喚出来ない、私には、何の素質もないって言いたいわけぇ!?」
窓から夕日が射す、背の高い本棚がそびえ立つ、大図書館の一角の休憩スペースの四人掛けの机の上に、分厚い魔導書や参考書など、幾つもの積み上げらた本に囲まれ、机に突っ伏した、白色の軍服のようなデザインにブレザーに金縁のケープを羽織り、青のチェック柄の太ももの中ほどの丈のプリーツスカートの制服を着た、健康的な小麦色の肌に、栗毛色の髪はくせっ毛が自然なカールを描きウルフカットのようになったショートヘアの少女、リーシェ・アストルは目の前に広げてある『召喚魔術基礎 基礎知識』と描かれた本に内容に向かって本日何度目になるかわからない、文句を濡れ羽色の瞳でにらみながらぶつけた。
「はぁ・・・どうしよう、明日本番だよ。」
「これで何も召喚できなかったら今度こそ、落第だよぉ。」
ここオーリス学園島は、世界最大の国家カルディニア帝国の南方に位置する離島を七大魔王の一人セルジア・リベリスタが買取り、世界中から才ある学生たちを集め、魔術、武術、法学、建築、製造、芸術などの様々な分野で個々の才能を伸ばし、世界に通用する優秀な人材を育成するために、島を丸ごと改造して学園島として作り替えた。
島内の学園は、武術を専門とするオーリス武戦学園、魔術を専門とするオーリス魔戦学園、法律や国政を専門とするオーリス法政学園、建築を専門とするオーリス建築学園、製造業を専門とするオーリス製造学園、芸術を専門とするオーリス芸術学園の6つの学園がありいずれの学園にも、様々な国の王侯貴族も在籍している。その総生徒数はおよそ6300人である。
学園島の敷地面積は400㎢を超え、広大な敷地には、学園以外にも、生徒や教員が生活に困らないように、武器、防具、本、工具などの専門的なお店や飲食店、服、家具、日用品など販売するお店が至る所にあり、娯楽施設も闘技場、劇場、ホテル、公衆浴場、エステやサロン、カジノ、風俗店に至るまであらゆる施設が揃っている。
本来ならば、これといった才能があった訳ではない、ただの村娘であるリーシェには縁もゆかりもない学園なのだが、15歳になったときに村の教会で魔力測定を行った際、判定に使った水晶が砕ける程の膨大な魔力を持っていることが明らかになり、教会の神父の計らいもあって、オーリス魔戦学園の総合魔術科の特待生として学園に入学した。
最初こそ、学園始まって以来の膨大な魔力を持つ農民の特待生として、注目さていたが、座学の小テストで赤点ばかりで、肝心の魔術の実技授業では、膨大な魔力があるにも関わらず魔術の発動すらしないという散々な結果になり、挙句、担任のメリッタ先生には『リーシェさん。明日の一般公開される召喚儀式の時に、召喚獣を呼べなければ今度こそ落第ですよ。』と言われ、他の生徒たちからリーシェは無能と呼ばれるようになってしまったのである。
公開召喚儀式は、武術を専門とするオーリス武戦学園と魔戦学園の一年生約1400人全クラス参加の恒例行事である。
「だぁ〜てしょうがないじゃん、ただの村娘が、教会でいきなり魔力が高いって言われて、よくわかんないままこの学園に入れられて、基礎も知らないのに魔術なんて使えるわけないじゃん・・・も~なんで上手くいかないのぉぉ」
足をバタバタさせて駄々子のような泣き言を叫ぶ声が誰もいない図書館に虚しく響く。
「せめてアルティがいてくれたらなぁ。」
アルティは、となりの席の女生徒で、リーシェが特待生として入学してきたにもかかわらず、魔術に対する知識がまるでなく、座学の小テストでは赤点クラスの最低点数で、肝心の実技の授業も詠唱もできないし、最低ランクの魔術すら使えないと分かってから、みんなが「無能女」とか「できもしないのに嘘つくとか最低」とか「特待生枠の無駄使い」とか「辞めちまえ」とか言われて皆離れていく中で、唯一リーシェが何もできない出来ないと知っても離れて行かなかった、大切な友人だ。とても世話焼きで、真面目で成績優秀、優しく皆に人気がある子で、自分には勿体ないぐらいのいい子だ。ただ、こんな日に限って『ごめんなさい。どうしても外せない用事があって、本当にごめんなさい。この埋め合わせは、必ずするから―――』と急ぎ足で帰ってしまった。
まぁ、アルティは貴族のご令嬢だから、色々あるんだろう。
それに、今度の公開召喚儀式で失敗したら落第になることはアルティには話していない。こんな私のために何から何までしてくれるのだ、きっと落第のことを言うと、家のことすらほっぽりだして、先生たちに抗議するだろう。そうなると私はともかく、アルティの学園での立ち位置まで悪くなりかねない。
なので、自分の力で、何とかしようと思っていたのだが、一時間もしない内にこの有様である。
「うだうだ言ってもしょうがない。いっぱい取ってきたんだし、他の本も読んでみよう。」
体を起こして、『召喚術基礎』の本を閉じ、右隣の積みあげられた一番上の本を取ろうと手を伸ばし、つかみ損ねて、積んでいた本を床にばらまいてしまった。
「はぁ~。やっちゃった。拾わないと。」
本日二度目のため息をついて、椅子から立ち上がったて、拾った本を小脇に抱えながら拾っていると、見覚えのない本が混じっているのに気づいた。
「なに・・・この本・・・魔導書?」
「確かに、適当に召喚術の棚にあった本を取ってきたけど―――」
その本は、辞書ぐらいの厚さがあり、装丁は全体的に何かの動物か分からない赤黒い皮のにまるで模様のように、色んな人顔が浮き出ていて、表紙真ん中には、二重円の中に適当にかいた教会をひっくり返したような、見たことない魔法陣が描かれて、蝶番の付いた2つの金属製止め金具で止められていた。
「こんな気持ち悪い本取った覚えないんだけどなぁ。でも―――」
どうしてだろう―――何だかとても気になる。
この本を読まなければいけない気がする。
リーシェはなぜだが『この本を・・・何としても読まないと』一種の強迫観念のようなものに支配され、得体の知れない恐怖に包まれて自然とそちらに手を伸ばす。
気持ち悪い!、触りたくない!!、見たくない!!!、思考は拒絶しているはずなのに、本から目が離せず、ゆっくりと手を伸ばしてしまう。
「はぁ―――はぁ―――はぁ―――」
呼吸は荒くなり、手は震え、体からは冷や汗が、噴き出すのを感じる。
そのまま震える手で、ゆっくりと本を掴んで持ち上げ、表紙を見た。
「ゴエ・・・ティア・・・」
手に取ってみるまで気づかなかったが、表紙の上の方には、酷くかすれた、見たこともない文字が書かれていた、そう、見たことがないはずなのに何故か読めたのである。『ゴエティア』っと―――
「え、えっと・・・こ、この金具を外して・・・」
本をの金具に手を伸ばし―――
『汝、原初なる神により選ばれし者よ―――』
「うひぁ?!」
突然、表紙模様のような顔のひとつから男性の声がして、驚いて、持っていた本を落としてしまった。が、本は、床から数センチの所で静止した。
『汝の願いを叶えよう。』
今度は別の女性の声がして、胸の高さにまで浮き上がった。
バキン―――っと音を立てて金具が吹き飛び、ものすごい勢いで勝手にページがめくれていき、真ん中あたりで止まった。
「これは・・・召喚の呪文?」
見開き2ページに渡って、10節の召喚魔術の呪文らしきものが浮き上がった。
相変わらず見たことない文字なのに何故か読める。
「しかも、4節詠唱ではなく、10節詠唱・・・そんなの聞いたこと―――」
この世界の召喚魔術における詠唱とは、国によって若干の違いはあれど、『来たれ、霊界よりいでしものよ、世の理を超え創造の神の名のもとに、我とを契約を結ばん。』の4節が基本である。
上位精霊や聖獣でも6節、最上位種のドラゴンやフェニックスのような神獣族ですら8節詠唱だ。10節詠唱など聞いたこともない。
『否、これなるは原初のなる悪を召喚せし、深淵なる呪禁である。矮小なるこの世の稚拙な戯言とは、同列に非ず。』
複数の男女が同時に喋ったように声で答えた。
「原初の・・・悪・・・」
『原初の悪』それが何かは分からないけれども、少なくとも人の手には余るような物凄くヤバイ物が召喚されそうな気がしてならない。
だが、リーシェには、それよりもどうしても気になることがあった。
「仮にその原初の悪?・・・と言うのを呼べるとして・・・Fランク召喚獣すら呼べない私みたいな人間が、この呪文を唱えて本当に・・・その、呼べるん・・・ですか?」
そう、いかに強大な力を持つ召喚獣であっても、術者の魔力やそれに見合う能力が無ければ、契約どころか召喚すらできないことも、多々あるのだ。Fランク召喚獣すら呼べないリーシェは、そもそも召喚すら出来ると思っていないのだ。
『汝は原初の神に選ばれた者、斯様なことを気にすべきことではない。しかし、汝が心許なし言うならば、原初の悪の触媒たる、印章を授けよう。』
「印章?」
そう言うと、本の文字が消え、突然眩い黄金色の光を放ち始めた。リーシェはその眩しさに思わず手で顔を覆い隠した。
10秒もしない内に光が収まり、恐る恐る手の隙間から覗くと、そこには手のひら大の表紙の奇妙な魔法陣と同じ刻印金でできたネックレスが、そこにはあった。
ゆっくりとリーシェの目まで来た、手を差し出すとゆっくりと舞い降り、手のひらに収まった。
見た目以上にずっしとして重かった。やっぱり本物の金で出来ているらしい。
「きれい・・・」
素直な感想だった。リーシェは農民であったため、宝石や貴金属などの類は見たことがなかったため、こんな非現実的な状況にもかかわらず、黄金色に輝く傷一つない本の表紙と同じ魔法陣刻印の施された、印章に魅入ってしまっていた。
「凄い・・・細かい。」
表の刻印も緻密だが、裏の刻印は、中心に三対六枚の翼を広げた膝立ちで両手で顔を覆っている人と、その人を囲むように7つの七芒星に時計回りに蝙蝠、狼、蛇、熊、狐、蠅、山羊が描かれた、表の刻印より遥かに複雑で緻密な刻印が施されていた。
『その印章は彼の原初の悪の象徴そのものである。召喚の際は、その印章を掲げ、深淵の呪禁を唱えよ。さすれば、彼の原初の悪は汝の呼び声に必ず応えよう。』
「つまり・・・これを掲げて、さっきの呪文を唱えれば、召喚出来る・・・と言うことだね。」
リーシェは印章を掲げるポーズを取りながら、本を方を見た。
『叱り、それで汝の願いは成就する。汝の運命は今動き出した。』
そう告げると、本はひとりでに閉じ、右端の方から黒い光の粒子となって消え始めていた。
「えっ、ちょっと待ってください、まだ聞きたいことが―――」
リーシェは本に手を伸ばす。
『勝利者たる資質を持った者よ、汝の未来に勝利あれ―――』
「勝利者って、どういう―――」
リーシェが言い終わらないうちに、何か気になることを言い残して、本は完全に黒い光の粒子となって消えてしまった。
「はぁ〜。なんだったんだろう一体。」
左の手のひらの上にある、金の印章を眺めながら呟いた。
「まぁ、いいか、帰ろうかな。」
テーブルの上に山積みになった本を1時間掛けて片付けてからこの日はリーシェは帰路についたのだった。
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