序
これは友達の友達から聞いた話なんですけど、話しても大丈夫ですか?
そういう話が知りたいんですね。
なら、話しますね。
数ヶ月前に起こった修学旅行バス転落事故って覚えています?
修学旅行に行くバスが崖から転落して、乗っていた高校生とかが全員死んでしまった凄惨な事故だった、あれですよ、あれ。
ガードレールを破壊して転がるように谷の底に落ちていっただけじゃなくて、ガソリンに引火しちゃって、バスが爆発しちゃって、誰も助からなかったっていうのは、不幸な連鎖でしたよね。
たしか、すぐに爆発しちゃったから、誰も逃げ出す事ができなかったって警察で発表していましたよね。
そんな状況になったら、私だって逃げ出す事なんてできないで死んでいますよね、きっと。
あなただってそうですよね?
あ、話が逸れちゃいましたね。
それじゃ、話を本筋に戻しますね。
その事故があった数日後の夜の話らしいんですけど、友達の友達が彼氏の車に乗って、その事故現場の近くを通ったそうなんですよ。
デートの帰りだったらしくて、二人とも盛り上がっちゃって、近くのホテルに行こうとしていたんですよ。
運転しながら彼女にキスとかしちゃったりしていた時だったそうですよ。
彼氏の方がふらふらと歩くゾンビみたいな人影を見たんだそうです。
車を運転しているんだから前を見ているから見て当然ですけどね。
こんなところを人が歩いているなんて珍しい、彼氏の方がそう思ったそうなんですよ。
『変な奴がいるな』
彼氏はそんな事を言っちゃったんで、彼女が彼氏の視線を追って、その人影を見たんですよ。
初めは暗くてよく見えなかったそうなんですよ。
『ッ!?』
一瞬、月の光に照らされて、その人の姿がはっきりと見えちゃったんだって。
『と、飛ばして! ここから逃げないと!』
彼女は顔を真っ青にさせて、そう叫んだそうです。
『どうしたんだよ、急に』
『いいから、早く!』
彼女の様子が尋常じゃなかったので、彼氏は言われるまま、アクセルを踏んで逃げるように車を走らせたそうです。
『何があったんだよ』
ある程度まで来たところで、彼氏がそう訊ねたそうなんですよ。
『……見ちゃったの』
彼女は全身をがたがたと震わせながらそう答えたんだって。
『いったい何を見たっていうんだ?』
『見なかったの? あの人、全身黒焦げだったの……。黒焦げだったのよ! きっと……きっと……あのバス事故で死んだ人の幽霊よ……』
彼女は見てしまったんですよ、きっと。
男か女かも分からないほど黒焦げになっていたあの事故で死んだ人の幽霊を……。
それで、ホテルに行くような雰囲気じゃなくなっちゃったんで、二人はそのまま帰ったそうなんですけど、その次の日、二人とも38度以上の高熱を出しちゃって寝込んだそうなんですよ。
しかも、数日間ですよ、数日間。
その話を聞いて、みんな言っているんですよ。
あの事故で死んだ高校生全員の怨みによる霊障じゃないかって。
だから、あそこの道を避ける人が多いんですよ、最近だと。
だって、たまに見ちゃう人がいるんですよ。
あの事故で死んだ、たくさんの高校生の幽霊を……。