あらすじ物語 あらモノ1
ボイッシュ村に住む少女、カノンはアルマと呼ばれるエネルギーを調査する学者一行に同伴した貴族の娘、セシリアと出会う。
セシリアに案内を頼まれたカノンであるが、何故か川岸でアルマの講義とアルマを利用する道具、木符について知ることに。
木符を学んだカノンはセシリアが村を訪れた理由を聞くのであった。
それは――――ひとりの男を探すこと。
「で、誰を探してるわけ?」
「それはわたくしの過去に関係がありますの。実はわたくし、この村には一度きたことがありますの。そのときにお会いした人を探しているのですわ」
「へー……」
「あら? もしかしてどんなことがあったのかお聞きしたいのかしら?」
「え。あー、いや別に」
「いえいえいえいえ。そんな謙遜なさらずとも気になってしまうのはとてもとても自然なことですわ! まあわたくしがあの方とどのように出会ったのかなどはわたくしの心の奥底に大切にしまわれている記憶ですので、そう簡単には教えることはできませんわね!」
「うん。だから別にそこに興味はなくてね」
「まあまあまあ。そんなに気になるのでしたら教えて差し上げることもヤブサカではないのですけれど、それを話すにはもう少し時間に余裕があるときでないと話せませんわあ」
「聞いちゃいないね」
「あれはそう――――わたくしが足を怪我してしまい、療養でこの村を訪れたときの話ですわ」
「結局言うのね。知ってた」
胸焼けを起こしそうな甘ったるい回想だと思いながらも、川を下り、ふたりは村への帰路へと着く。
「一応、ひとつだけは確認するけど。その思い出の人ってのは、同年代なわけ?」
「そうですわねー。当時のわたくしと背丈はまったく変わりませんでしたわ」
「そう。ならちょっと、見つからないかもよ」
「はい?」
夕暮れのなか、村へと戻りセシリアを宿泊する場所へと案内する道すがら、カノンは説明を始める。
「ちょうど向かいの道を歩いてるのが、四つ年下のレンくん」
レンという少年は俯きながら歩いており、不審に思ったカノンが「レーン!」と、声をかけた。
すると、こちらを視認した後に、ぎょっとした顔となり、一目散に家へと引っ込んでいくのであった。
「あれ?」
「あなた。嫌われてますの?」
「いや、いま『私』じゃなくてそっちを見たような……?」
「まあ失敬な」
「まあそれは置いといて。あとは向こうでお姉さんを口説こうとしているヨハンくん」
カノンの指差す方向では、村人の女性を壁まで押し込み、言い寄る金髪の男の姿があった。
「ああ。またやってる」
カノンが言うと、言い寄られていた女性の平手がヨハンの頬を打った。
「うん。これで全員。村で年が近いのはあの二人だけ」
「なんですって……」
嘘だといってよ、という顔で凝視してくるので黙ったままに首をふった。
「一応聞くけどあの二人じゃないんだよね」
「……ええ。レンという少年では小さすぎますし、なによりわたくしがお会いした方は黒髪でしたので、金髪のヨハンという方とも違いますわ。……まさかとは思いますがなにか過去に大変な事件があってヨハンさんの髪の色が変わったなんてことは」
「ありませんね」
丁寧に返すと、ほっとした様子で息を吐いた。
思い出の人がナンパ男に成り下がっているわけではないことに安心しているのだろう。
しかし、セシリアの探す人は結局見つかることもなく、その日は日暮れを待たずに分かれるのであった。
そして、事件は起きた。